VoLTE で国際電話できるなんていつから思っていた?~できて当然でしょ? と思っていたら当然でなかった件
第三話の内容に誤りがありました。修正は第四話で。
【そもそも VoLTE が使えるキャリアは世界中で何社ある?】
GSA (Global mobile Suppliers Association) の 2020 年 10 月の資料によると
・世界で LTE サービスを提供しているキャリア (電話会社) の数: 750
・VoLTE を提供しているキャリアの数: 230
・VoLTE ローミング (国外で VoLTE を使用できるようにする仕組み) を導入したキャリアの数: 40
となっています。750 社中、VoLTE ローミングを提供しているキャリアは 40 社に過ぎません。なぜ、こんなに少ないのでしょう。
【S8HR】
VoLTE ローミングを提供している 40 社は、すべて S8HR という規格を使用しています。これは、VoLTE で国際電話を掛けた場合、その処理は SIM カードを発行したキャリアが担当する規格です。
素人考えでは、日本のキャリアの SIM カードを挿したスマホを持って A 国を訪れた場合、A 国内の VoLTE は A 国のキャリアが担当し、日本国内の VoLTE は日本のキャリアが担当するのが自然ですが、そのような方法は恐ろしく非現実的なのだそうです。
理由は調べた範囲ではわかりませんでしたが、複数の IMS (IP メディア サブシステム) を処理できないためのようです。VoLTE の処理には IMS が必要です。これはほとんどの場合、スマホで自動的に設定されますが、まれにスマホの APN 設定画面で手入力する必要があるシロモノですが、現在のスマホは 1 つの SIM に対して複数の IMS を設定することはできません。
S8HR が採用される理由は、VoLTE の処理が SIM カードを発行したキャリアのみで行われるため、IMS が 1 つで済むというのが大きいようです。
ところで S8HR についての説明を読むと不思議なことに気付きます。VoLTE の国際ローミングの例として取り上げられているのは、電話をかける側と受ける側の両方とも同じキャリアのユーザーである場合のみなのです。
これはおかしいではないでしょうか。日本から A 国を訪れたら、電話をかける先は A 国で宿泊するホテルとか、現地の知人である場合がむしろ多いでしょう。つまり、A 国のキャリアの電話番号にかけるわけです。その場合、VoLTE ローミングを名乗りながら VoLTE でかけられないのは納得できません。特に A 国で 3G が停波されていた場合、VoLTE でなければ電話をかけることができないのですから。
【3G がないキャリアの国際ローミングはどうなるか】
3G がなく、VoLTE のみを提供するシンガポールの TPG というキャリアのローミングサービスを確認したところ、驚きました。
・ローミングは、データ通信のみ
・一部の国では VoLTE ローミングが可能だが、渡航先にいるユーザーとシンガポールの電話番号の間でのみ使用できる
・その他の国際電話は、(LINE 通話や楽天 LINK のような) アプリを使用する必要がある。通常の国際電話サービスは提供されない
ここまで来て、まさかの結論に達してしまいました。それは
海外の任意の相手と VoLTE で通話するための規格は、そもそも存在しない。
念のため国内キャリアの国際 VoLTE サービスを確認してみましたが、渡航先の現地キャリアの電話番号と VoLTE で通話できるキャリアは 1 社もありませんでした。
これまでの事情を踏まえると、VoLTE ローミングを導入するキャリアが少ない理由がわかります。導入しても利用範囲が狭すぎるのです。それなら最初からアプリのみに限定してしまうのも一理あります。アプリによる通話は音質の評判が良くありませんが、VoLTE ローミングの音質も決して良くないそうです (S8HR は高音質を保つのが難しく、アプリとの競争に負けるという意見があったが、他の規格は賛同を得られなかったらしい)。
【国際電話はアプリが主流になりそう】
ROCCO Research によると、世界のキャリアの約半分が 2025 年までに 3G を停波する予定です。停波した場合、通話は VoLTE のみになります。VoLTE ローミングが SIM カードを発行したキャリアのユーザー同士に限定される限り、国際電話は LINE や楽天 LINK のようなアプリが主流になる可能性が大きそうです。