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ピンク頭とお助けキャラ

 昼休み、昨日も何だかんだと充分に勉強できなかった分の試験勉強に励むことにした。今日もコニーが隣で弁当を食べている。


 得意な理科や数学は軽く問題集を解き直すだけで良いのだけれども、苦手な詩作などは参考書を読むだけではうまくいかない。

 理詰めで理解すれば良いものは楽なんだけど、子供のころから感情をあまり表に出さずに生きてきたものだから、こういった情緒や感情を美化して表現するのは本当に苦手なんだよね。

 コニーに苦笑されながら、試験に出ると思われる初夏や旅立ちを題材とした詩作と格闘してうんうん唸っていると、オピニオーネ嬢が訪ねてきた。


「お勉強中に本当に恐縮なんですが……少しご相談したい事が」


「僕でお役にたてることなら喜んで。どうしたの?」


「それが……」


 なおも口ごもる彼女の様子に、外聞をはばかる話なのだと察しがついた。


「もし人目が気になるなら、放課後場所を改めます?連隊本部に行けば談話室が借りられるし」


「いえ、そこまでするほどではないのですが……」


「邪魔が入らないところでゆっくり話をしたいなら、生徒会準備室を使うか?」


 実直ではきはきとものを言う彼女にしては珍しく、もじもじしている様子を見てコニーが助け船を出してくれた。


「あの……できればパラクセノス先生のお知恵も拝借したいのです」


「それじゃ先生の研究室に行こう。ちょうどお話ししたい事もあるし」


 オピニオーネ嬢も同意してくれたので研究室にうかがうと、先生は「今日は良く来るな」と言いながらも快く迎えてくれた。


「それで、何があった?」


 ソファに落ち着いた僕たちの向かい側に座って問いかける先生。


「ええ、実はこの間からエステルさんがわたくしに『癒しの力を使えるようにしろ』としつこくおっしゃいまして……そんな力は知らないと何回申し上げても聞く耳持たずで……」


 途方にくれたようにオピニオーネ嬢。


「ポテスタース卿から取り返せとすごい剣幕ですが、卿が使っておられるのは治癒魔法でしょう?彼女の言う様な選ばれた人のための特別な力などではないはずです」


「取り返すって……まるで元々は自分の力だったみたいに……」


「ヴォーレの魔法はヴォーレ自身の努力と才能の賜物だ。それを取り返す?何を勘違いしているんだ」


 呆れたように言う先生に、憤然とコニーが言葉をつなぐ。

 妄想も、ここまでくると不気味なものを感じる。


「ポテスタース卿のこと、偽聖女だとか言っていて……あまりに話が通じなくて怖いんです。だいたい、男性に偽聖女って何なんだか……」


わけがわからない、と彼女は困惑しきった様子でぽつりと呟いた。


「彼女、この世界は自分が恋愛ごっこを楽しむためのゲームの中だと信じ込んでるみたいだね。それでも『聖女』とか『癒しの力』は『ゲーム』には出てこないって言ってたんだけど……」


 港の騒動の時に聞いた話を思い起こしてみる。

 確かにエステルはあの時『聖女』も『癒しの力』も『ゲーム』の筋書きには全く出てこないとはっきり言っていた。

 『ゲーム』が筋書き通りに進まないから自分のために新しいストーリーが出てきたと思った、という虫の好い願望をまだ現実だと思い込んでいるのだろうか。


「自分が女神に選ばれて別の世界から転生してきたと言っていたから、どうすればいいかその『女神』に訊いてみれば?って言っちゃったんだけど……もしかして、その『女神』に何か変な事を吹き込まれたのかもしれない」


「そんな、まるで女神に実際に会えるみたいな……」


「実はその『女神』と名乗るモノにこいつは遭遇しているんだ」


 オピニオーネ嬢が思わず否定しようとすると、先生が遮って昨日の話をした。


「そんな存在が実在するなんて……」


 呆然とするオピニオーネ嬢。

 無理もない。僕だって本人(?)に会うまではそんなものがこの世に存在するなんて欠片も信じていなかった。


「とにかく、エステルが『ゲーム』の筋書きをなぞるためにイジメを自作自演していたということは、逆に彼女の訴えていた『イジメ』の実態は存在しないと言うことになるだろうな」


 ため息交じりにコニー。


「わたくし、何も知らずにエステルさんに便宜をはかってばかりで……かえって皆様にご迷惑をおかけてしていたかもしれませんね。何もしていないアハシュロス公女を悪人だと思い込んでおりましたし……」


 しょんぼりするオピニオーネ嬢。人の好い彼女を「お助けキャラ」と称して当たり前のように利用していたエステルに少なからず苛立ちを感じてしまう。


「やはりきちんと誤解を解く機会を作りたいです。せめて殿下だけでも公女への誤解を解いていただかないと、このままお二人が不仲なままでは最悪の場合国際問題につながりかねませんし」



「殿下は簡単には納得しないだろうが……それでも早まった真似をされないためには早めに報告しておいた方が良いかもしれない。

 それでエステルの暴走が止まるとは思えないが」


 自責の念をあらわに、殿下のアハシュロス公女に対する誤解を解きたいと言うオピニオーネ嬢。

 確かに、報告は大事だよね。問題は報告の内容や、報告したと言う事自体の証拠をどうやって残すかだけど。

 

「問題はどうやって報告するか、ですね。殿下と側近候補しかいないところで報告しても、納得しないと聞かなかった事にされそうですし」


「授業が終わったら後で魔導師団長に相談してみよう。お前も上官に相談に乗ってもらえ」


 うん。僕が個人的に報告しても握りつぶされる可能性が高いならば、やはり筋を通して公的な記録が残るようにしておいた方が良いだろう。


「かしこまりました。それじゃ、報告までは動画は撮り続けた方が良いですね、念のため。

 何度も相談に乗っていただきありがとうございました」


 場合によっては報告の場に先生やコニーたちに立ち会ってもらった方が良いかもしれない。

 とりあえず帰投して上官に相談してから、いつどんな形で報告を行うのか決めれば良いだろうと、この時はまだ呑気な事を考えていた。

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