出会い.5
「黒野くんとは、小学生からの友達」
食後のデザートを食べて満足したのか、静かに語りだした。
私がある日突然目が見えなくなった時にずっとそばにいてくれた友達。
なにも見えなくなった私のお家にいつも遊びに来て話し相手になってくれた。
最初はそれでも良かった。でも、このままじゃあ行けないから。
友達も励ましてくれたから、学校へまた通うようになった。
しかし目が見えないから、それを心配して黒野くんはいつも支えてくれていた。
でも、私にはスキルがあったから。あまり、過保護にされるのも嫌になってしまった。
それは、中学、高校でも変わらなくて。
周りは、黒野くんが支えてくれるから大丈夫だって言うけど、私は一人で歩いて行きたかった。
「だからある日。私言ってしまったの」
「うん。なんて」
辛そうな表情だな。感謝とかもしてるから尚更なのかもな。
「つきまとわないでって」
「そっか。だから、あそこにいたのか?」
「うん。酷いこと言ってしまいました」
「でも、その割にはダンジョンまでついてきてたな」
なんだか、少し呆れてしまうけど。根性があるのか。父さんとかの時代では、そう言うのが情熱的と言われていたらしいけど、親の惚気話しだ。
父さんが、母さんに何度もアタックして付き合うのをOKしてもらったとか。
このご時世だと、ストーカーになってしまうのかもしれない。
「上手く話し合って解り合えたらいいんだけどな」
「そうなんですけどね。自分の意見を通そうとしちゃうんですよね~」
苦笑してレモンティーを一口。窓の外に目をむければ、通行人が何人も歩いている。
会社帰りのサラリーマンだったり、カップルだったり、学生も。
僕は、それらを羨ましく思う。今の呪われた僕には、笑顔で関わって来れるのは親くらいなもんだ。
「まあ、僕みたいに一人ぼっちにならないといいな」
「え?先輩。私たちもう友達だから先輩、ぼっちじゃありませんよ」
当たり前のようにそんなことを言うものだから、不意をつかれてしまった。胸が、じんわりしてしまった。
「……いや、でもさ」
周りを見るとこちらを気にしてるひともいるのだ。
質の悪い場合は、スマホで撮影してSNSに上げようとする馬鹿もいる。
注意しても止めてくれなかったから、スマホを奪って割って返したけど。
そしたら、親に注意されてしまった。
今、考えればやり方は間違ってたのかとか思うけどあまり反省はしてない。
石を投げてきたら、投げ返されることを教えなくてはならない。
「でもも、へちまもありませんて!少なくとも私は友達と思ってますんで」
言い切られてしまった。爽やかな笑みで。なにも言えない。
それが照れくさくて、曖昧に微笑んだ。
嬉しいけど期待したら、相手が離れて行った時に傷つくから。
「行ってきます」
次の日の朝。学校へ行くために玄関で革靴を履いていると、母さんに声をかけられた。
「勇気」
「ん?なに」
「……ううん。行ってらっしゃい」
「ああ。行ってきます」
学校で上手くやれているかどうか心配してるのだろう。
ぼっちと言ったら心配をかけてしまうから、程々に上手くやってることにしている。
多分、嘘なのはバレてるだろう。親でなければ大人だって僕をシカトするだろう。
朝は、不平等なことがあろうとも、嫌になるくらいの青空。
春の風が吹き抜ける。季節の心地よさも辛さも平等に訪れる。
春野とは昨日、駅で別れる時に、一応お願いしておいた。
「学校ではくれ話しかけないでくれ」
「え?それ、酷くないですか?」
「いや、見た目こんなだから。避けられてるからさ。一緒にいると君まで避けられるよ」
「……先輩」
春野は、身を乗り出すと頭を撫で撫でされた。
「え……と?」
「辛かったんですね~」
年下のJKにそんなことされるものだから、戸惑いと気恥ずかしさと、ちょっとだけ救われた気がしたんだ。
「生憎私は見えませんので~」
ふざけてそう言われた。自分のバッドステータスを重くならないように。
俺も、悲観してられないな。
教室に入ると、特に挨拶することなく、自分の席へ。
隣の席の冬川は、ちらりとこちらを見るがなにも言わない。
いつものことだ。嫌われてる訳ではない。
でも、あの時なことで呪われてしまったから、肌がドス黒くなってしまった。
だからいつも、外ではマスクをしている。周りがこちらを見ても、僕は気にしないことにしている。
窓から、春風が吹き込んで来る。それはまた君みたいな暖かい風だった。
つづく




