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ピンク頭と夜の海

 巡回の途中、不審な人影を見た直後に若い女性の悲鳴を聞きつけた僕たち。

 とにかく一刻も早く駆けつけようと、軽く身体強化魔法を使って先行した僕が目にしたのは、人気のない倉庫街の外れの暗がりにいる数名の男と、夜目にも鮮やかなストロベリーブロンド。


「……君はこんな時間にこんなところで、一体何をしているんだ?」


 僕は意外といえば意外な人物に、怪訝な声をかけた。


「一時間以上前にちゃんと家まで送ったはずだけど?一体これはどういう事かな?」


 先ほどの悲鳴はとても聞き覚えのあるものだった。やけに甘ったるくてどこかわざとらしい、芝居がかった悲鳴。そして僕が駆けつけた時、彼女は男たちに囲まれてはいるが、脅されたり暴力を奮われたりしている様子はなかった。


 なんともクネクネした女の子らしさを強調していると思われる不自然な走り方で僕に駆け寄って来たエステルは、僕の冷めた口調に返答に困って硬直してしまった。

 一体何を企んでいるのだろう?


 男たちが襲い掛かってくる様子もないので黙って彼女が話し始めるのを待っていると、さすがに沈黙に耐えかねたのかもじもじしながら話し始める。


「えっと……あたし、さっき帰ってからあいつらの話を考えてて……それで、今日夜中に港で取引があるーって言ってたって思い出して見に来たの。

 そしたらこの人たちにいきなり声かけられて……あたし怖くって……」


「何かあったら僕か連隊本部に伝えてって言ったはずだよね。こんな夜遅く、しかもこんなに人通りのない倉庫街なんかに一人で来たら、何が起きてもおかしくないんだよ」


 いけないとは思いつつも、ついつい呆れた口調になってしまう。

 だって僕が彼女を家まで送り届けた時点でもう七時半。いくら日が長い季節とはいえ、女の子が一人で外出するような時間じゃない。

 ましてこんな街外れの人気のない倉庫街なんて、いくらイリュリアが比較的治安が良いとはいえ、事件に巻き込まれに行くようなものだ。


「でも、ヴィゴーレはあたしの言う事信じてくれてないみたいだったしぃ……

 あたし、くやしくて……証拠を見つけてやるって思って。あたしを信じないヴィゴーレが悪いんだよ??」


 上目づかいで恨み言を言ってくるが、見当外れもはなはだしい。証言を拒んだのは誰だと思っているんだ。身体強化魔法で引き起こされた興奮により昂った神経を逆撫でされ、湧き上がる苛立ちを抑えるのに少々てこずった。


「僕は君が聞いたと言う話は重要だからきちんと調査するために証言して欲しいと言ったはずだよ。信じていないならそんな事言う訳ないだろう。そこまで言うなら今すぐ連隊本部で調書を取らせてくれないかな?

 お手数ですが、皆さんもご協力お願いできますか?」


 僕はエステルを軽くたしなめると、周囲の男たちに声をかけた。

 彼らはエステルを囲むように立ってはいたが攻撃的な気配は全くなく、仕草や身なりから見てもごく普通の労務者のように見える。

 もちろん第一印象だけで判断するのは危険だが、エステルから話を聞いておかしな先入観を持ってしまう前に彼らの話を聞いておきたい。


「そんな事を言っても、俺らは客から頼まれて荷物を運ぶように言われただけで」


「お仕事中恐縮ですが、そういったご事情を詳しくうかがわせてください。

 王族を狙った破壊工作を目論んでいる者がいると言う情報が提供されておりまして、現在われわれ警邏けいら部隊で捜査中です。皆さんも知らないうちに巻き込まれているかもしれません」


 相手が善良な一般市民だと言う前提で、丁寧に礼を尽くして協力をお願いする。

 こういった港湾労働者は官憲を嫌う人も多い。少しでも嫌な思いをさせずに気持ち良く協力していただけるようにしたいのだが。


「なんだって。面倒ごとはごめんだぜ。おい、変なことに巻き込まれる前にさっさと……」


「無駄よ! どうせこいつらに訊いても何も知らないわよ!!」


 案の定、リーダー格とおぼしき人物が声をあげかけたが、それを遮るようにエステルが甲高い声でわめいた。

 その妙に焦った様子に、何か後ろ暗い事があるんじゃないかとつい疑ってしまう。


「……どうやらとっくに厄介ごとに巻き込まれちまったようだな。仕方ない、変な冤罪でっち上げられる前に兄ちゃんにつきあってやるか」


 リーダー格の男も同意見だったようで、渋々ながらも協力を申し出てくれた。


「ご協力感謝します。お手数ですが、連隊本部までご同行をお願いします」


 僕が笑顔で礼を言って頭を下げたところで、ちょうどエサドも到着した。


「さすがに早いな。ヴォーレ、こちらの方々は?」


「よくわからないけど、例の爆破の件に巻き込まれたみたいだね。ご協力くださるそうだから、今から本部でお話を伺うところ」


 エサドも僕が丁寧に対応しているのを見て犯罪者ではないと判断したらしい。


「よくわからねぇが、兄ちゃんたち騎士にしては威張り散らしたとこがなくて気に入ったよ。仕方ねぇ、つきあってやるから案内しな」


 からからと笑ったリーダーに改めて二人で礼を言うと、彼らを連れて本部に帰投することにした。


 

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