出会い.7
「さあ、先輩。お昼食べましょう?」
二人で、屋上に来ていた。春の陽気で暖かいので、屋上で食べる生徒もチラホラといる。
大抵は、カップルがイチャイチャさているのだけど。
流れでここに来てしまったけど、気恥ずかしくなる。
春野は、周りがカップルだらけと気づかないだろう。
そして、周りから僕たちもカップルとか思われるのだろうか?
そう考えると、なんだか恥ずかしくなってしまう。
「先輩?どうしました?どうぞ」
春野が、お弁当箱を二つ用意してきている。もしかして。
「僕の分もあるの?」
「はい。昨日のお礼ですから~」
にこっと、照れくさそうに言う。
「それはどうも」
箸を受け取り弁当の蓋を開けると、肉と野菜のバランスのとれた弁当で、少し感動する。
ラノベのようなお弁当を作ってくれる幼馴染みはいないし、恋人もいないのでお弁当なんて作ってもらったことはないから、ちょっと感動してしまう。
「いただきます」
僕が手を合わせて言うので、春野がジッとこちらを見ている。
見えなくても見られると気恥ずかしい。美人だと尚更だ。
「どうです?どうです?」
「うん。美味しいよ」
「はぁ~、良かった。調理スキル上げといて良かった~」
僕の返答に納得すると自分も「いっただきま~す!」と元気よく言って食べ始める。
「うんうん。我ながら美味しいです」
「自画自賛か!でも、一人で作ったのか?」
「はい。あたりきよ~。でも、お母さんに見守っててもらいましたけど」
多分、一人で作るには大変なんだろう。
「そうか。でも美味しいよ」
「えへへ。あざーす」
しばらくは、のんびりと食事をしていると春野が不意に言った。
「先輩て、里中先輩でいいです?」
「ああ。勇気でいいよ。ま、どっちでもいいけど」
「じゃあ、勇気先輩で」
「なんでだ?」
「名字だと、距離遠いですよ~。私のことも咲とか、咲き誇る美少女たとか呼んでください」
「……咲ちゃんで」
「なんか、ちゃんづけって恥ずかし~ですね」
「そう?咲殿とかよりいいでしょ?」
「時代劇か!ははっ!先輩、時折変だ」
「……君も大概だと思うけど」
「でしょ~?それで、勇気先輩て、のんびりと言うか穏やかな雰囲気ですね」
言われて考える。それってもしかして。
「おじいちゃんといいたいのかな?」
「いやいやいや。一緒にいてホッとするって意味ですよ」
「そうかな。でも、姿を見たら引くと思うよ」
苦笑してそう話すと、不意に真剣に春野……咲ちゃんは言う。
「そんなことないです」
「……ん。だといいな」
「まぁ。実際、見えるようになってからでないと分かりませんもんね~」
大きく伸びをしてなんでもないように言う。
「……治りそうなの?」
「そうですね。偉い神父様にお布施を納めないと行けませんね~」
そうか。教会だからな。お金がいるよな。基本、病気は病院だけど呪いの類いは教会だ。もしくは神社。
なんで神様にお金を大量にわたさないといけないんだろ。
しかしそれは、神父様とか神主様とかに大量のお布施を納めないと魔法をかけてもらえないのだろう。それか、エリクサー。
レアアイテムのそれはゲームでお馴染みだけどダンジョンか、教会が保持してるのを使用することになる。
家の親の給料の一年分は軽く越えるが、どんな呪いも解除する。
「この唐揚げ美味しいな」
サクッとジューシー。食べ盛りには堪らないだろう。
「そうでしょうとも、秘伝のタレに浸けときましたからねー」
「助けたかいがあったな」
「食べ物かよ~」
ポコンと肩パンされる。随分とフレンドリーと言うか。
きっと、クラスでも人気者かもしれない。
「それにしても、ホントに探検部に入るの?」
「ええ。約束しちゃいましたからね~」
なにがおかしいのか、クスッと笑う。
「僕のとこよりダンジョン部の方が、メンバーが多くていいんじゃないかな?」
「嫌ですよ。あんな人がいる部なんて~」
眉を八の字にして困った表情をする。
まあ、そうかもしれないけどまともな面々もいる。
「それに、勇気先輩がいいんです」
「そ、そう。ありがとう」
なにがいいのか分からないけれど、僕がいいとストレートに言ってくれるのは素直に嬉しい。
人は、相手の愚痴を言うのは上手いけど簿めたりとかはあまりしない。
だから、咲ちゃんのように明るい言葉をポンポン放つ人は新鮮と言うか。
一緒にいても気分がいいと言うことなのかもしれない。
「でも、あんな勝負、大丈夫かな?」
大丈夫なんだろうけど、心配はする。
瀬田は、イケメンだから調子なので調子に乗ってるとこがある。
僕はともかく、咲ちゃんまでなにかあったら嫌だな。
横を見ると、僕のことなんて気にせず、にこにことお弁当を食べている。
食リポしたら、見てる人の食欲も沸きそうだな。
「え?なにか言いました?」
「いや、なにも」
僕は、これからのことを考えながらお弁当を美味しくいただいた。
つづく