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五月 薄紅湿原.1

春も半ばに入ると新緑が元気になって街が翠の景色が強くなる。



五月に入ると少しづつ暖かさが強くなる。

でも今年は少し涼しいかな。





「おはよ~!」

「おはよ、里中」

「里中くん、数学の宿題やった?」

一月前と違って僕が教室に入ると挨拶されるようになった。


瀬田を倒したことが広まったからか。

みんな現金と言うか。正直、みんな僕を避けていた訳だし複雑ではあるけど、ここで反発しても気まずくなるだけなので普通に挨拶はしとく。


「おはよ、里中」

「うん、おはよう冬川」

隣の席の子にも挨拶して席に着く。

しばらくすると、瀬田たちリア充も登校してくるがあれ以来瀬田とは会話してない。気まずい。


最初はピリピリしてたけど、瀬田の友達が僕に負けたことをいじり、周りが楽しそうに笑ってそれで終わりだ。



「……里中」

「ん?なに?」

「ごめんね、その」

「え?」

隣の席の冬川が謝ってきた。あれ?なんか僕にしたっけな。


「私、里中が避けられてるのに……なにもしなかった。てか、私も避けてた仲間外れにされるのが嫌で」

騒がしい教室の中で冬川は気まずそうな表情で謝る。


「いや。もういいよ。僕が冬川の立場なら同じことをしたかもしれないし」

「……ん。ありがとう。その呪い解けるといいね」

「ああ、ありがとう」

丁度そこへチャイムが流れ先生が入ってくる。

まあ、クラスで避けられなくなったけど、他のクラスの生徒からは避けられることも多々ある。


授業はちゃんと受けてはいるけど、やはり眠たくなることもある。

ダンジョン探索をしたいと身体がウズウズしてしまう。

最初は呪い解くカギを探していたし、人の目線を避けるために潜っていたけど今は強いのでアイテムを探すのも楽しくなってきた。

後ろ向きの理由よりはまあ、前向きでいいよね。




放課後。大きく伸びをして立ち上がる。

「里中。今日も探索するの?」

「ああ。冬川も部活か?」

「うん。今年こそ全国行きたいし」

冬川はバレー部だ。いつか県大会を突破したいと言っていた。


「せ~んぱい。部活行きましょ?」

廊下に出るといつものように咲ちゃんが待っていて。

クラスから、暖かい目線で見守られてるような気がするのは何故かな?


「いや~、少しづつ涼しくなって来ましたね」

「そうだね」

「勇気先輩は、今年のゴールデンウィークはどうします?」

「……いや、特には」

人混みのとこに行ってもじろじろと心ない目で見られて質の悪い奴には馬鹿にされるだけ。

それならまだ、地元にいた方かいいかな。


放課後の喧騒をBGMに聴きながら歩いていると黒野がやってくる。


「お義兄さん、こんにちわ。そして、咲ちゃんもこんにちわ」

「俺はお前のお兄さんではない」

「黒野どうしたの?」

「いえ。部室へ行ったものの、誰か見知らぬ女子がいたのでドロンしてきましたよ~」

「ああ。黒野は女子が好きだけど実際二人きりだと固まっちゃうもんね~」

咲ちゃんがからかうように言う。わたわたする黒野。

て、待て。今、ドロンて言わなかったか。古代語の?


「ぼ、僕には咲ちゃんしか見えてないから!」

「私はなにも見えないんですけどね?」

「そ、それは……」

「こらこら、軽く返してよね~」

咲ちゃんがにやにや笑いながら黒野の脇腹を小突く。

いや、流石にそれはツッコミしづらいけどね。ホントに見えない訳だし。


「なんだかんだ仲がいいね、二人とも」

「あ、お義兄さんには分かっちゃいます?」

「いえいえ、じゃれてくる黒野をいなしてるだけで私は、勇気先輩だけです」

そして、腕を組んでくる。これはこれで、照れくさいんだけど。


「ああ!こら!咲ちゃんから離れなさい!」

「それよりその女性って誰?」

「うむむ。ふ~む。少なくとも僕のファンではなかったかな?」

僕の問いに真剣に悩んでるんだけど。

これはこれで、大丈夫なのだろうか?




旧校舎の空き教室。そこが僕たちの部室。

とは言っても、好きでそこにいる訳でもなく。

ほとんど同好会。いや、同好会なんだけどダンジョン部に対抗するために部と名乗っているだけなんだけどね。


「………相川?」

そこで待っていたのは、見覚えのある生徒だった。

相川愛美はこちらに顔を向けると手を上げる。


「久しぶりだね」

「ああ。そうだね」

「……先輩、誰ですか?彼女ですか?」

「ち、違うよ」

声が冷たいんですけど。

黒野がそこで優雅に前に出て相川に一礼する。


「相川先輩と言うんですか?美しい」

「あなた、でかいわね~。ちょっとどいて。里中と話せないから」

「くすん」

おい。高校生でくすんはないと思うんだけど。

そして、黒野をどかして僕を見る。




「えと。賑やかな部でよかったかな」

「まあ。なんだかいつの間にか人数が増えてたよ」

教室内に案内して適当に腰かける僕たちは相川と話しをする。


「それで、用件てのは?」

「ああ、うん。実はお願いがあって」

「お願い?」

「お断りします」

「さ、咲ちゃん。まあまあ、気持ちは分かるけど話しだけでも聞こうよ」

咲ちゃんはぷんぷんしている。僕がダンジョン部から追い出されたことに怒ってるのだろう。


「魔物調査に付き合って欲しいの」

「魔物調査?」

どう言うことだろうか?それなら自分の部ですればいいのになと思いながら話しを聞く。



つづく


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