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ヒロインなあたしとハーレムエンド

 せっかく好感度アップアイテムを買いに来てやったあたしに「クリアイベントと成績が足りない」なんてつまんない事をほざきやがった店主のクソババア。

 いったんシメてやった方がいいんじゃないかと思い始めたあたしにババアは言い放った。


「そんな事言ってて、まだ爆弾の話も出てないみたいじゃないか。それじゃ、とてもゲームクリアなんて無理な話だよ」


 爆弾というのは、卒業記念パーティーで起きる王太子暗殺未遂事件でしかけられるというもの。

 ハーレムルートは悪役令嬢のイジメとあたしへの殺人未遂で糾弾するんだけど、他のキャラのルートは、仲良くなる過程で偶然爆発物が持ち込まれたことに気付いた攻略対象者と一緒に事件を防ぐことでハッピーエンドを迎えるんだよね。

 たしかにもうすぐ卒業パーティーからそのままエンディングだというのに、イベントが全然進んでない。


「はぁ?? あたしはちゃんとやってるのに、毎度毎度邪魔が入るんだって!! だから全然イベが進まないのよ……っ!!

 何でこうどいつもこいつも役立たずなんだろう……っ」


 それもこれも悪役令嬢がクッソ無能でシナリオ通りに全然動かないせい。イジメのいの字もしてこないから、攻略対象者が助けてくれるイベントが起きようがないんだよね。

 教科書やドレスを破かれる、などのイベは自演でこなせたんだけど、なぜかお助けキャラが超ウエメセで自分のお下がりをよこしたもんだから、中途半端に終わってしまった。イイ人ぶりやがって、ざっけんなっ!


「だいたい、爆弾ってハーレムルートなら関係なくない?」


「ハーレムエンドでも王太子暗殺事件は起きるよ。単にお前さんが見た事がないだけで」


「え?まじ?」


 実はハーレムエンドは難易度激ムズらしくって、あたしもまだ成功させたことはない。実況とかやってる人からも「成功した」って話は聞いた時ないから、実は成功させた人はまだいないんじゃないかな?

 ハーレムエンドを目指した場合、一度に複数のキャラを攻略しなきゃいけないから、どうしても好感度が足りないキャラが出てきてしまうんだ。あたしもいつも攻略できないキャラが出てきて結局は個別ルートに入ってしまっていた。


 今のあたしも、難易度が高めのセルセは好感度が足りるかどうかちょっと不安。

 でも、まだ誰も成功させたことのないハーレムルートを成功させて、誰も見たことのない幻の隠しキャラと最っ高にキラキラの恋をして、みんなに祝福されてうらやましがられて幸せになったら……。どんなに素敵だろう。

 それこそが女神さまがあたしに望んでいることのはず。

 絶対に成功して見せなきゃ。


「今からでもちゃんと捜査させないと、ハーレム達成したのはいいけど、攻略対象者もろとも講堂で吹っ飛ぶ、なんて羽目になるかもしれないよ」


「そんな……捜査なんてクソダサいこと勘弁してよ。それに今からじゃ間に合わないかも……」


「悪役令嬢のイジメに頼りすぎなんだよ。能力値の底上げもしてないみたいだし。

 イジメと関係ないイベントもたくさんあるだろう?本当に大丈夫なのかい?」


「うっさいわ。あたしはそこらのつまんない女とは違うの。あんたたち凡人にはわかんないでしょうよ」


 能力値って言っても、この世界じゃステータスの確認なんてできやしない。

 女神さまがわざわざ選んだヒロインのこのあたしが見る事ができないってことは、最初っから見る必要がないって事でしょ?だったら能力値なんてどうでもいいに決まってるじゃない。

 なんでそんな簡単な事もわかんないかなー。まぁ、それがわかんないからモブの凡人止まりなんだろうけど。


 なんか変な事を言われたせいで急に攻略が大丈夫なのか心配になって来た。

 不安と焦りでイライラしながら好感度アップアイテムの「月光の蜜」と魅力度アップアイテムの目薬「天使の涙」を買うと、月虹亭の通常店舗に戻ると、ちょうど脳筋が何かを買い込んでいる。

