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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第三章「四歳の夏」
35/105

35 夏の妖精


「それができたらいいんじゃが、季節も季節じゃからな……明日まで分体を維持できるかどうか……」

「分体?」

「ん、ああ。わしの本体は王都におるからの」


 驚いた。この全長30cmくらいの体は本体じゃなかったのか。

 となると、やっぱり本体はもっとデカいんだろうか。

 ていうか、勝手に消滅しちゃうなら、飲み食いする必要なかったんじゃないのか?

 いや、むしろ酒で酔わない食べても太らないってなると、いい事でもあるのか?


「こら、なにか失礼なことを考えておるの?」

「あっ、ごめんなさい」

「まあよい。問題は今からどうするかじゃな。自分で言うのもなんじゃが、ワシがいない状態で妖精に関わるのはおススメせんぞ」

「そんなに……」


 まあ聞く限り、警戒するに越したことはなさそうだ。

 そうなるとますます、今日はやめといた方がいい気もしてきたが……


「……ん? どうした?」


 ついアーネスの方を向いてしまったが、ここにはダイアーもいる。

 リーラントも含めて、保護者は二人いるわけだし、これより安全な状況は、今後ないかもしれない。


「アーネスは、妖精に会いたい?」

「そりゃまあ……」


 うーんだよな。

 いっそのこと一年後でも……とは思ったけど子供時代の一年なんて長すぎる。

 ましてや、言ってしまえばこの場所だって、いつ海賊の襲撃があるかわからないんだろう?

 だったら、今のうちに護身の手段というか、新しい妖精歌を覚えておいた方がいいのかもしれない。


「……よし」

「決めたか?」

「はい。ひとまず、遅くなるまでは妖精を探してみたいと思います」


 時間制限を設けて、探すだけ探してみる。

 正解がある話でもないと思うけど、これは悪くない選択だろう。


「よく言ったね! キミの選択は正しいよ!」

「ありがとうございます」


 リーラントもこう言ってることだし、間違ってはいないはずだ。


「レーダ! そいつから離れるのじゃ!」

「えっ?」


 そいつ?

 あ、よくよく考えてみたら今の、リーラントの声じゃないか?

 考えてみればリーラントに比べると男性的で、いたずらっぽい子供のような声だった。

 だったら、今俺が会話したのは一体?


「よっと、ごめんね」

「うおっ?」


 考えていたら、体が持ち上がってしまった。

 見てみると、ダイアーが俺を抱きかかえている。

 しかも、片手だけでだ。

 もう片方の腕には、アーネスが抱えられている。


「やだなぁ。そんなに警戒することないじゃないか」

「辺り一面をこんなにしておいてから言うことかの?」


 そう言われて、抱えた腕から降ろされたところで気付いた。

 話に気を取られた一瞬で、浜辺に霧が満ちている。

 数歩先の砂浜も見えないほどの濃霧に包まれて、異様な空間に変容している。


「あれは夏の妖精だね。この時期にもいるもんだな」


 声の正体は、これまた体長30cmほどの人影。

 それは、水色の髪を伸ばし、青い紳士服に身を包んだ、華奢な少年の姿をしていた。

 美しい容貌ではあるが、その美しさが不気味でもある。


「パパ。落ち着いてるけど、大丈夫なの?」

「それはわからない。でも、警戒は僕とリーラントがするよ」


 その言葉通り、ダイアーの声色は真剣そのものだ。

 だったら、俺も多少なり警戒はするべきだろう。

 アーネスも同じことを思っているのか、俺が目を向けると、無言でこちらを見て頷いている。

 その瞳に映るのは、妖精への憧れではなく、精一杯の警戒心だ。


「あらあら、本当に警戒されちゃって。でもいいの? そんなに距離を取っているけど、結局はボクと契約したいわけなんでしょ?」

「それはそうですが……」


 どうせ妖精に会えたのなら、確かに契約を結びたくはある。

 使える妖精歌が増えれば、今後の人生が、多少なり生きやすくはなるだろう。


「だったら話は早いじゃない! ボクの試練を受けていきなよ!」

「歌でも歌えばいいんですか?」


 だけど、身の危険があるのなら、話は別。

 ダイアーもリーラントもいるとはいえ、大切な人に危害が加わるようなら、俺は迷わず申し出を断るつもりだ。


「嫌だな、そんな子供だましみたいな。そんなわけないじゃないか」


 子供だましって……失礼だな。

 リーラントの本来の試練だって、歌の披露だったはずなのに。

 まあアレは、普通突破できないらしいけど。


「ネルレイラ王との契約にかけて。僕の試練は簡単さ」


 さておき、謎の妖精は話を続けるつもりのようだ。

 こういうの、聞き入っていいのかどうかはわからないけど、下手にダイアーやリーラントに話を振って、警戒を緩めさせるのも避けたい。

 俺が無言で頷いて返答を待っていると、そう時間もかからずに、夏の妖精は口を開いた。


「君たちには今から、宝探しをしてもらう」

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