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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー系

丑の首

 その神社はとても不気味がられていた。

 十二支の動物――子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥の頭部が飾られているのだ。


 もちろんそれは本物などではなく、張子でできているのである。

 しかし一方でこんな噂があった。――上のうちどれか一つだけ、『本物』の動物の生首が混じっているのだと。


 おれはとある夏休み、この噂の真偽を知りたくて一人で神社へやってきた。

 神社までは家から歩いて五分とかからず、すぐに着く。

 相変わらずひっそりした神社だなあと思っていると神主さんとバッタリ出会した。


「おやおや、一人でお参りとは偉いねえ」


 こいつ、おれのこと子供扱いしてやがるな。

 もちろんまだ十歳のおれは子供に違いないが。


「あっ、はい。もちろんそれもあるんだけど……」


 例の噂が知りたいのだと言うと、神主はニコニコ笑顔になった。「ああ。あの話か。聞いていくかい?」


「うん!」


 断られるかも知れないとビクビクしていたおれは、予想に反する答えに飛び上がった。

 そしていそいそと神社の奥へ向かい、神主さんの話を聞いたのだ。



***



 連れて来られたのは、薄暗いところだった。

 見ると、天井の近くに動物の首がずらっと並んでいる。あれが噂の……。


 確かに子から亥まで、十二の頭部がきちんと揃っていた。どれも迫力があり、まるで睨まれているかのような威圧感を覚えて背筋がゾワゾワする。


「あの中でたった一つの本物があるんですよね?」


「ああそうさ。今からそれを教えてあげようね」


 神主さんはやはり笑顔で言った。


「……君は『ウシの首』という都市伝説を知っているかい」


「牛の首? 知らないけど」


「動物の牛じゃなくて、十二支の『丑』と書いて丑の首というのが正しい。けどまあ、勘違いしている人は大勢いる。誰かが言い伝え間違えたんだろう」


「それで?」


「この中で、丑の首だけが本物の牛の頭部なんだよ。見てみるといい」


 神主さんは立ち上がり、丑の首を壁からもぎ取った。

 何かで引っ掛けられていただけだろう。すぐに取れた。


 それを手に取って、話し続ける。


「これは曰く付きでね。……ここに十二支の首が置かれたのは、この丑の首を隠すためだなんて言われている」


「他の偽物に混ぜちゃってわかんなくするってこと?」


「そうだ。この丑の首はね、呪われておるんだ」


 神主さんは呪いについて詳しく教えてくれた。

 十二支の中でも()に負けたとして二番目とされる丑。

 丑三つ時というのは忌み嫌われており、丑は最も卑下される存在だった。


 そんな恨みがいつしか形となって、動物の牛に乗り移るという形で悪霊に変化する。

 しかしその首は武士に斬られ、こうして祀られることになった。

 けれども怨恨はいつまでもいつまでも続いており、今でも人を呪い続けているという。それを鎮めるのがこの神社の役割なんだとか。


「でもね坊や。この丑は強力だから、年に一度は贄を捧げなければならない。……丑が疼いてる。さあ、丑の首の餌食となりたまえ」


 おれはその瞬間、丑の目が光った気がした。



***



 巷で言われる『牛の首』伝説の発祥はこの神社である。

 内容が知られないこの怪談の内容は、先ほど語られたのと同じ。しかしそれには続きがある。


 この話を聞いた者は、必ず殺される。丑の首の贄として。


 神主の家系だけがそれを知っても死なない。そして神主は代々、年に一度誰かに話を聞かせて『贄』にするのだ。


 この丑の首が、世にも悍ましい呪いとして解き放たれないために。


 それにしても幼い子供の命が奪われるというのは悲しいことだ。

 でも仕方ない。丑の首に興味を持った者の末路は必ずこうなのだから。


 神主はほんの少し悲しい気持ちで少年の死体を見下ろし、それから丑の首を元の位置に戻してため息を漏らしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 古人曰く、木を隠すなら森の中。 牛の首を干支の「丑」という体裁にして、尚且つ他の干支の首もカモフラージュとして堂々と並べておけば、多少の都市伝説めいた噂話は流れるにしても、過度に不審に思わ…
[一言] 本当にありそうで怖い話ですね(゜Д゜;) なるほど。神主さんは餌くれる存在だから殺すわけにはいかないと。
[良い点] ∀・)前作を読んでも思ったんですけど、柴野さまは「牛の首」を伝承ホラーとして捉えて物語を創られている感じがあって、本作はそれを極めている感触がありました。わかりやすさもあって、とっても怖い…
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