過去.5
「ひゃはははは!俺は無敵だ!最強になるんだ!」
アホなこと言ってる瀬田のとこへ少しづつ近づき、一気に間合いを詰める。
「せたぁぁぁぁぁ!」
「ああ!?ゴミはすっこんでろ!」
振り返り様、テラーソードを叩き込まれた。
そのまま、壁際までごろごろと転がっていく。
「…くぅ」
「お前は邪魔だ。弱いくせに荷物持ちで安定しているお前にはなぁ~」
言ってることは胸に痛いけど、やはり目が虚ろだ。
あの剣やっぱり呪われているのか。
また、壬生先輩と打ち合う。確かに僕は弱いけどね。
こんな時に逃げる程落ちぶれてもいない。
「はあっ!」
瀬田の連斬!響く剣の音。しかし、弾かれて刀を落としてしまう。
「くっ!呪われても流石は瀬田か……」
それでも後退りをしない壬生先輩は凄いなと思う。
僕ならどうだろうか。震えて動けないかもしれない。
「俺は……最強だぁ!」
瀬田は禍々しい剣を振り上げる。僕はアイテム袋から小さな袋を投げる。
「瀬田!」
振り向き僕の投げた袋を斬ると紫色の煙が瀬田の顔にかかる。
そのまま瀬田へと駆ける。僕が努力をしなかったって?
「したに決まってんだろ!」
荷物持ちなりに出来ることを。アイテムの知識。魔物の弱点を調べたり、普通に筋トレとかもしてパーティーの動きについていけるように。そして今みたいにアイテムのスローイング。
今の麻痺薬によって瀬田の動きが鈍る。
「うがぁ!てめ……」
今だ!瀬田の剣の振り下ろしより速く懐に踏み込んで手を当てる。
「バッドムーブ」
バッドステータスの移動。瀬田の呪いが僕に移行する。
「くぅぅぅあああ!」
その瞬間、身体が重くなり呪いの影響からか、僕のスキルが破壊される。
つまり、荷物持ちとしても役に立たなくなった瞬間だった。
気づけば、病院のベッドの上で家族が心配して泣いていた。
なぜ泣くのかと聞いても答えてくれない。
でも、妹は隠すのが嫌だから手鏡を見せてくれた。
「なん……だこれ?」
なにかの特殊メイクかと思ったが呪いの影響かとも思った。
なにかの病気かと思ったけどステータス表示を見たら解けない呪いとある。
なんだそれ。いやいや、普通に解けるだろうと何処かで楽観的ではあった。
しかし、医療でも薬でも効果はなかったと言われた。
可能性としてはその罠を仕掛けた奴を探せと言われたが、そんなのどこにいるのか?
おとぎ話しの魔王とか?そんな空想かなんかだろ?
ともかく僕の人生は今まで大したこと亡かったけど、もっとドン底になるとは思わなかった。
「先輩。大変だったんですね」
「………!」
咲ちゃんが僕を抱き寄せて頭を撫でてくれる。前もあったな。
しかし、みんなの前だから照れくさい。
「……すまなかったな、里中。上級生の僕が不甲斐ないばっかりに君が呪いを受けてしまった」
「いや、それはもういいですって」
どっちにしたって生徒から避けられてるのは変わらないし。
「やっぱりよくありませんよー!瀬田の大馬鹿も、あなたも!」
咲ちゃんは思いのままに叫ぶ。美人は怒った顔も可愛いと言うことか。
いや、それはいいんだけど。僕のために怒ってくれてると言うだけで。
それだけで救いだと思った。
僕が呪われた後の事はあまりいい思い出はない。
引きこもってしばらくは高校にも行けなかった。
行ったところで同情や蔑みで居心地の良い場所ではなかった。
だから、ダンジョン探索ばかりしていたっけ。
ともかく今日はもう探索する気分ではないのでギルドにだけよってみた。
昨日のダンジョンのアイテムと使わない素材の換金と素材の合成をすることにした。
「これでこの黒野もパワーアップするのだな」
「はいはい」
まあ、言ってることは間違ってないけど咲ちゃんな軽くあしらわれている。
「ふぉふぉふぉ~、良く来たねチミたち~」
今日のギルド職員は休日だからか幸田さんはいなかった。
「うげっ!」
柚子が背後で悲鳴を上げそうになってるけど声が漏れてる。
丸々としあおじさんが汗を吹きながら素材を確認してくれる。
「チミたち。休みだってのに探索なんて良くやるね~」
そして僕たちをにやにやと眺めてる。
なんだこの人。こんな見てるだけで引いてしまうギルド職員がいたのか。
