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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第二部:第一章「東の海の海王歌」
103/105

103 穏やかに揺れる波

 やあ、改めて久しぶり!

 快晴の下、穏やかに揺れる波の音は心地よく、外気温も快適な東の海上から失礼するのは、みんな大好き金髪美少女のレーダちゃんだぞ!


 もし俺の人生を脳内から眺めている人がいるなら、ネルレイラ王国出発からここまでは全カットされているだろうと踏んでの自己紹介だ!


 まあ、というのも、俺たちはあの日東の海上へと旅立ったあと、夜神の軍勢に攫われた人々を救うための船に乗り込み、表向きは捜索団の一員として2年間、船に乗り続けていたわけだが……

 もう面白いくらい代わり映えのない日々が続いていたんだな、これが。


 正直、一年のほとんどは海上で過ごしていたわけだし?

 例外なんて、たまに島に停泊したりしている間くらいのもんだったし?

 その島に付いても、子供の身でめちゃくちゃ自由行動させてくれるはずもないわけで。


 それでも俺たち三人合わせて船のアイドルみたいに可愛がられてた日々は、決してわるいものでもなかったけど……

 正直まあ、びっくりするほど退屈な日々を過ごしていたわけだな。


 さて、そんなところで本題に入ろう。


 それだけ退屈な日々を送っていた俺が一体どうして今日に限って、改まったような思考の整理を試みているかというと……


「つまりまあ、船長さんが言うには、私たちを乗せていけるのは、次の島が最後なんだってさ」


 甲板上に固定された貨物の上に腰掛けて、ふてくされたようにそう呟くノエルさんによれば。

 どうやらこの先の海は少々どころではなく危険というか、ぶっちゃけ命の安全を保障できないくらいに大荒れな危険地帯であるらしい。

 岩礁が多いから波が高くなりやすく、この世界に当たり前のようにはびこっている魔物も大量に生息しているそうなのだ。


 魔物。一応流石に二年も航海を続けていると、地球では考えられないほど凶暴な生物を、肉眼で見る機会はなくはなかったが……

 正直それはものすっごい歯がギザギザしてるトビウオだったり、体長三メートルくらいのクソデカいペリカンだったり、定期的に船底に齧りついてくるオウムガイくらいのもので、俺の目からすると対して怖くもないやつらばっかりだった。


「お姉ちゃんも知ってるでしょ? クラーケンとか海坊主とか、何だったらリヴァイアサン? みたいな、ドラゴン的な奴とかうようよいるらしくってさ……」

「そりゃあ……危ないな」

「うん」


 あまりにも分かりやすい脅威がはびこっていると聞いてしまったせいか、小学生みたいな感想が口から漏れる。実際年齢的には小学生ではあるんだけど、中身が三十代に突入した人間の発言ではなかったな。


「で、どうするの?」

「どうするって?」

「素直に船降りちゃうのかってこと。一応、危険海域への突入前に他の何隻かの捜索船と一緒に、しばらく暮らせる拠点を構えてはくれるって話だけど」


 流石、我らが妹様は前世でバリバリ事務仕事を頑張ってくださっていたかいあって情報整理が上手い。はっきり言ってまだ何も考えられていない俺と違って、現状に関する情報を何でも仕入れてくれている。


「その、拠点を構える場所っていうのはどんなところなんだろ」

「結構大きめの街だって。いろんな場所から船が来ては、中継地点として利用してる自由港だってさ」

「なるほど……だったらまあ、仕事も見つかるか」


 唯一の懸念事項は海上から離れてしまったら夜神の追手に追いつかれてしまうんじゃないかーなんてことだったけど。少なくともこの二年間、一度も仕掛けてこなかったということは、ダイアーたちの企てた、かく乱作戦はうまくいったと見ていいだろう。


 だったら俺たちはしばらくそこでお金を稼ぎつつ、どさくさ紛れてネルレイラ王国行きの船に乗って帰ることだってできるはずだ。

 一応、子供であることを悪用して、どこかの船に乗せてもらう案も考えたが、周りに信頼できる同行者が居ない以上は、なるべくアシのつかない方法を取るべきだと思う。


「仕事……ねぇ」

「何か引っかかることでもあった?」

「いーや、別に? ただ……」


 意味深に言葉を引き伸ばしつつ、ノエルはその場から立ち上がって、俺の元へ歩いてくる。彼女の少しだけ俺より小さい背丈が目の前まで近づいて、必然的に上目遣いの形になる。


 そうして彼女は人差し指を一本立てつつ……

 俺の鼻先をツンと押して、言った。


「元ヒモ男くんが、立派になってくれたなぁってさ」

「っ……!」


 一応、あの時のやり取り以降、彼女はきちんと、俺の妹として生きようとしてくれているようには思うけど……

 ノエルが時折こうやって見せる、からかってくるような仕草にはいつまで経っても慣れそうにない。


「さ、そろそろ戻ろう? アーネスが嫉妬しちゃうかも」

「勘弁してくれ……」


 それでも、面と向かってやめろと言い切ってしまえないのは、やっぱり俺の心がいまいち、女の子に染まり切っていない証拠なのかもしれない。

 そのことを喜ぶべきなのか、あるいは煩わしく思うべきなのかは……いまだにわかってないんだけどな。


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