32 ウェミダー!!
ダイアーが管理しているからか、森の中は静かなもので。
俺たちは村とは反対側、海の方に向けて、森の中を抜けることができた。
とはいえ、何の障害もなかったかと言えば、そういうわけでもなく……
「海だー!」
「ウェミダー!!」
「海じゃねぇかふざけんな!」
ふざけんなって……付いてくるって言ったのはお前だろ。
そう、本来ならリーラントと二人きりのはずだった野外学習は、随分賑やかになってしまっているのだ。
経緯は簡単で、海にいくための事前準備をしていたら、ノエルたち一行が、昼食を食べに戻ってきてしまったのだ。
初めての村探索を終えて、ノエルは随分ご機嫌な様子だったが、リーラントの姿を見た瞬間、目の色を変えてしまったのである。
結論として、押しの強すぎるノエル相手に、リーラントは負けてしまった。
その結果として、テンションが有頂天に達したノエルを止めることは誰にもかなわず、ついでにアーネスも強制同行というわけだ。
最も、彼の場合は、仲間はずれを嫌ったみたいだけどな。
「まあ、どうせなら人数は多い方が安全じゃろ……」
とは、ノエルのわしゃわしゃハグによって疲れ切ったリーラントの言葉である。
というわけで、この海岸には今、俺、ノエル、アーネス、リーラントがいるわけだが……
「さて、海岸に着いたことだし、ご飯の時間にしましょうか」
「僕は敷き布を広げておくよ。レーダ、荷物をお願いしてもいい?」
「わかった」
これだけ子供が多いと、流石に保護者も必要だ。
一応、俺とリーラントは保護者をできなくもないが、ちゃんとした大人も必要である。
というわけで、ダイアーとミナも参戦したフルパーティである。
ランチタイムも、まだ済ませていなかったからな。
小屋の留守番は……まあ、もういいらしい。
どうせ訪ねてくる人も滅多にいないし、盗られて困るようなものは、しっかり隠しておいたそうだ。
元々、半分は自習目的だったし、家主がいいと言うなら、いいのだろう。
「ねぇねぇアーネス! 今のうちに泳いでみようよ!」
「は? なんでだよ!」
ノエルは自由に歩き回れるようになったせいか、以前にも増して活発だ。
アーネスは随分振り回されているようだが、こちらとしては微笑ましいね。
この一年で二人ともすくすく育ってくれて、お姉ちゃんは嬉しいよ。
いやまあ、アーネスは俺より年上だけどさ。
「ピクニックじゃないんじゃぞ……」
「ごめんね。リーラント騒がしくして」
「……まあよいわ。わしも、騒がしいのは嫌いではない」
ハハハと苦笑いを浮かべているが、なんだかんだ、リーラントも楽しそうだ。
リーラントだけではない、ダイアーも、ミナもノエルも、ノエルに振り回されているアーネスも、何だか楽しげな表情をしている。
「おうダイアー! わしの予定を狂わせたんじゃ。当然酒は用意しておるじゃろうな!?」
「もちろんだともリーラント! なんなら、つまみもたくさん持ってきたよ!」
「あら、じゃあ私も今日は飲んじゃおうかしら」
なんか、いいな。こういうの。
この世界に来て4年目。
いろいろあったけど、なかなか楽しい暮らしを続けられている。
「くっそレーダ! 助けてくれ!」
「あっずるい! 私だってお姉ちゃんと遊びたいのに!」
「遊びたいわけじゃねぇよ! お前を何とかしてくれって言ってんだ!」
「えーひどい!」
可愛い妹も、友達もできた。
いろいろと教えてくれる先生も、面倒見のいい母親も、尊敬できる父親もいる。
本当に充実していて、幸せだ。
「よーし! せっかく海に来たんだし、三人で泳ごうか!」
「やったー!」
「嫌だって言ってんだろ!」
「なんでよ!」
「俺泳げねぇんだって!」
「そんなの、やってみないとわからないんじゃない?」
「本当にだめなんだって! やめろっ……やめろー!」
こんな日々がずっと続けば……ずっと幸せでいられるだろうか?
答えはわからないが、時々、理由もなく考えてしまうのだ。
俺はこんなに幸せに暮らせていて、いいのだろうか、と。
否定する材料が、あるわけじゃないんだけどな。




