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薄紅湿原. 4

空気の澄んでいる場所とは裏腹に中々のエンカウント率だ。


だけど、自然はいいので冒険者を護衛に雇って景色やバードウォッチングを楽しんでいる旅行者もいる。


しかし今はそれはいい。徳井とか言う奴を追いかけると少し開けた場所に出た。


そこでは徳井率いる冒険者たちが湿原狼を倒していた。


「……ひ、酷い。ワンワンをよくも」

「魔物は襲って来なければ観察出来るのに」

柚子と相川が不機嫌さを隠さずに怒っている。


しかし、よく見るとまだ傷だらけの湿原狼がいた。

なにかをかばってるみたいだ。


「ひははー!こりゃラッキーだぜ!魔物の赤ちゃんか!」

「へへへ!偶然ですね、徳井さん!

彼女に甘える時に赤ちゃん言葉になるみたい……いてっ!」

「るせー!早くこの親を始末して捕まえろ!」

ポカリと叩かれる鳥羽に怒鳴る徳井。

仲間の冒険者たちはそれを見て笑っている。


しかし、今の言葉にムカついた。剣士らしい男が剣を振り上げ振り下ろした!


みんなが目を伏せている間に僕は駆け抜けてその男の剣を白刃取りしていた。




「な、なにぃ!?こ、こいつ!?」

「ああ!さっきバスに乗ってたキモい奴だよ」

女の冒険者が言う。呪われたこともない奴が好き勝手言ってくれる。


「また、てめーか!なんのつもりだ!」

「なんのつもりもなにもない!」

僕の気迫に押し黙る徳井。そのまま剣をへし折る。

まるで、鉛筆みたいにパキッとね。


見ると地面で横たわる湿原狼は傷だらけでなにかをかばうようにしている。

「くぅ~ん」

やっぱり赤ちゃんがいるんだね。


そして、視界の端に仲間がやってくるのを捉える。

「勇気先輩!」

「お兄ちゃん!今、行くからね~!」

「そんなに急ぐとミニスカが、ヒラヒラするよ!でへへ!」

しまりのない黒野は後で説教だな。


「てめ~!魔物を助けるって~のか!」

「そうだぞ!徳井さんは魔物を倒して旅行者に被害が及ばないようにしてくれてるんだぞ!」

鳥羽を威圧するとすぐに押し黙る。


確かに魔物の赤ちゃんを生かしていても、後々被害が及ぶかもしれない。

それでも、親が子を庇うようなその姿を見れば守らないといけないと思った。


「いいからどいてくれ。友好的な魔物もいるってことをしれ」

「うう!みんなやっちまえー!」

可哀想に。数人の冒険者たちが襲いかかって来たけどみんなを待つまでもない。


斧使いの上段からの一撃を刀の柄で受け流して胴を打つ。

そして、もう一人の剣を受けて弾く。

冒険者同士の喧嘩はご法度なのに。

事情を話せばなんとかなるかな。


「どうか、退いてもらえませんか?」

「な、なめてんじゃね~!」

襲いかかって来た斧使いに大きな巖が激突して目を回して倒れた。


「スットライク~!」

「柚子、やりすぎだから」

大岩を投げて裏ピースする柚子をたしなめる。

「シールドスタンプ!」

黒野がジャンプして冒険者に盾を投げつけてその上に乗っかって踏んづける。


「ぐえぇ!おのれ!魔物を愛する奴め!」

「徳井!なにやってんのさ!あたしがやるよ!」

派手なギャルが長いつけ爪を装備して襲いかかって来る。速い!

黒野がガードする間もなく柚子が切り裂かれる。


「きゃあ!」

「柚子!」

柚子が、服を抑えてしゃがむ。

続いて咲ちゃんに向かうので前に立ちはだかりギャルの爪を弾く。


「ほらほらほら!どうした、化け物!

守る者があると辛いなぁ!?きゃはははは!」

何度も打ち合い咲ちゃんから引き離そうとするが動けない!?


「勇気先輩、大丈夫ですか!?」

咲の放つ風の連刃をギャルは爪で弾く。

「きゃははは!ばっかじゃねーの!今の私はエリア内に男が多くいるから無敵なんだよ!『ビッチ』のスキルでな!」

そ、それ自慢して言うことなのかな?

そうは思ったものの本人は、それでいいのだからなにも言わない方がいい。


「そうだぞ!恵梨奈はな、男がエリア内に多くいればその分ステータスが上がるんだ!」

鳥羽が、自分のことのように偉そうに説明する。


「私にはお金が必要なんだ!そこの魔物の子供を売って、ネット難民卒業だぁ!?」

理由はどうあれなので、峰打ちで眠らせる。


「てめー、鬼か!化け物!」

「それは、うるさいです。みんなそれぞれ辛いんだから、自分で頑張ってください」

僕の冷たい言葉に押し黙る徳井たち。

もう戦う気力がしないのか黙っている。


「……さあ。これ以上やる必要もないでしょう?」

「……ちっ!行くぞ、お前たち」

僕が抱えていた恵梨奈をわたすと気まずそうに去っていく徳井たち。


「……勇気先輩」

「咲ちゃん、大丈夫だった?」

「うん、ありがとう。守ってくれて」

そして柚子を見る。怪我はなさそうだけど、服が破れているので上着をかけて上げる。


「ありがとうお兄ちゃん」

「怪我ない?」

「うん、平気。それより……」

見ると黒野が率先して湿原狼に近寄り唸られている。

その手にはハイポーションが握られている。

黒野なりになんとかしようとしてるのか。




しかし、僕が近づくと尻尾を振っている。

「……君の怪我を治したいんだ。いいかな?」

怖がらせないように出来るだけ優しく話す。

「クゥ~ン」

狼と言うより犬か。ハイポーションを使って怪我を回復してあげる。


怪我が治ると湿原狼は起き上がり下に隠していた赤ちゃんをペロペロなめている。普通にかわいいな。


もしかして、湿原狼の巣かなにかに近寄って刺激してしまったかも。


「かわい~!」

柚子は瞳をきらきらさせて湿原狼の赤ちゃんたちを眺めている。

「う~ん。見れないのが残念です」

咲ちゃんにも見せて上げたいな。



つづく



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