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ピンク頭と追及開始

「こちらからも殿下たちに伺いたい事があります」


 無事にアミィ嬢の嫌疑を晴らせたところで、ついにコニーが切り出した。


「私はみなさんに代わって生徒会の業務を一手に引き受けていたわけですが……いつの間にか私が知らない支出がかなりあったようでございまして。

 会計の帳簿と金庫にある生徒会の予算の残額が大幅に違うのです。これは一体どういう事でしょう?」


「そんなのはお前が無能だからだろうっ!!

 次代の宰相と言われていい気になっているが、そんな簡単な金勘定もできないのかっ!?」


 ギャンギャンと下品に喚きたてるクセルクス殿下。本当に王族なのか疑いたくなる品性のなさだ。

 それもまた後ろ暗さの裏返しなのだろうけど。


「本来、支出がなかったはずの日にも、なぜか金庫の現金が減っているのはどういう事ですか?」


「そんなの知るかっ!! お前がうっかり落としてなくしたんだろうっ!? 弁償しろっ!!」


 この期に及んでそんな言い逃れが通用すると……思ってるんだろうね。

憐れな人だ。

 この人の本質は、いまだに大声で喚けば何でも自分の思い通りになると思いこんでいる幼い子供なんだ。


「では、現金がなくなった日時、生徒会室内を撮影した記録球にコソコソと金庫をあさる殿下たちが映っているのはどういう事でしょう?」


「貴様……っ!! なぜそれを!? 隠し撮りしたのか、この裏切り者!! 卑怯だぞ!!」


 言い訳のしようがない証拠をつきつけられてコノシェンツァを裏切り者呼ばわりしはじめたけど、裏切り者は悪事を働いた自分自身だろう。

 国民を裏切り、公金を横領したのだ。

 王族として、決してしてはいけない一線を越えている。


「更に、王都の下町で殿下がエステルと一緒に訪れたという情報があったブティックに問い合わせたのですが……先日、殿下がエステルを連れて訪れた際、プレタポルテのドレスにオリジナルのアレンジを施したものを購入し、現金払いで受け取ったとのことです。

 卒業記念パーティーまで時間がないので店舗を直に訪れてプレタポルテを購入したのはまだわかるのですが……

 現金払いというのは珍しいですよね。我々貴族は通常仕立て屋を屋敷に呼びつけて小切手で支払いますから。

 何か小切手を使えないような事情があったのですか?にもかかわらず現金を持ち合わせていたのはなぜでしょう?」


 そう。僕たち貴族は基本的に現金を持ち歩かない。

 もちろん想定外の事態に備えてちょっとした小銭程度は持ち歩く事はあるよ?

 でも、人気のあるブティックの高級ドレスを即金で買えるほどのまとまった金額は、基本的に手形か小切手の取引になるのが常識だ。そうでなければ家の方に請求を回してもらうか。

 わざわざまとまった金額の現金を持ち歩いているという事は、小切手を使ったり家に請求を回すなど、家を通した取引ができないという事なので、かなり怪しまれても仕方がない。


「やかましい!!他人のことを賤しく詮索しおって、恥を知れ!!」


「そういう訳には参りません。他の生徒会役員が全員職務放棄している以上、国家予算から生徒会運営のために割り振られている運営費の管理は副会長の私が責任を持って行わなければなりません。

 したがって、使途不明金があれば徹底して調査して、誰がいつ何にいくら使ったのか、それが妥当な支出であったのかを精査しなけれ……」


「うっさいうっさいうっさい!!

 この世界のヒロインの、このあたしを最っ高にかわいく飾ること以上に大事な事なんて、この世にあるわけないでしょ!!!

 この世界はあたしのために、あたしのためだけにあるの!!!!

 このあたしのために使われたお金なんだから当然の支出!!

 むしろお金出させてもらって感謝するとこでしょ!!!」


 殿下ではコノシェンツァの追及をかわすことができないと悟ったのだろう。

コノシェンツァが冷静に論を重ねて追及しようとする言葉を遮って、エステルが地団太踏んでヒステリックに喚き始めた。


「そんな言い分が通用する訳がないでしょう。あなたはこの国では男爵家の庶子にすぎない。もちろんお優しい男爵夫妻が継嗣として養子に迎えて下さっているので法的には最下級の貴族として扱われますが、だからと言ってどんな身勝手でも叶うような特別な地位にある訳ではありません」


「な……あたしがただの下っ端貴族みたいに……っ」


「それから、クリシュナン令嬢には殿下をはじめとする高位貴族の子女に危険な向精神性のある毒物を服用させ、意のままに操ろうとした疑いがかかっています。

 少なくともヴィゴーレ・ポテスタース卿と私が彼女から渡されて、必ず食べるようにと言われた菓子には致死性の高い向精神薬が含まれていました。

 クリシュナン令嬢の言動から鑑みるに、意図的に殿下の暗殺を謀ったわけではなさそうですが、意のままに操り権力を握ろうとしたことは間違いなさそうです。

 これはれっきとした国家反逆罪に該当します」


 エステルの支離滅裂な言いがかりを華麗にスルーして、冷静に彼女の毒物使用について指摘するコノシェンツァ。


「はぁ!?あたしが国家反逆罪!?このヒロインのあたしを王妃にしないで邪魔ばっかりするアンタたちこそ叛逆罪でしょっ!?」


「そうだそうだ!! 私はこのエステルと言う稀有な存在と結ばれて古今稀に見る名君と称えられるのだ!! 邪魔する者は栄光あるこの国家の未来を妨げる反逆者だ!!」


 エステルがめちゃくちゃな妄言を喚きたてるのに乗じてクセルクセス殿下も聞くに堪えない妄想を喚きたてる。

 甲高い声で居丈高に喚きたてるが、威厳どころか下品で卑小な人間性が隠しようもなく溢れ出て、あまりの醜さ惨めさに見ている方がいたたまれなくなる。

 これでも王族の端くれとは……常に物腰柔らかで誰にでも丁寧に接するにもかかわらず、威厳に満ちているマリウス殿下の実の甥とはとうてい信じられない。


「……殿下……あなたという人は……

 王族というものは、国を治め民を守るためにさまざまな権限を与えられています。

逆に言えば、全国民を公平に治めるつもりがなければ、王族である資格がないのですよ。

 今のあなたはクリシュナン男爵令嬢しか見えていない……あなたの中に民がいない。それでは王太子どころか王族である資格がございません」


 あまりに支離滅裂で身勝手な主張に思わずアミィ嬢がたしなめる。

 しかし、それは正論であるがゆえに殿下の神経を逆撫でするものでしかなく……


 殿下はもはや言葉を発することもなく、おもむろに剣を抜くとアミィ嬢めがけてそれを振りかざしながら駆け寄った。

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