表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/126

ピンク頭と鑑定依頼

 コニーと連れ立って教室を出た後、まだ時間があるのでパラクセノス先生の研究室にお邪魔した。

 急にうかがったにもかかわらず、快く招き入れて下さったのでお言葉に甘えて適当な椅子に座る。


「昨日はどうだった?何かわかった事はあったか?」


「はい。まぁ、エステルが薬を盛ってくるのは予想通りだったんですが……」


 僕は彼女に毒を盛られた店で不審な女性に出会い、その際に魔法除けのお守りがいくつか壊れた事と、エステルが唐突に「卒業記念パーティーで会場に爆弾がしかけられる」と言い出したことをお話しした。


「そう言えば夕べは倉庫街で一悶着あったんだろう?警邏(けいら)から魔導師団(うち)に試料の鑑定依頼があった」


 なるほど、警邏(けいら)では簡単な検査しかできないから魔導師団に鑑定をお願いしたんだね。


「作業員の皆さんからお預かりした荷物ですね。出どころ鑑定できそうですか?」


「成分分析して不純物に特徴的な組成のものが出てくれば産地を特定するのは可能だろうが、なかなか難しいだろうな」


 やっぱり精製済みの塩硝だけじゃ入手経路どころか産地を突き止めるのも難しいよね。それどころか爆発物を作るつもりだったのか、肥料にするつもりだったのかすら定かではないもの。


「とりあえず放課後に発注したとされる商会にお話を伺いに行ってきます。何かわかれば良いのですが」


「聞き込みだけのつもりで捕物になるかも知れないからな。くれぐれも無茶はするな」


 なんかみんな僕に対して過保護過ぎない?その割に確実に毒物使ってくるってわかってるエステルとは二人で出かけさせたりしてるけど。

 最初から殺すつもりで毒を持ってくる相手ならまだ薬物の性質を把握しているからつかう量なんかも致死量ギリギリだったりするけど、エステルは危険性を全く理解できてないからとりあえず大量に使えば相手を思い通りに操れるって思ってるんだよね。

 昨日盛られた量も全部摂っていたら死んでたんじゃないかな。


「大丈夫ですよ。部隊の任務なら単独行動は有り得ませんから。

それより、昨日お借りしたコレ、どんな魔法を使われたかだけでも調べられませんか?朝、勤務が終わった時に壊れてることに気が付いたんです。エステルといる時になにかあったような気がするんですが、どうしても思い出せなくて」


「なんだと?思い出せないとはどういうことだ?」


 先生の顔色が変わる。それはそうだろう。


 今朝、仮眠から醒めた時にふと自室の机の上に壊れた護符があるのに気が付いたのだ。おそらく昨夜勤務服に着替えた時に外したのだろうけれども、その時の事が全く記憶にない。


 ちょっと落とした程度で壊れるようなものではないので、エステルと一緒にいる間に壊れたことは間違いない。そして薬を盛られた前後にどうにもあやしいと思える何かが起きた気がするのだが、それを思い出そうとすればするほど思い出そうとしているものの印象が曖昧になり、正しく認識できなくなってしまうのだ。


 それどころか、少しでも気を抜くと護符が破壊されたことそのものを忘れてしまう。今だって先生の顔を見たら思い出すように自分に術をかけていたおかげでかろうじて思い出すことができたようなものだ。


「思い出そうとすると、その前後のことが曖昧にぼやけてきて、しまいには何を思い出そうとしていたかすらわからなくなるんですよ。油断してると護符を破壊されたってことまで忘れている始末ですから。

 今は先生と会話するのをきっかけに思い出すよう、あらかじめ自分に術をかけておいたから思い出せたんです。

 特定のものを思い出せなくするための強い認識阻害魔法をかけられてるような感じですね」


「それは厄介だな。ちなみに、そんな魔法の使い手の心当たりは?」


「それが、王都イリュリア……というか、シュチパリア国内ではあまり聞きません。強いて言えば辺境伯領にいる僕の友人が簡単なものは使えますが、ここまで高度な精神操作魔法は使えないし、そもそもこんな事をする理由がありません。

 もしかすると軍が知らない使い手がいるのかも知れませんが」


 軍が把握していない精神操作魔法の使い手がいるというだけでかなり危険な事態だ。まして、それが非常に高度な魔法を自在に使いこなすとなれば、王族や政府の上層部を操って国政をほしいままにされてしまう危険だってあり得る。

 何しろ術を使われた事そのものを思い出せなくしてしまうのだ。術者やその仲間に心理誘導の知識や技術があれば、気付かぬうちに暗示をかけられ思考を誘導するくらいの事は造作もないだろう。


「それは面倒だな。正直、何がどこまでわかるか自信がないが、できる限りの解析につとめよう」


 パラクセノス先生が鑑定を引き受けてくださったので、少しだけ気が楽になった。先生は直接術者に出くわした訳ではないから、護符の破壊自体を忘れると言うことはないだろう。

 できれば術者をつきとめる手がかりくらいは見つかってほしいが……


 少なくとも今は高度な精神操作魔法を使う存在がこの事件に関わっているという事が魔導師団や軍で把握できていることが大事だと思う。


 少しだけ安心した僕は午後の授業に出るためコニーと一緒に実験室へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