でも、そんなこと言ったら可哀想だし。
汗でねっとりとした金貨の入った袋を受け取ると「ホテル代わりにダンジョンを利用するとは豪気な方々だ」と言われた。
「あのおじさんサイテー」
「黒野以上だよ~」
「あの、僕をあんなのと一緒にしないでよ」
ブーイングの嵐だ。しかし、セクハラ発言されれば仕方ない。
「……!」
「どしたのお兄ちゃん?」
「いや、身体が軽くなってる?」
さっきの瀬田とのバトルでの疲労感が抜けているのだ。
「確かに私たちも軽いですね」
「ホントにね」
僕たちが身体を捻っていると他の探索者が声を駆けてきた。
私服で年上の男女のパーティーだから、外からの来訪者だろう。
土日は他の探索者たちにも開かれているから。
「君たちもあのおじさんの洗礼受けたの?」
綺麗な女の人だ。高校生にはない大人の魅力。
そんなことを思って見てたら咲ちゃんに睨まれた。
「は、はい。そうですけどあなたたちもですか?」
「そうなんだよ。セクハラ発言されてイラッとしたけどさ~」
「でも、他のギルド職員に聞いてみたらなんと」
「なんと?なんですか?」
女性の方に身を乗り出す黒野の首根っこを柚子が引っ張る。女性の方がひいてるじゃないか。
「う、うんあのおじさんのスキル『セクハラ発言』は冒険者や探索者の疲れを癒してくれるみたいなの」
「そ、そんなスキルがあるんですか?」
にわかには信じがたいが、黒野のM男ってスキルがあったよね。
ならそう言うのもあるのかもしれない。
「もしそうならあのおじさんは、私たちのことを嫌われることを覚悟して疲労回復してたってこと?」
「そうだね。柚子ちゃんの存在が僕のことを癒してくれるよ」
「と、ともかくそう言うことだからあの人のことはそんなに嫌わなくてもいいんじゃないか?」
男女のパーティーは、訝しげに黒野を見ると僕たちに手を振って行ってしまう。
鍛冶屋に行くといかついおじさんがトンカントンカン武具の手入れをしていた。
「すみませ~ん!合成お願いしてもいいです?」
柚子の声にいかついおじさんがこちらを見る。
「おう。らっしゃい。合成か?」
無愛想なのは相変わらずだけどここの人たちは僕のことを見ても蔑みも同情もしないからありがたい。
魔物の素材を見せるとみなれたものなのかなにも言わないと思ったけど、化け狐の尻尾や魔石を見ると少し驚いた感じか。
「ほう。フロアボスを殺ったか。くくく。久しぶりに鍛えがいがいりそうだな」
おじさん、表情がうきうきしてるよ。でも怖いよ。
「見たとこここの生徒か?若いのにやるな」
「黒野、凄いだろ?」
「アピールはいいから!」
咲ちゃんにチョップされている。
それぞれの武器や防具。そして制服に合成してもらう。
どうやってるのか知らないけど合成はすぐにすむ。
「おお、これは……いいものが出来たぜ!」
おじさんが興奮したように言う。
小狐丸―化け狐に特効
神楽鈴―(白狐)―化け狐に特効
風使いのロッド―風属性の魔法の威力を上げる
ミンクのコート―狐の名のつく魔物からの攻撃ダメージを軽減
里中勇気 侍 Lv.???
スキル 経験値体質
ダメージ逃がし 呪いの力 見切り 刀技Lv.10
装備 小狐丸+1
蒼の制服+16
革の手甲+13
スニーカー+13
春野 咲 魔法使い? Lv.24
スキル 移動補助 気配察知
手を繋ぐ 視界暗転
連続魔法 魔法Lv.3
装備 風使いのロッド+1
蒼の制服+16
リストバンド+11
ローファ+14
里中柚子 巫女 Lv.23
スキル 力変換 ハイテンション 回復之祝詞Lv.3
装備 神楽鈴(白狐)+1
灰色のセーラー服+14
革の小手+10
リボン+12
運動靴+10
黒野道雲 魔力盾兵士 Lv.20
魔力吸収 魔力カウンター
女好き M男
装備 銅の大盾+13
蒼の制服+12
革の足甲+10
ローファ+13
「ありがとうございます。またよろしくお願いします」
「おう。いい仕事をさせてもらったぜ。めげずにがんばんな」
おじさんはいかつい顔でそう言うと、店の奥へ引っ込む。
僕のことを心配してくれてたと言うことか。なんだか嬉しいな。
つづく




