過去.4
みんなでアイテムを使おうとすると、「おっ!宝箱はっけーん!」といつの間にか先へ進んでいた瀬田が声を上げる。
あいつ。また勝手に。僕はイライラしてきた。
お前のせいでこっちは死にそうになったのにあいつは反省どころか、楽しんでるじゃないか。
まだ、この辺りはスキルは使えない。
不用意に開けるなんてことはしないと思うけど。
「取り敢えず言ってみよう」
壬生先輩の言葉に部員たちは頷く。
この公園迷宮の先になにがあるのか。
瀬田はいた。確かに。しかし棒立ちしていてどこか様子がおかしい。
しかも床に置かれた宝箱はすっからかんなのか開けた後がある。
「おい瀬田。宝箱の中身はどうした?」
部員の一人が尋ねると瀬田は虚な視線を向ける。
「なにも…なかった」
「は?なにもないってどういう……」
それは一瞬のこと。踏み込んだ瀬田はその部員を斬った。
「………え?」
なにが起きたのか分からないままそいつは倒れる。
「なるせ!」
誰かが叫ぶ。他の部員が回復薬を使おうとする。
僕は瀬田の行動に動けなかった。
あいつ。なに……してんだ?
「里中!薬!おい!」
平手打ちされてハッとする。七瀬葵だった。
「あ、ああ」
僕はその倒れた部員。鳴瀬の元へと急ぐ。
脇腹を押さえているが、致命傷は外れたみたいだから、ここはハイポーションで。
ボス戦用に取って置いたものだけどいいよね。
「……う……す……すまな……い」
鳴瀬は、僕のことを荷物持ちと馬鹿にしていたけど、それでもこんなに傷ついていたらほっておけない。
瀬田はテラーソードを構えて次の部員へ狙いを定める。
「させん!」
壬生先輩と相川愛美が交互に相手をしている。
響く剣戟の音。二合三合と打ち合う三人。
しかし、徐々に二人の動きは鈍って来る。
テラーソードの恐怖が二人にバッドステータスを与えている?
「くかか。弱いぞ人間。久々の人間とのバトル楽しませてくれよ」
瀬田の口から別人のような声が漏れる。
いや、ヘリウムガスみたいな声なので、こんな時なのに吹き出しそうになってしまう。
「はっ!隙あり!」
相川愛美のヌンチャクが炸裂してカウンターでボディブローを容赦なく食らう相川は壁際まで吹き飛んだ。
「相川っ!」
「くくく。生きてるから心配するなよ。
まあ、なんらかのバッドステータスは受けてるだろうけどな」
離れて見てる僕たちは取り敢えず鳴瀬は大丈夫だったので、様子のおかしい瀬田に観察の巻物を使用した。
すると、呪いと言うバッドステータスが表示されている。
「やっぱり呪われてる」
「やばいね。今の私たちには対処出来ない」
「……うん。七瀬」
「なに?最後に愛の告白?」
「ち、違うよ。みんなを連れて先に避難して」
「え?なに言ってるのよ。退却するにしてもみんなでだよ」
「そうなんだけど。それは無理だよ」
見ると打ち合っていた壬生先輩も吹き飛んだ。
スキルも使えないしこれじゃあ無理だ。
「それに重いんだ」
「え?」
「僕のスキルも発動しないから荷物が重たくて」
スキルの『荷物重量無効』が封じられていてる。
ただ一つを除いては。そのスキルが何故作動しているか分からないけど、きっとこの時のためにあったのかもしれない。
確かに兆候はあった。ダンジョンで誰かがバッドステータスを食らうと僕のそのスキルが使用可能になる。
普段は使えないから条件発動スキルなんだろう。
「………ま…て……残るな…ら俺が…」
「駄目だよ、鳴瀬動いちゃさ」
「…俺…は…お前…を……馬鹿にして…た。
でもお前はそれで…も助けてくれ…た」
「もういいから。しゃべらないでくれ。七瀬、さあ早く」
「ちょっ、里中!」
七瀬が止めようとしてくれるも僕は壬生先輩のとこへ。
呪われた瀬田は更に強く重たい斬撃で壬生先輩を追い詰める。
知らなかった。壬生先輩、近接でも結構イケるんだ。
つづく




