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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二章「赤目のスエラ」
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26 階を隔て

「お邪魔しま……す……」


 声を張った方がいいのか、静かにした方がいいのか。

 よくわからなくなって、微妙な声量になってしまった。

 入ってすぐの場所は、案外明るい。

 元々、雑貨屋だって言ってたし、光が入りやすい作りになっているのかもしれない。


「結構、綺麗にしてるんだな……」


 外観は不気味だったが、中は案外整っている。

 物が散乱しているようなこともないし、蜘蛛の巣が張られていたり、床にネズミが走っていたりするようなこともない。

 しかしながら、生活感があるわけでもない。


「時間が止まってるみたいだ……」


 雑貨屋だったスペースが、そのまま維持されてるっていうんだろうか。

 棚の上にはよくわからない小物が乗ったままだし、子供一人で動かせないような、大きな樽や木箱なんかは、そのまま放置されている。

 かと言って、その間に塵やホコリが積もっているわけでもない。

 今日はまだ開店前で、今から店を開けるのだと言われても納得してしまいそうだ。


「人の家に無断で踏み込んで楽しいか?」


 突然、上の方から声が聞こえる。

 一瞬、天の声かなにかかと思ったが、そんなわけはない。

 ここは二階建てだし、部屋の隅には上に上る階段が見えているし、そもそも、この声には聞き覚えがある。


「アーネス……」

「その声……お前、レーダかよ」


 お互いに、気が付いたようだ。

 階を隔て、俺たちは言葉を交わす。

 旧知の友ってわけじゃないけど、流石に昨日聞いたばかりの声くらい、覚えている。


「話せて嬉しいよ」

「お世辞はいらない。要件を言え」


 随分冷たいな。

 まあ、それもしょうがないか。

 負い目を感じている相手と、話をするのは苦しいものな。

 でも、だからといって、俺の目的は変わらない。


「アーネスと話したい」

「……」


 はっきり言って、俺はアーネスのことを何も知らない。

 どういう事情を抱えているのかわからないし、いきなり俺に襲い掛かってきた理由もわからない。

 それを知ろうにも、俺には知り合いが少ないし、三歳児の体じゃ、取れる手段にも限界がある。

 でも、ダイアーやミナから、アーネスのことを聞いて済ませてしまうのは、きっと違う気がする。


「直接話して、アーネスのことを知りたいんだ」


 そうして、言葉にしてみれば、俺の考えはまとまった。

 俺は誰かの噂話じゃなく、本人の口から、事情を聞きたいんだ。


「……なんでだよ。別に、ほっときゃいいだろ」

「それはできない」

「……なんで」


 なんでってそりゃ……なんでだろうな。

 たしかによくよく考えてみれば、アーネスと出会ってから、まだ一日しか経っていない。

 嵐のような一日だったけど、それでも、一日。

 そこまで入れ込む理由は……ないかもしれない。

 それこそ、広場の子供たちと、仲良くなればいいのかもしれない。


 ……でもさ、それは絶対、違うだろ。


「俺は、アーネスと仲良くなりたいんだよ」

「だから、なんで」


 なんでだろうな。

 イタズラを仕掛けた時、いいリアクションを返してくれるからか?

 アーネスの境遇が、可哀想だと思ったからか?


 たしかに、それもあるかもしれないな。

 この子なら、弱みに付け込んで、友達になれると。

 自分のことを特別に思ってくれるかもしれないと、思ったからかもしれない。


 でも、それってそんなに、複雑なことなんだろうか?


「アーネスは……友達になろうって言ったら、友達になってくれた」

「それだけか」

「いや……」


 きっと、それだけじゃない。

 でも、そこまで複雑でもない。

 言葉はすぐにはまとまらないけど、何となく、わかっている。

 理由を取り繕う必要はない。


「友達になろうって言ったとき、ちょっとだけ照れて、受け入れてくれた」

「……」

「家に泊まって行きなよって言ったり、ご飯を食べていきなよって言った時も、困ってたけど、受け入れてくれた」

「……」

「星空を見ようって言った時も……」

「要するに、都合がいいってことか?」


 言葉を遮られて、黙ってしまう。

 都合がいい、俺にとって都合がいいから、傍にいたいだけ。


「そうかもしれない」

「……そんなの、ダメだろ」


 確かに、褒められたことではないかもしれない。

 俺がアーネスに働きかけて、アーネスがそれを受け入れて。

 ある意味では、自分の欲求を満たすために、利用しているだけ……


「……それの何が悪いの?」

「は……?」


 はたからの視点がなんだっていうんだ。

 友達らしさがなんだっていうんだ。

 俺がアーネスを家に誘ったり、ご飯を食べさせたり、友達になりたいと伝えたり、夜空を見ようと誘ったりしたのは、そうしたいと思ったからだ。


「俺は、アーネスに受け入れてもらえて嬉しかったから、友達になりたいと思った」

「……だったら、なんだよ」


 ああ、やっぱりアーネスは、優しいんだな。

 おかげで、自分の中の気持ちに、整理がついた。

 後はこの気持ちを、声に載せるだけでいい。


「俺だってアーネスに友達でいたいと思ってほしい」

「……」

「だからちゃんと話して、俺にアーネスのこと、受け入れさせてくれ」


 アーネスを受けいれて、友達を続けたい。

 それが俺の、素直な気持ちだ。


「……だったら、聞いていけ」

「うん」


 もちろん。

 もう、君の話を聞く準備はできている。


「俺の秘密を、教えてやる」


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