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ピンク頭とショッピング

 胃の痛くなるようなランチ会議が終わった後はつつがなく午後の授業も終わり、あっという間に放課後に。

 エステルとは正門前の馬車停まりで待ち合わせしている。

 街まで一旦うちの馬車で行ってから、街で買い物しがてら散策して、帰りの時間の見当がついたらまた迎えに来てもらうつもりだ。

 約束の時間にはまだ早いが、早めに行って本でも読んでいよう。


「ごっめーん、ヴィゴーレ待ったぁ?」


 待ち合わせを少し過ぎた頃、とてとてと小さな子供みたいな走り方でエステルがやってきた。


「あれ?何読んでるの?」


「シュリーフェンの皇太子御前講義録」


「え~っ、何それつまんな~いっ」


 僕の読んでいた軍学の本を小馬鹿にしたようにけなしてから、一瞬「しまった」という顔になって慌てて媚びた笑顔になるエステル。


「ヴィゴーレってこんなムツカしそ~な本読んでるんだねっ!あんまり勉強してるイメージなかったからすごく意外だけどエラいっ!!」


 ……それ、おだててるつもりなんだろうけど喧嘩売ってるようにしか聞こえないよ。


「一応、軍人のはしくれだからね。仕事と学校であまり勉強の時間が取れないから、こういう隙間時間に参考になりそうな本を読むようにしてるんだ」


 僕はいつだって少しでも時間があれば軍学か解剖学の本読んでるから、ある程度親しい人ならよく勉強してるのは知ってるはずなんだけど。休み時間も予習復習に費やしてるし。

 そもそも、入学以来成績はいつも学年五位以内だよ。これで勉強してなかったら、いったいどうやって成績維持してるって言うんだ?

 少なくとも一般教養科の授業にすらついていけず、定期テストはほぼ零点というエステルよりははるかに勉強していると思うな。

 エステルはいったい僕のどこを見ているんだろう?


「へーっ、すっごーいっ!ヴィゴーレって真面目っ」


 なんかすっごく媚びた笑顔で、本人は持ち上げてるつもりなんだろうけど、馬鹿にしているようにしか見えないので不愉快だ。露骨に機嫌を取ろうとしているのがものすごく気持ち悪い。

 そういえば昨日は僕の事しきりに「脳筋」って言ってたし、よほど頭悪いと思われてるんだろうね。

 生真面目にコツコツ勉強してる平民特待生のことを陰で「クソ真面目だけが取り柄のガリ勉ぶりっ子」って言ってたし、彼女の価値観では「真面目」は蔑みの対象であって、誉め言葉じゃない。持ち上げてるつもりで全力で貶している事に気づいていないんだろう。


「今日は夜番の先輩と当番を交替してもらったんだ。夜八時までに連隊本部に戻れば良いからそれまではゆっくり楽しめるよ。さあ、お姫様は最初にどこにいらっしゃるのかな?」


 これ以上彼女の寒々しい太鼓持ちに付き合っていてもゴリゴリと精神を削られるだけの気がするので、さっさと出かけることにして馬車へとエスコートする。


「八時に連隊本部に戻るって、今日はお休みじゃないの? 一晩中一緒にいたかったのに」


「そういう冗談はやめておいた方が良いよ。僕はともかく、誤解されて取り返しのつかないことになりかねないから」


 あけすけなお泊りのお誘いにドン引きしながら、冗談めかしてたしなめる。いやまぁ、純潔じゃないのは殿下たちがさんざんベッドの中のやりとりを自慢していたから知ってるけどね。

 ここまで露骨に誘われるとやっぱり気分が悪い。

 ぷぅっとふくれたエステルがこれ以上痛々しいことを言う前に、さっさと行き先を決めてしまおう。


「とりあえず最初に行くところを決めよう。あまり荷物が多くなってしまうと身動きが取れなくないよね?ゆっくり選びたいものは最初に見るようにしようよ」


「あ、それじゃあたし靴ほしいっ!! 女子更衣室に置いてたダンス授業用の靴が壊されちゃったのっ!! ひどいでしょっ!? あたし超かなし~のっ」


 あぁ、そういえばオピネオーネ嬢から譲られたものをご自分で破壊しておられましたね。本当に悲しんでるのは君じゃなくて、善意を踏み躙られたオピネオーネ嬢じゃないかな……


「そうか、それじゃ近くに良い職人の店があるから……」


「それでねっ、昨日街を歩いてたらすっごく素敵な靴っみつけたのっ!!こないだセルセにもらったドレスにぴったりのやつっ!!

 アルとファーリがくれたアクセにもぴったりなんだよっ!!ヴィゴーレも見たらぜ~~~~ったい気に入るはずだよっ!!!」


 僕の言葉をさえぎってまくしたてる言葉の圧がすごい。昨日あちこちウロウロしてたのは、やっぱり今日僕に買わせるものを物色してたのね。

 どうせド派手な宝石まみれのキンキラキンなんだろうな……僕の趣味とは程遠いんだけど、この人僕の好みなんて知ったこっちゃないだろうね。


「もうお店を見つけてあるんだ。さすがエステルだね、用意がいいな。それじゃまずその靴屋に行こうか」


 僕は内心のげんなりした気持ちを押し殺し、にっこり笑って御者に行き先を告げた。


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