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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第三章「四歳の夏」
33/105

33 いつかの夢


 身体が横になって、何かに揺られている。


 なんだ……?

 息が、できない?


 呼吸が苦しい、というよりは、胸が痛い?

 あばらも痛いし、背骨も痛い。

 自分の内側に、何かが刺さっているような気がする。


 え、俺、さっきまで海に居たよな?

 海で……みんなと一緒に居たよな?

 俺、アーネスとノエルと一緒に、海に入って、それで……


「かはっ」


 喉が詰まった気がして、咄嗟に何かを吐き出した。

 びちゃりと言う音が聞こえる。

 見てみると、床が赤黒く染まっていた。

 木製でカビだらけの床に、血だまりができている。


「わーたーしーの船を汚すんじゃーあない!」

「がっ!」


 背中に衝撃。

 蹴り飛ばされたような打撲感。

 全身で転がって、二度、三度床に身体が打ち付けられた。

 痛い。何が起こってるのかわからない。


「船長。女の方は無事ですが、こいつはもう死に掛けですよ」

「みーれーば、分かる」


 死に掛け? 俺が?

 俺、死ぬのか?

 え、だって俺、まだ4歳で……

 いやでも、女の方って、俺のことじゃないのか?

 だって、俺は、女の子で……


「つーかーいーものにならん! うーみーにーでも捨てておけ!」 

「アイ、サー」


 また横腹に、蹴りを入れられた。

 何度も何度も蹴られ続けて、床を転がされる。

 痛みと、窒息感と、衝撃で、頭が働かない。

 視界がぼやけて、暗くなって、薄れていく。


 完全に見えなくなる直前に、何とか視界に捉えたのは、

 コート姿でやけに長身すぎる男と、真っ白い肌の大男だった。


「じゃあな」


 やがてそれも遠ざかって、ドボンという音が聞こえた。


***


 ……肩を揺すられている?


「レーダ?」


 聞きなれた声が聞こえて、瞼を開いた。

 冴えたオレンジ色の光が目に飛び込んできて、潮のにおいが鼻につく。

 心地よい波の音まで聞こえてきたところで、俺が今、海岸にいることがわかった。


「大丈夫かい? うなされていたようだけど」


 ダイアーに言われてやっと理解できた。

 そうか、さっきのは夢だったのか。

 随分現実味のある夢だったけど……


「ううん……大丈夫」


 まあ、夢は夢だ。

 理解しようとするものではないだろう。

 しかし、俺はどのくらい寝ていたんだろう?

 というか、いつ寝たんだ?


「そっか……なら、そろそろそこからどいてあげた方が良いかもね」

「え?」


 言われて気づいた。

 俺は今、何かを下敷きにしている気がする。

 両腕を何かの上に添えているし、なんだったらさっきまで頭も乗せてしまっていた気がする。

 というかこの感じ、何か、じゃなくて、誰か、だな……


「あ、アーネス……」

「……重いんだよ」


 そうだ。

 俺、アーネスが起きるまで待ってたら、一緒に寝ちゃってたんだな。


「そっちは大丈夫?」

「だったら寝かされてないだろ」


 事の流れとしては簡単だ。

 はしゃいだノエルと一緒にアーネスを海に連行したら、俺以外の二人が二秒で溺れ始めてしまったのだ。

 ノエルはしょうがないと思うが、アーネスはカナヅチだったらしく、ちょっと水に浸かっただけで気絶してしまって大変だった。

 ダイアーとミナの助けもあったから、大事にはならなかったけど、流石に普段着で泳ぐのは危なかったな。

 反省だ。


「あ……お姉ちゃん起きた……?」

「ノエル……ごめんね。大丈夫だった?」

「うん……」


 見てみると、ノエルは随分お疲れのようだ。

 空も色づき始めているし、幼児の体力なら当たり前だろう。

 随分無理をさせてしまったな。


「いい時間だし、お姫様もお疲れみたいだし、私はノエルと先に戻るわね」

「えー、やだー。私まだ遊びたい……」

「もう、目も半開きじゃないの。いいから帰るわよ」


 ミナの言葉で、ノエルが抱きかかえられてしまった。

 ぽこぽこと肩をたたいているが、全く力が入っていないな。


「二人で大丈夫?」

「大丈夫よ。私も妖精歌は使えるし、危険があるような森なら最初から住んでないもの」

「そっか……気を付けてね」


 そんな会話を終えたところで、ミナはノエルを背負って行ってしまった。

 ここから家まで、そう離れているわけではないし、ダイアーも見送っている様子だし、まあ大丈夫だろう。

 ともあれ、これからどうするかだけど……そうだ、結局なんでここにきたんだっけ?

 あ、ていうか……


「そうだパパ、リーラントは……?」

「いいところに気が付いたね、レーダ。見てごらん」

「え?」


 そう言って、ダイアーが目線を向けた先は、彼の足元だった。

 そういえば、ずっと微動だにしていないとは思ったけど……


「ふごー。ふごー」


 すっかり出来上がった様子の妖精が、ダイアーのズボンをめくりあげ、すねにしがみついてしまっている。

 サイズも相まって、コアラみたいだ。


「妖精って、こういうものなのか……?」

「普段はすごい人なんだよ……普段は……」


 あきれ果てたアーネスの表情は、少し悲しそうにも見えた。

 もしかすると、アーネスが大人しくノエルに連れられてきたのは、妖精に興味があったからだったのかもしれない。

 だとして、もしアーネスの妖精像を壊してしまっていたなら、悪いことをしてしまったな……

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