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ピンク頭と精神操作

「かくかくしかじか」


 パラクセノス師が伝説の情報伝達呪文を唱えると、魔術師団長は事態を全て把握した。 いやもう、強すぎだろこの呪文。

 精神操作系の魔法みたいだけど、僕が習得したものよりずっとシンプルで扱いやすいものみたいだね。あとで絶対に教えていただこう。

 任務完了後の報告が楽になること請け合いである。


「なるほど。これでは君たちの手にあまるだろう。陛下には私からご報告するとして、引き続き調査せねばなるまい」


「ありがとうございます。少し肩の荷が下りました」


「うむ、よく報告してくれた。このまま放置していては深刻な事態になりかねん。ついてはいくつか調査したい事があるので君たちに協力を頼めるかね?」


 重々しく頷いたイケオジこと魔術師団長ヴェネフィクス侯爵が僕たちに向き直った。


「「「「私どもにできることなら喜んで」」」」


 期せずして4人の声がぴったり揃う。


「まず、件の女生徒を取り巻く生徒たちだが……

 もともと単じゅ……いや素直?純朴?なところがあったとは言えいくらなんでもチョロすぎだろう」


 返す言葉もないので僕はちょっぴり項垂れてしまう。チョロすぎてごめんなさい。というか言葉を選べば選ぶほど情けなくなるので、ストレートに単細胞っておっしゃっていただいた方がダメージ少ないかもしれません。


「さすがにあまりにも不自然なので、何らかの精神操作系の魔術か向精神薬の使用が疑われる」


 ぜひそうであって欲しい。一瞬そう思ってしまってからことの重大さに気付いた。もし本当にそうなら王族を魔法なり薬物なりで操ったり洗脳したりしてるって事。国家転覆を謀ったと言っても過言ではない。


「しかし、精神操作系の魔法でそのようなことが可能でしょうか?ただでさえ使える人間が少ない上に扱いが難しく、実態がほとんどわかっていないはず……」


 パラクセノス先生の疑問はもっともだ。

 魔法と言うものは、まず実現したい現象の機序を明らかにして魔術式でそれを再現しなければならない。もちろん完全に再現できなくても大量の魔力を消費すれば似たような現象を起こすことはできるが、その場合は「うわべだけ似ているが実質は全く違う」現象であることが多い。

 特に人体や精神と言った、人間に直接作用するような術はデリケートで、よほど丁寧に術式をくみ上げ正確に扱わないと思わぬ失敗をする羽目になる。

 さらに言えば人間の精神や感情のうごくメカニズムは現代の科学でもほとんどわかっていない。それで正確に機序をなぞった術式を展開すると言うのは不可能に近い。


「その疑問はもっともだ。残念ながら俺も精神操作系の魔法については通り一遍の事しか知らない。やはり使い手に話を聞いた方が早いだろう」


 魔術師団長が意味ありげに僕を見やる。先生も真剣な目で見つめてくるので少々居心地が悪い。


 身体操作系、精神操作系の魔法は極めて扱いも習得も難しい。必要な知識も技術も、普通の魔術とはけた違いに多いのだ。

 人体も精神も複雑な機構で全ての部分が互いに作用しあって動いているうえ、その状態はその時のその人の状態によって全く異なっている。それを正確に把握して必要な術式をその場で組み上げるためには、魔術の他に莫大な医学や精神医学の知識と繊細でち密な魔力操作の技術……そして特異な共感能力が必要だ。


 だから、幼い頃から師匠について徹底的に鍛えられた者のうち、たまたま適性があった者だけが運が良ければ身に着けることができる。

 僕は幼少時から訓練を受けて、たまたま適性のあった人間の一人だ。


「僕の知る限り、ですが。他者の精神に直接働きかけて特定の感情を持たせるような魔法は難しいかと。

 感情や精神の働きは相互に複雑に作用しあっていますから、ごく一部の感情に働きかけているつもりでも、精神全体に術者も意図しないような力をかけてしまうことになります。大抵の場合、目的は果たせず精神だけを壊す羽目になりますね」


 魔術師団長の視線に応えて僕なりの見解を述べる。


「考えられるとすれば、身体感覚を狂わせることで相手に好意を抱いているように勘違いさせる程度ですが……例えば対象を見ている時に心拍数を上げて興奮しているように錯覚させるとか、瞳孔を拡げて相手をまぶしく感じさせるとか。ただ、消費する魔力や生命力を考えると割に合いませんよ?そのくらいなら薬品でも再現可能ですし」


「……お前が言うならそうなのかもしれんな。何しろ身体操作も精神操作も使いこなせる術者はこのイリュリアではお前くらいだ」


「使いこなすと言えるレベルに達しているかはわかりませんが、少なくとも僕には無理ですよ」


「なるほどな。魔道具を使った場合はどうだ?」


 特定の魔法を封じた魔道具を作るには、その魔法とは別の知識と技術が必要だ。残念ながら僕は魔道具の製法についての知識は全く持ち合わせていないので、そういった道具の作成が可能かどうかすらわからない。


「魔道具は僕の専門外なので何とも。そちらはパラクセノス先生の方が詳しいかと」


「私は魔道具については詳しいですが、魔法を人間の精神に作用させる機序は全くわからないので、そういった魔道具を作れるかどうかはわかりかねます」


「つまり、お前ら二人を合わせた以上の天才でない限り、魔術や魔道具でこのような真似はできないということか。ほとんど可能性はゼロと言って良さそうだな」


 魔導師団長のおっしゃる通り、魔法や魔道具の介入の可能性は低いと結論付けざるを得ないだろう。


「となれば、薬物の使用が最も疑わしい。君たちはそのつもりでいつどのようなタイミングで使われているか探って見てくれ」


 魔導師団長の言葉に否やはなく。僕たちは揃って首を縦に振ったのであった。

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