薄紅湿原.5
「ワォ~ン!」
おっと。湿原狼が吠えたら、どこか遠くからも「ワォ~ン!」と聴こえてきた。これは、どういう意味だろう。
「相川さん、今の遠吠えはなに?」
「はぁ……はぁ……はっ!ああ、そうね。あれは味方への合図だよ」
「合図?」
尋ねた柚子が首をかしげる。
「そ。多分だけど里中があの狼を助けたから友好的になったんだよ」
そして、相川は湿原狼を興味深げに眺める。
うちにはニャーバルキャットもいるし、学校迷宮では鎧狸とも仲良くなったし。
人間よりも動物に好かれているのかな?
「ワン!」
湿原狼は、赤ちゃんを咥えると少し進んでこちらを見る。
「……?なんだろ?」
「え?狼って犬みたいに鳴くんです?」
「こっちへおいでって感じ?はぁ……はぁ……」
「相川の興奮具合がたまらいな~」
「黒野先輩、セクハラですよ」
みんな口々に言いながら湿原狼の後を追う。
すると草むらの中に隠された道がある。
「おお。隠し通路ですよ、お義兄さん!
この黒野を導く者はなにか?」
スマホで撮影する黒野はさておき。
「黒野、SNSに上げるのは待ってくれ」
「え?どうしてだい?」
「もしかしてこの湿原狼たちの住みかみたいのがあったら可哀想だ」
その僕の言葉にハッとする黒野。
もしSNSで知って冒険者たちがやって来て荒らし回ったらと思うと。
もちろん魔物だから倒した方がいいんだろうけど。
それが出来ない僕は甘いんだろうな。
そのことを話すと咲ちゃんは満面の笑みで答えた。
「それが勇気先輩のいいとこです」
「そうそう。甘くて優しいお菓子みたい」
「柚子、なんだそれ?褒めてる?」
「褒めてる、褒めてる!」
「なら僕も褒めてよ~。みんなの盾になってるよ~」
「黒野、恥ずかしいから止めて」
咲ちゃんの冷たいツッコミに押し黙る黒野。
ともかく、湿原狼の後に続きながら歩いてると広い場所に出た。
「凄い!宝箱だお義兄さん!」
「わぁ!見て!」
先ほどの湿原狼の巣があり草を敷き詰めてそこに赤ちゃんが何匹もいる。
そして、もう一匹の大人の湿原狼がいるのでここが彼等のお家なのだろう。
もう一匹はこちらを警戒しているが、僕が助けた方がスリスリしてコミュニケーションを取った後はこちらをジッと見てるだけだ。
「あ、見て!」
柚子の言葉に湿原狼の子供たちがじゃれてくる。
柚子と咲ちゃん。特に相川がはしゃいで遊んでいる。
「はぁ……はぁ……いいよ~!あなたとっても可愛いよ~!」
相川のテンションがおかしい。子供が怯えてないか?
湿原狼の親が宝箱の前でちょこんと座って待っているので近くへ寄って話しかける。
「開けていいのか?」
「クゥン」
「黒野、手伝ってくれ」
「分かりました」
黒野も来て手分けして宝箱を開けると金貨の入った袋や、マジックポーション。インテリメガネと巻物?そして、刀?と大盾が入っていた。
見て分かるものと鑑定しないとわからないものがある。
もちろん準備はしているので鑑定の巻物を使用する。
マジックポーションはもちろん魔力を回復するアイテム。
インテリメガネは、かけたものの魔力を+100する。
そして、大盾はノックバックシールド。刀は、瞬刀鎌鼬とある。
合成してないものの、それなりに使える装備かな。
もう自然と咲ちゃんと手を繋いで魔力を回復させつつ装備のぶんぱいをする。
と言ってもノックバックシールドは黒野で、刀は僕か。二刀流もありか。
インテリメガネは、咲ちゃんか柚子が話し合い柚子が装備した。
「どうお兄ちゃん?似合う?」
「ああ、頭良さそ~」
「適当なんだから、もう!」
「いやいや。柚子ちゃんは眼鏡美人だよ」
プンプンする柚子に黒野が褒めるが逆効果だったようだ。
「さて、この巻物はと」
「その巻物なんです?」
咲ちゃん近い。少しは慣れたと思ったものの不意に距離が縮まるとドキドキする。
「う、うん。なんだろう」
鑑定すると火球の巻物とある。どうやら、魔法の巻物みたいだ。
魔法は、その職業でレベルアップして覚えるか巻物を購入して覚えるかダンジョンで手に入れるか。
「ではではこれは、咲先輩がどうぞ」
柚子がみんなを見回した後に咲ちゃんに巻物をわたす。
「あざーす!」
咲ちゃんはみんなにぺこぺこしてたら黒野が「赤べこ」みたいだねと言って、ロッドでぐりぐりされてた。
「もっとこい!もっとだ!」
黒野の変態ぶりにみんな引いていた。
つづく




