出会い.8
ざわざわしている。それは昼休みの途中。放送で全校生徒が体育館に集まるように言われたのだ。
『あー、あー!テス、テス!マイクのテスト中ー!』
野太い声が割れて耳に不快な声が届く。
咲ちゃんもうえーって表情で耳を押さえている。
この声は、我が滅龍高校の校長傲慢校長の声だった。
いつも、生徒を見下すように見てきて、財宝や宝物を持ってくるダンジョン部を優遇する不人気ナンバーワンの校長だ。
「放課後。みんな体育館に集まれぃ!」
簡単にそう言うと。二度ほど繰り返し放送は途切れた。話し下手か!
「……な、なんでしょうね、今の?」
「さ、さあ。でも体育館に行かないとな」
「そ、そうですね。でも今は休み時間を堪能しましょう」
なんか。弁当の幸せ気分が霧散していくような感じだ。でもまあ、避けられぼっちの僕が女子といるなんて。しかもこんな可愛い美少女と。
その分、回りからヒソヒソされるんだけど。
そして、放課後。部活前の生徒たちが体育館に集まってざわざわしている。
教師が注意する中。僕たちが整列してると、咲ちゃんの姿が見えた。
友達と楽しく談笑しているからやっぱ、クラスに馴染んではいるのか。
その咲ちゃんから離れて、黒野と言う奴がそわそわして咲ちゃんのことを眺めている。どうしたものか。
「…よくぞ集まってくれた。我が敬愛する生徒共よ!」
校長の演説が始まった。白々しい台詞にげんなりする。
お前が愛するのは、成績優秀さか、部活で優秀な成績を残した生徒だろう。
そう言う声がチラホラと聞こえてくる。
「うむうむ。わしのように偉くなりたい気持ちの妬みや嫉みは分かる。
しかし、それをバネにしてわしを越えて見せよ!」
なんかすぐに越えられそうに見えて傲慢校長は、スーツピチピチのハゲマッチョ。
元探索者とかで、ダンジョン潜って手に入れた財宝で学校を建てたとか。
「いいか、きさ……生徒達よ!部活などに青春をかけるよりもダンジョンだ!ダンジョン探索して富と名誉を手に入れるのだ!」
みんなざわついてる。悪態つくものもいる。
とても、教育者の言葉ではない。いや、教育者なのかあの人?
「落ち着きなさい、下……生徒たち」
スタイルのいい秘書風の教師。もとい強欲教頭がムチでピシャリとさせると生徒たちは、静かになるどころかヒートアップする。
「そのおみ足で踏んでくれー!」
「豚野郎と罵って下さい!パワハラなんて言いません!」
コアな強欲ファンの生徒たちが変なことを口走っている。そして、冷ややかな女子生徒たち。
「ふふ。可愛い坊やたち。今は校長のお話しを聞きましょう」
妖艶な感じだ。あんたも教師なんだろうか。あの人も元探索者だったみたいだけど。黄金に取りつかれているんだろう。
「よいか、ダンジョン探索したものには好きな大学や就職先の推薦をやろう!そして、青春なぞダンジョン内でやれぃ!暗がり効果で男女の中も急接近じゃい!」
それに沸く生徒たち。僕はただ、呆れて眺めている。
校長なら勉学とかを進めるのではないか?
「そして!八月にあるダンジョントライアルに参加して優勝したパーティーには、どんな願いも叶えようではないか!」
ドッと沸いているけど、どんな願いなんて曖昧だな。
僕は、入る高校を間違えたのか?
傲慢校長の話しが終わり、ゲンナリしながら教室へ戻ろうとすると冬川に声をかけられた。
「里中」
「ん?ああ、冬川か。どうした?」
「探検部だっけ?里中の部活」
「まあ、同好会だけどね」
「足下。でも今回のことで頑張れば部に昇格出来るかもね」
「……ああ。そうだな。そうなればいいな」
でも、そのためには部員が最低でも五人はいる。
「冬川はさ。俺に話しかけて平気なの?」
「ん?別に。隣の席同士で嫌いあうなんて悲しいじゃん」
「そうか。僕はお隣さんに、恵まれてるってことか」
「えー。なにそれ?」
冬川はクスクス笑うと手を振って行ってしまった。
僕を蔑む奴ばかりではないってことか。
でも、あまり仲良くならないようにしないとな。
いじめにあったりしたら悪いし。
「せ~んぱい」
トゲのある声に振り返ると何故かムスッとした咲ちゃんがいた。
咲ちゃんのクラスメイトは、咲ちゃんに声をかけると僕を避けるように言ってしまった。
「やあ、咲ちゃん。そうだ、案内したいとこがあるんだけど」
「そうだじゃありません!」
「へ?」
「なんですか、今の素敵な声の人は?美人ですか?美人ですよね?」
「近い、近い!ぐいぐい来ないでくれ!」
「そんなことより教えてください!」
なにをそんなに怒ってるのか分からないけど、冬川のことを説明する。
「な~んだ!そうならそうと早く行って下さいよ~」
にこにこして当たり前のように僕の腕を掴んでる。
「と、ともかく案内したいとこがあるから行こう」
