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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二部:第一章「東の海の海王歌」
105/105

105 入港

 係員さん相手の入港手続きを終え、海上防壁の内側へ踏み入れば、今までに見たことがないほどたくさんの船が停泊する港が見える。

 ガレオン船っていうんだろうか? エンタープールの港には、少年マンガの世界でしか見たことが無いような木造船の集団が、不気味なほどきちんと整列していた。


「まるで駐車場みたいだ」

「あー、大型ショッピングモールとかの?」

「そうそう。船にも縦列駐車みたいなのってあるのかな?」

「免許持ってないのに、良く知ってるね」

「……ノエル・ハイマンさんだって持ってないはずだろ」

「そりゃもちろん、今はね」


 そう言えば以前の彼女は、普通車免許も持っていたんだったか。

 ともあれそんな風に俺とノエルが甲板から身を乗り出しつつ、テキトーな感想を述べあっている間、アーネスは何やら他の船員さんと話しに行っていたらしい。

 ちょうど会話が一段落したのか、彼はこちらへ振り向いて、そのまま近寄ってくる。


「なあ、ちょっといいか」

「もーちろんですよ、アーネスさん。ささどうぞ、お姉ちゃんの隣は温めておきましたんで」

「なんだよそれ、どういう意味だ?」

「ノエルの冗談は気にしなくていいんだよ。それで?」


 今は夏だし空気は元々暖かいけど、いちいちツッコんでたらキリがないからな。それよりアーネスが何か話したいようだし、ひとまず話を聞こうじゃないか。


「なあ二人は、冒険家協会って知ってるか?」


 ……それって、どっかで聞いたことあるような?


◆◇◆◇◆


 冒険家協会。それは、ネルレイラ王国が中心となって設立した、国家間連合協会である。公式にはそれ以上の規定はされていないものの、やっていることは実質的な傭兵業のようなもの……であるそうだ。


「随分ふわっとしてるけど、要するに異世界あるあるのアレでしょ?」

「まあ、険者ギルド……みたいなやつか」


 もちろん、アーネスの説明は十分じゃないんだろうけど……それも、これから知っていけばいい。

 なんせ俺たちはもう船から降りて、港町の中に居るんだからな!


「そういえばアーネスは知ってるだろうけど、昔のパパも、冒険家だったらしいよ」

「え、そうなの? ずっと村に居たわけじゃないんだ」

「うん。直接詳しく聞けたわけじゃないけど……パパが書いた本の知識は、これから役に立つかもしれない」

「……あの本か」


 雑談じみた情報を共有しつつ、海沿いの大通りを進んでいけば、ちょうど隅角の方に建物が見えた。


「今更だけど、本当に二人もついてくるつもりか?」

「もちろん。ていうか……なんで?」

「いや、なんでってそりゃ……危ないだろ?」

「えー? アーネスだけで行く方が危なくない?」


 ノエルはそんな風に言っているけど、正直危ないっていうのには完全に同意する。街の治安とか、時期とか情勢にもよるだろうけど、冒険家たちがタチの悪い荒くれものたちだって可能性もあるからな。


「……俺だって、別に一目見てみたかっただけだし」

「うっそだー! 自分一人で冒険家になってお金稼いで、私たちを養おうとしてたくせに!」

「なっ!? そんなわけないだろ!」

「ほほーん。だったらなんでお財布を持っていくのかな?」

「それは……」


 言われて思い出したけど、そう言えば俺たちには金がない。

 もちろん、あの船の船員さんたちに拠点が出来上がるまでの間、当面の生活資金をもらってはいるけれど……これからネルレイラ王国に帰るまでずっと、頼りっぱなしってわけにもいかないだろう。


 なにより忘れちゃいけないことに、俺たちは夜神に追われる立場だ。

 子供だからってひとところに留まり続けるわけにはいかないし……動き続けられる船の上ならともかく、事情をしらない拠点の人たちに庇われっぱなしじゃよくないはずだ。


 俺も丁度、強くならないといけないとって思ってたところだしな。


「冒険家になれば、旅をしながらお金を稼げる。ついでに上手いことやっていければ、自分の身を守る力も身に付けられるかもしれない」


 長々と思案してしまったけれど結局のところそれがすべてだ。

 信頼できる大人たちと大きくはぐれてしまった以上、いつかは訪れるであろう試練に、早めに備えておくのは、決して悪いことじゃないはずだ。


「だとして危険な場所に踏み込むことには、全く変わりないんだけどな」

「まあ、そりゃそうだね」


 アーネスもノエルも、軽い気持ちでここまで来たわけじゃ無い。

 だったら俺も気を引き締めて行こう。


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