 キレイにラッピングされていて、誰かへのプレゼントのようだ。


 最近アイツは付き合いが悪くって、セルセたちと遊びに行くときも仕事に行ってるらしい。ちゃんとセルセが予定を伝えてついてくるように言ってるはずなのに。ヒロインのあたしがわざわざ誘ってやってるのに仕事を優先とかおかしくないっ?

 仕方がないから一緒に来た時に家まで送ってっておねだりしてやって、お礼って言って家の中に入れてやろうとしたのに「レディと家の中で二人きりにはなれないよ」とか言ってヘラヘラ笑いながら帰りやがったんだ。

 せっかくこのヒロインのあたしが誘ってやったのに……据え膳食わぬは男の恥って言葉を知らないんだろうか?それともアイツ不能なの?

 それとも、まさかとは思うけど、他に女ができた?


 そう思いついたあたしはかぁっと頭の中が熱くなった。

 イージー枠の脳筋の分際でこのヒロイン様を裏切るとか絶対許さんっ!!


「あっれ~、ヴィゴーレどうしたの?こんなところで」


 あたしがとびっきりの笑顔を作り、思いっきり可愛い声で呼びかけてやると、奴は慌てたように綺麗にラッピングされた包みをバッグにしまい込んだ。ピンクの包装紙にピンクのリボン。


「あ、それってもしかして?」


 きゃるんって大きく目を見開いて可愛く小首をかしげてみせる。まさか他の女へのプレゼントじゃないでしょうね?

 だとしてもこのあたしの可愛さに速攻差し出す気になるはずだけど。


「見つかっちゃったんだ。その……明日いっしょに出かけるから、ね?」


 ヴィゴーレは困り顔で包みを取り出してきた。

 なんだ、明日のために貢ぐものを買いに来ただけか。この店があたしのお気に入りだって言ってたの覚えてたのね。

 脳筋のくせにちゃんと覚えていたとは感心感心。うんうん、やっぱりこのヒロイン様にデートしてもらえるんだから、プレゼントくらい用意しとかなきゃねっ。


「あたしのためにプレゼント選びに来てくれたのねっ!?やっぱりヴィゴーレやさしいっ!!大好きっ!!」


 ちょっとだけ気分が良くなったあたしは、包みを受け取りがてらご褒美に飛びついてあげた。

 うっかりを装って放り出しそうになったあたしの紙袋もちゃんと受け止めてるあたりはさすが現役騎士だね。

 ちょっとサービスしてあげよう。

 そのまま抱き止められた腕に胸をぐいっと押し付けてやる。あくまでさりげなく、たまたま当たっちゃった感じにしないとひかれちゃうから力加減が難しいんだよね。

 案の定、単純な脳筋は困った顔をしながらあたしの荷物をしっかり持って店外へとエスコートしてくれた。


 こいつ、派手な見た目に似合わずやたらとウブなところがあって、ちょっとボディタッチするたびに、困ったように赤くなって固まっちゃうんだよね。もともと紅っぽい印象の奴だから、顔まで赤くなると赤トウガラシみたいでまじウケるんですけど。

 でも、キモくてちょろいイージー枠だろうが、ただの赤トウガラシだろうが、こんなヤツでもれっきとした攻略対象者。ちゃんと順調に攻略できれば利用価値もある。


 この調子なら例の爆弾の件だって、うまく匂わせてやれば、あたしがわざわざ探し回らなくたって勝手にみつけてくれるだろう。ヒロインのあたしの役に立つためだけに存在するこいつを、あたしが上手に使ってあげないと、こいつが生きている意味がなくなっちゃう。


 あとでうまく誘導して、爆弾発見と事件解決の栄誉を授けてあげよう。


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