咲ちゃんに腕を掴まれてドギマギしながらもある場所を目指す。
無遠慮な視線をスルーしながら。その内スキルでスルーとか覚えそうだな。
そこは、一階にあった。保健室の隣にあり、普通の生徒なら立ち寄らない場所だった。
職員室にあまり生徒が立ち寄らないように、ここに立ち寄るのは僕みたいな探検部員や、もしくはソロで活動するもの。
友達同士で潜るもの。進路が決まり、暇をもて余した三年生とか。
便利なスキル持ちなら、ダンジョン潜ってレベル上げなんてこともある。
ホントに、ゲームみたいな世界だなと思う。
しかし、これからはダンジョン内も活気づくかも知れないな。
「……勇気先輩、ここはもしかして」
「うん。冒険者ギルドだよ」
普通なら、学校になどないけれどダンジョンが発見された以上、急遽設置された。
咲ちゃんは、僕の服の袖をつまんで大人しくついてきてくれた。
ここでは、クエストを受けたり、魔物の素材などを買い取ったりしてくれる。
そして、武器や防具。雑貨屋などもある。
ここ一つでなんでも揃うので、部屋内も職員室並みに広いので、教頭が私の部屋も広くしてよとか無茶言っていたとかいないとか。
扉を開けて入ると、ちらほらと生徒がいるが、ダンジョン部のメンバーとかいなくて良かった。
受付に行き素材を換金してもらうことにした。
「あら、里中君。こんにちわ」
「あ、はい。こんにちわ。素材の換金をお願いします」
ギルドの受付の藤崎彩さんは、僕を見ても顔をしかめない数少ない好感の持てる女性だ。
女子アナとか、モデルとかしてそうな美人な人なのに、どうしてこの仕事をしてるのか前に聞いて見たら、「命を懸けて仕事をしてる人に魅力を感じるの」と答えられてウインクされたのは、ドキリとした。
そして、僕が呪われて冒険者を辞めようとしたら、励ましてくれたのも藤崎さんだった。
「……僕、こんな風に呪われて部活も追い出されて、辞めようと思うんです」
「今は駄目よ。耐えなさい。辞めるのがいつでも出来るなら、呪いを解く方法を探しましょう?私も情報を探して見るから」
「……でも」
「でもはいいの。逃げてもいいけど。逃げたままでは駄目だからね?」
「はい」
一年の三学期はだから、ダンジョンには潜らなかったけど、藤崎さんは時折ラインをくれた。
大抵は、何気ない雑談だったり、また生徒に告白されて振ったことで心苦しいとか。
そして、少しづつ元気を取り戻した僕は、好奇な目にさらされるのを耐えながら学校に通い、ダンジョンに潜ることをまた始めたのだ。
「はい。これくらいね」
渡された皮袋には銀貨と銅貨が数枚ある。それを、咲ちゃんと分ける。
普通の買い物はお札や小銭で、冒険者の買い物では金貨や銀貨を使用する。
そして、普通の買い物をする時は、お札とかに換金すると出来るようになっている。
国が、そういう風に決めたらしくめんどくさい。
「ありがとうございます」
「おや?咲ちゃん。里中君と知り合いなの?」
「あ、はい。私の恩人ですよ」
「へぇ~。やるじゃん里中君。お姉さん、見直したよ」
事情を話すとからかわれた。なんだか気恥ずかしい。
「でもさ。仲間が出来て良かったよ」
「……はい。藤崎さんには感謝してます」
「あん。彩って呼んで。それと、今度ご飯奢ってね」
「はは。いいですよ……いてっ!」
何故か咲ちゃんに背中をつねられた。なんで?
ともかく、これを聞いたら、他の男子生徒やギルド職員に睨まれることに違いない。
「ふ~ん」
藤崎さんは、なにやら僕と咲ちゃんを見比べるとにやにやしてる。
「な、なんですか?」
「いやいや。守って上げなよ」
「はい。大切な部員ですから」
「そうじゃなくて」
「あわあわ!そうだ、買い物に行きましょう」
何故か慌てた咲ちゃんに袖を引っ張られる。
「?うん。分かった。藤崎さんまた」
「はいはい。また、依頼とか受けてね~」
にこやかに笑う藤崎さんと別れて装備品をチェックするもめぼしいものはない。
まだ、金貨を貯めないとランク上の武器は買えない。
まあ、無名刀で充分ではあるけども。
咲ちゃんは、もっと上の装備はほしいだろう。魔法使いなら尚更ね。
防御力を上げとかないと体力が持たないしね。
取りあえず、回復アイテムや松明など必要アイテムを揃えることにする。
購入したものはアイテム袋へ。アイテム袋はその昔の冒険者が見つけた物の複製品。
複製品だから、アイテムの制限数はあるし、食べ物の劣化も少しずつある。
オリジナルのは、いくつでも入り食べ物も劣化しないと言う。
誰もが欲しがるアイテム袋。僕も見つけたいものだ。
つづく
いつもありがとうございます~
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