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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二章「赤目のスエラ」
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25 不気味なボロ屋


 とは言え、俺も三歳児だ。

 人通りの少ない場所は避けた方が良いだろう。

 かといって、仕事中の大人を当たって、作業や仕事の邪魔をするのもよくない。

 ここはやはり、三歳児が話しかけても愛相良く答えてくれそうな人に当たるのがいい。

 となるとやっぱり……


「レーダちゃんがまた来てくれてうれしいわぁ」


 治療院のお年寄りが第一候補だろう。

 今日の礼拝堂は、前に来た時ほど賑わっているわけではないが、一人一人から聞きこみをする分には、むしろ都合がいい。

 というわけで、今回お話をお聞きするのは、こないだも礼拝堂にいた、ふわふわした雰囲気が特徴的なおばあちゃんだ。


「それで、何が聞きたいのぉ?」

「実は、アーネス君の噂について聞きたくて……」

「……アーネスくんねぇ」


 本題を切り出すと、おばあちゃんは少し黙って、難しそうな表情をしてしまった。

 やっぱり、噂って言うだけだと話し辛いか?

 もうちょっと具体的に聞いた方がよかったかもしれない。


「あの子について喋ると、陰口みたいになっちゃうから……」

「えっ、どういうことですか?」

「あら、知ってて聞いたんじゃないのぉ?」

「いえ、全く」


 何となく、良い噂が立っているわけではなさそうだと、察してはいたが……


「まあ、年寄りがあんまり口出しするのも悪いし、実際に広場で聞いてみると良いと思うわぁ。こういうのって、若い人のほうが詳しいでしょお?」


 確かにそれもそうだ。

 同年代のことは、同年代に聞くのがいい。

 というかこの村にも子供の集まる広場ってあるんだな。


「そうですね。ありがとう、おばあちゃん!」

「いえいえ、よかったらまた、声かけてねぇ」


 いっそのこと、そこで新しい友達を作ることも……なんて考えも頭によぎったが、何となく、それは不誠実な気がする。

 それに、俺だっていきなり、浅くて広い関わりが欲しいわけじゃない。

 まずは深い繋がりが……そうだな、親友が欲しい。


 勇気を出してお泊まり会までしたんだ。

 最初の友達を諦めるには、まだ早いだろ?


***


「だからあいつ、ヘンタイなんだぜー!」

「ははは……そうなんだ」


 調査を始めて数時間。

 アーネスに関する噂は、碌なものがない。


 曰く、アーネスは怒りっぽく、ちょっとイタズラを仕掛けただけで、馬乗りになって殴りかかってきただとか。

 曰く、アーネスは不真面目で、治療院に臨時の先生が来ても、授業を受けようとしないだとか。

 曰く、アーネスはヘンタイで、ちょっと話しただけの女の子に覆いかぶさって、襲おうとしたとか。


 何となくだけど、そんな噂の数々は、かなり脚色されているのだろうと思う。

 事実、俺はアーネスにいくつものイタズラを仕掛けた自負があるが、まだ一発も殴られてはいないし、治療院で授業を受けないのも、聖印が苦手だからだとすれば納得がいく。


 問題は、最後の噂。女の子を襲ったという話が、誰からも共通して聞けてしまったことだ。

 これに関しては多分、まるっきり嘘ではない。

 おそらく、アーネスは異性と接することに関して、何かしらの困難を抱えているのだろう。


 その困難の正体はわからないが……


「てか、お前アーネスのこと気になんのかよ」

「え、ああ、うん」


 おっと、聞き込みの最中で考え込んでしまっていたか。

 失礼なことをしたな。

 すまない少年。

 坊主頭のわんぱくこぞうよ。


「ふーん……だったらさ、あいつの家、行ってみろよ」

「家?」


 そっか、両親が亡くなってしまっただけで、アーネスも家はあるんだよな。


「ああ! あいつの家、すっげー不気味なんだぜ!」


 ははーん、なるほど。

 この感じ、アーネスの家はどうやら、肝試しスポットみたいな扱いをされているらしい。


「行って帰って来れたら、俺たちの仲間に入れてやってもいいぞ!」


 正直、坊主少年のグループにあんまり興味はない。

 だが、アーネスに関しての情報が得られるなら、乗って悪い話ではないな。


「よし、教えて!」

「そらきた! 案内してやるよ。女がどこまでやれるかな……?」


 なんか親切だな、この少年。

 ちょっと頬赤らめてるあたり、容姿ボーナスが効いていると見た。

 いいね。お姉ちゃんそういうの嫌いじゃないぞ。

 最も、この少年だって、三歳児より弟分ってことはないだろうけどな。


 ともあれ、アーネス調査隊に新たな仲間が加わった。

 この調子で、密林の奥深い秘境にだって到達してみせるぜ……!


「じゃあ、俺、ここでまってっから!」

「え?」


 歩きながら考え事をしていたら、そんな声で思考がブツ切られた。

 え? だって俺まだ密林の奥地にも、大空洞の入り口にも到達してないぞ?

 というか、広場から5分くらいしか歩いてないじゃねぇか。


「いつも鍵かかってないから、入っちまえよ!」

「あ~……ええ?」


 言われてみれば、俺の眼前には、何やら大きくて不気味ボロ屋が佇んでいる。

 小屋にしては大きい。

 ちゃんとした一戸建てって感じだ。

 二階建てで、もしかすると、屋根裏部屋もあるかもしれない。

 明らかに手入れはされていないし、人の気配もしないけど……ほんとにここなのか?


「なんだよ。ビビってんのか?」

「え、だって……勝手に入っちゃダメでしょ」


 考えてみれば、留守だから、入るというのはおかしい。

 両親が亡くなっているとはいえ、アーネスの許可は必要だろう。


「いいんだよ。元々雑貨屋だったんだし、ここにほら、営業中って書いてあるらしいし!」


 坊主がそう言って見せてくれたのは、ほこりを被ったボロの立て看板だ。

 いや、たしかに営業中とは書いてるけど、動かしてないだけだろ、それ。

 うーん……明らかに不法侵入だと思うが……


「ま、やばそうならその時謝っときゃいいって」

「そうかな……」


 ま、まあ、せっかく案内してくれたのに、立ち入らないのもまた不作法か……

 万が一なにかあったら、子供のやったことで許してくれ。

 いやまあ、許す相手も子供だから、子供であることが免罪符にはならないかもしれないけどさ……


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