薄紅湿原.7
荷物を置いて少し休んでからみんなでロビーへ降りた。
さて。どこで食事しようかとスマホでチェックしようとすると、先程の店員が話しかけてきた。
「あ、みなさん食事ですか?」
「そうなんです。どこか美味しいお店知りませんか?」
柚子が尋ねる。こう言う時助かる。さらりと聞いてくれるから。
「えっと。なら案内しますよ」
「え、でも仕事中でしょ?」
「大丈夫、大丈夫。私も休憩ですから」
そう言って奥に声をかける。
「お父さ~ん!休憩入るねー!」
「あいよ~!」
すぐにエプロンを外してやって来た。
「ささ。こっちだよ~!」
にこやかに誘い出す。気を遣わせないためかな?
外に出ると辺りはすっかり暗くなっていてらいとあっぷされた夜桜が綺麗だった。
酒場の方の喧騒が凄いな。まあ、いいけど。
他にもいくつか飲食店や道具屋や武器屋もある。
ダンジョンの中とは思えないけど、長いダンジョンだとこう言う休憩地点があったりする。
そこを村と呼ぶ人もいればオアシスと呼ぶ人もいる。
「あ、ギルドや武器屋もあるね」
「そうだね。僕のファンクラブはないのかな?」
柚子の言葉に黒野が答える。いや、その受け答えはどうなのだろうか。
みんな困惑してしまうだろう。
案内されたのは、一軒の喫茶店。
どこか昔ながらのって感じだな。
静かなクラシックがかかっており壁際にはジュークボックスと呼ばれるものがある。
「ここで良かったかな?私、純喫茶みたいな古い感じの店が好きなんだ~」
「中々、渋い趣味ですね~」
「そうだね。入るのは初めてだけど嫌いじゃないね」
柚子と相川が相づちをうつ。
「はぁ~。良い曲」
咲ちゃんが耳を澄ませて流れる曲の音を楽しんでる。
黒野が口笛吹いて……吹けてないけど咲ちゃんに音を届けようとしてるのでみんな引いている。
咲ちゃんは気づいてないのでそのままでいて。
「古くて悪かったな、來末」
「あ、マスター。私はいつもの~!」
元気良く手を上げて言う。マスターは髭を蓄えて何故か西武のガンマンみたいな服装をしている。
腰のホルスターには銃が差してある。
おもちゃだろうか。それとも元冒険者と言うこともある。
「來末が友達連れてくるのも珍しいな」
「いやいや、ぼっちみたいに言わないで~。学校の友達はいるしね!
この方たちはうちのお客様だよ~」
「そうかよ。俺はこの店のマスターの小西ってもんだ。よろしくな!」
「は、はあ。どうもこんにちわ」
マスターは僕の呪いを見ても特に気にすることなく頷く。
「「「よろしくお願いしま~す!」」」
可愛く挨拶する女性陣と出遅れま黒野はあたふたしている。
「そ、その。來末さん旦那になる予定の黒野です」
「はは。なにそれ、キモ~い」
「寝言は寝て言え小僧」
來末ちゃんは軽く笑って受け流し、小西さんは真顔でぐさりと言う。
黒野、ドンマイ。俺の呪いよりはマシだと思うぞ。
注文を終えて改めて自己紹介することになった。
「あ、えと。私は立花來末です。宿屋の娘で~す。冒険者もやってるよ」
「あ、僕は里中勇気です。まあ、見ての通り呪われてるけど悪い人じゃないよ」
「あはは!なにそれ、おっかしいね~!
おっと。おかしいですね~」
こっちが客だからか言い直す。
「私は里中柚子。お兄ちゃんの妹です」
「あ、兄妹なんだ?い~な。うち一人っ子なの。しかも、むさい親父と二人っきりでさ~。あ、です」
「あ、タメ口でいいですよ。ちなみに私は春野咲です。
あ、ちなみに私も呪われてます。勇気先輩とおそろです」
「咲ちゃんか~。咲ちゃんはいくつ?」
「16才です。立花さんは?」
「私は17才だ。7が入ってるからラッキーてね。
年下とか遠慮せずにタメ口でいいよ?」
「嬉しいですけど、うちの親そう言うの厳しいので年上には敬語で」
「おお。今の若い子にしては礼儀正しいね」
「いやいや、同じ高校生ですよね?」
「あ、そうでした~。て、もしかして?」
咲ちゃんが目を閉じてるのを見て事情を察する。
「あ、そうです。私の呪いです。バッドステータスで目が見えないんです」
「それにしては明るいね」
感心してる立花さん。
「まあ。立ち止まっていても始まりませんもんね」
「そうか。凄いな~」
ポンポンと喋ってる内に頼んだものが運ばれて来たのでもくもくと食べてる相川に目を向ける立花さん。
「あなたは?なんて名前なの?」
「……相川愛美。それだけよ」
あれ?いつもより素っ気ないかな?
「そう。よろしくね。さ、食べよっか」
ハヤシライスにスプーンをと思ってたら黒野がツッコミを入れる。
「待て待て待て~!お約束もいいとこだよ!
僕は黒野。女性の盾となるもの!」
「あはは!ノリがいいね~。よろしくね黒野」
「……騒がしい」
ボソッと相川が呟く。そう言えばダンジョン部でも相川は明るい人は好きだけど、騒がしい空気みたいのは苦手だったな。
とは言え相川も新種の魔物を見掛けるとテンション高くなるけどね。
つづく




