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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二章「赤目のスエラ」
22/105

22 夜空の下で


「あ、レーダ」


 裏手から小屋の玄関に戻ろうとしたところで、ミナに声をかけられた。

 窓に肘を置いて、外を眺めていたようだ。


「ママ、なにしてるの?」

「ああ、星を見てたのよ。今夜は珍しく、雲もないでしょう?」

「ああ」


 そういえばそうだ。

 夏の始まりということもあって、最近は雨か曇りが続いていたから、言われてみれば珍しい。

 どれ、俺もちょっと眺めてみようじゃないか。


「……わあ。ほんとにきれい」


 森の中ということもあり、本当に星がよく見える。

 小さな星は、日本の都会と比べ物にならないくらい多く、大きな星は、見たことがないほど強く、まばゆい光を放っている。

 なるほど、たしかにこれはずっと眺めていたくもなるだろう。


「……ところであなた、アーネス君と仲良くなるために、わざわざ口調を変えたでしょう」

「あ、やっぱりばれてた?」

「もちろん」


 できるだけフレンドリーさを意識していたら、中性的な口調になっていた。

 生まれ変わる前から、あまり他人と話してこなかったせいだろうか。

 話す相手によって、コロコロ口調を変えてしまっているな。


「でも、そのほうが仲良くなりやすいものね。いい事だと思うわ」

「そうなの?」

「ええ、女の子として生きるなら、外見だけじゃなく、言葉でも着飾れるようにならないとね」

「なるほど……」


 そう言うと、ミナはまた空の方に目線を向けてしまった。

 ここから「私も若いころはね……」と続かないのがミナのすごいところだ。

 こちらから聞かなければ、箱入り娘時代のことは教えてくれない。

 いつかいいタイミングでインタビューしたいと思わされてしまう。

 転生前、秘密が女性を魅力的に見せるって言葉は聞いたことがあるけど、こういうことなのかもしれないな。


「あ、そうだ。アーネスはまだ起きてる?」

「もちろん。なんだったら、呼びましょうか?」

「ううん、自分で呼ぶよ」


 家の構造的に、ミナとアーネスは同じ居間にいるはずだ。

 ここからでも、声を張れば呼べるだろう。

 せっかくだし、少し仕掛けてみるか。


「アーネス! こっちに来てよ!」


 窓の横に張り付いて、中から姿が見えないように、声をかける。

 フリフリフリルのお披露は、衝撃的なほうがいいだろう。

 ミナも俺の意図に気づいたようで、やれやれって感じの顔をしながら、窓からどいてくれた。


「なんだよ。大声出して」

「夜空が綺麗だから、外に出て一緒に見よう!」

「……別に、窓から見れるだろ」


 それはそう。

 だけど、窓から見るのと、二人並んで見るのとじゃ、風情が違うだろ?


「アーネスと一緒に見たいんだ。きっと、いい思い出になるよ」

「……なんだよそれ」


 不満気にも取れる言葉。

 でも、その声色は、少し優しい。

 苦笑いを含んでいて、楽しげだ。


「ちょっと待ってろ。靴を履いてくる」


 アーネスも、なかなかノリがいいな。

 よし、だったら俺も、少しサプライズをしてやるか。

 玄関からこちらに来る角に張り付いて、アーネスがこちらに来るのを待つ。


「……ほんとに綺麗だ」


 少しして、足音と一緒にそんな声が聞こえた。

 ちらりと覗き込んでみると、アーネスが空を見上げているのがわかる。

 ちゃんと前を向いて歩かないと危ないぞ?

 ま、今から無理やり、前を向かせてやるけどな。


「アーネス!」

「え?」


 角から飛び出して、両手を広げてポーズを決める。

 夏用、三歳児サイズ、ノースリーブのフリフリフリルワンピースと、白い四肢を見せびらかす。

 どうだ。なかなかの破壊力だろう?

 風呂上がりでツヤを帯びたショートボブの金髪が光って、首筋の白さを引き立てているだろう?

 有り余るファンシーさに充てられて、健康的な男児は無事でいられるかな?


「お前……」


 アーネスは目を見開いて、俺の全身を眺めている。

 顔、服、腕、足、また顔、また服、そして首元。

 うーん、視線が手に取るようにわかるな。

 女性は視線に敏感って話は聞いた事があるけど、俺もしっかりその能力を習得していたようだ。


「どう? かわいいよね?」


 あまりの破壊力に、アーネスは言葉も出ないようだ。

 目を見開いて、身体をフルフルと揺らして、固まっている。

 ひょっとして、やり過ぎたか?

 もしかして、男児の初恋貰っちゃったかぁ~?


「お前、女だったのか?」

「……え?」


 あ……え……?

 いや、言葉の意味はわかる。

 俺の口調は男っぽかったし、髪型もショートボブだったから。


 でも、問題はそっちじゃない。

 なんだその表情は。

 混乱と、呆然と、失望と、悲しみが入り混じったようなその表情は。

 その涙目と、半開きの口と、震えと、絶望は。


 え? 俺、何か間違えたのか?


「っ……!」


 そう思って、俺まで呆然としてしまった直後。

 アーネスは俯いたまま、森へ向かって走り出してしまった。

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