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第1話

 何もない草原。フェレニア王国、クライン公爵家の領地にある広い丘陵地帯で、男女が向かい合っていた。

 距離にしておよそ数メートル。お互いの表情がよく見える──そんな位置だ。


 男の方は口を一文字に結んでおり、厳しい目つきで正面の女性を見据えている。

 体格は非常によく、引き締まった筋肉が今か今かと出番を待ち望んでいるように見えた。

 外見はいわゆる軍服。白いシャツを隠している黒いコートが、威圧感を倍増している。腰には見事な軍刀を携えていた。


 対する女性はというと、目を閉じ静かにうつむいていた。

 外見は一言ならば可憐。透き通った銀髪を腰まで靡かせ、陽に照らされることできらきらと光を放つ。

 閉じる瞼に生えるまつ毛は驚くほど長く、閉ざされた唇はどこまでも紅い。露出が少ないため分かり辛いが、肌は白磁のごとく滑らかだ。

 こちらも軍服でありパンツスタイル。男と同じく白いシャツに黒のコートで、細剣を佩びている。

 美しくとも色気は皆無のように見えるが、一部を押し上げるその豊かな膨らみと、パンツスーツだからこそわかる艶めかしいラインが、扇情的な匂いを纏わせる。この何もない草原には、いっそ不釣り合いを通り越して、一つの絵画のように収まっていた。


「双方、よろしいでしょうか?」


 穏やかな声が草原に響く。

 発する人物は見事な金髪をしており、見目麗しき男性だった。


 先にいる男は目線だけで応え、女性は声を出さずに小さく頷く。

 ただそれだけ。

 ただそれだけで、これまで穏やかな草原だった場の空気が、一気に変調した。ぴりぴりと肌が痛い。まるで戦場になったかのようだ。


 ごくり、と唾と空気を飲み込む音が聞こえる。

 見れば、声を上げた男性以外にも、何人もの姿が並んでいた。どれも見事な鎧、魔導師のようなローブを着ており、向かい合う二人をじっと見守っている。


 そんな中に、この一団には似つかわしくない、仕事着姿の侍女と執事のような男性がそれぞれ一人。

 この二人は他に見られるような緊張感もなく、ただ二人を静かに見つめている。

 共通するのは、いずれもかの二人から距離を置いていることだろう。


「では────はじめ!」


 一呼吸置いてから、最初に声をあげた男性が合図を出す。


 瞬間──

 男女の互いの場が爆発し、離れていた距離は数瞬後にゼロとなった。

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