過去.1
僕たちは、壬生先輩が三年になったらあまり探索も出来なくなると言うことで、みんなで、市街地まで遊びに出掛けていた。
ショッピングモールで買い物して映画を見て。
夕方。そろそろお開きにしようかと思っていたら僕は気づいた。
「……壬生先輩」
「どうした、里中?今度はカラオケで弾けたいのか?」
「い、いえ。そうじゃなくてこれ」
スマホの画面を見せる。そこには周辺地図が載っていて近場のダンジョンの位置が表示されている。
その中の一つに壬生先輩が注目する。
「……こんなとこにダンジョンあったかな?」
眼鏡のズレを直しつつ、鋭い目線を向ける。
「どれどれ。お、里中お手柄じゃない?これ、隠しダンジョンじゃないかな?」
七瀬の言葉に他の部員たちも色めき立つ。
ダンジョンによっては、条件を満たさないと現れないダンジョンがある。
そこには、強い魔物とレアアイテムがあると言う。
そもそもダンジョンは、自然現象の一つと言われていて解明されていない。
初めて現れたダンジョンは、古代の頃だと言われている。
「でかした、荷物持ち!部長、行ってみましょう」
瀬田が、うきうきしながら言う。
近くにいた女子部員たちもうんうんと頷く。
この女子たちは、壬生先輩よりも瀬田の味方をよくしている。
「……しかし、なにも準備はしていないぞ?」
年のための装備はあるけど、回復アイテムとかは用意していない。
そのまま行けばこいつにだって分かるだろうに。
「ほら、壬生先輩ともこれからは、あまり探索出来なくなるでしょ?」
「そうだよ~。瀬田がせっかく言ってるんだし」
「いこいこ!」
そう言って、駆け出そうとするのを壬生先輩は止める。
「待て。行くなら準備してからだ」
「おっ!そうこなくっちゃな!」
「はぁ。瀬田は子供ね。あいつが敬語を使ってるのを見ると身体がムズムズするわ」
「な、七瀬。言い過ぎだよ」
僕たちの会話に副部長の近藤先輩も加わって来る。
「まあ、いいじゃないか。新たなレアアイテムが手に入れば来年の大会で有利になるだろうし」
近藤先輩は、ただ厳しいだけでなく部員全員を優しく見守ってくれる。
「そうですね」
まあ、僕はそんなに強くないから後方で見守るしかないけど。
「ギルドに報告するのは後にしよう」
瀬田が言う。こいつのことだ。
下手に知らせたら、他の冒険者に情報が知れわたるのを防ぎたいのだろう。
人混みを避けながら僕たちは、ダンジョンのある場所を地図アプリで見ながら移動する。
「おい、瀬田。歩きスマホは迷惑だから止めなよ」
「るせーな。七瀬は頭が固いんだよ」
「あ~あ。あいつが誰かにぶつかってスマホ落として、怪我でもすればいいのに」
「七瀬、口が悪いぞ」
僕の言葉にぺろっと下を出す。
「里中だって、荷物持ち扱いされてるんだから、文句の百や二百は言っていいと思うよ」
「それは、言いすぎだと思うよ」
呆れながら進む僕たちはやがて、広い公園にたどり着いた。
八佐原公園と言って、やたらと散歩コースが広く、半年に一度の競歩大会は近所の老人たちに好評をはくしているとか。
そのお陰か、この辺りの老人たちは長生きするとニュースで取り上げられていた。
もう、夕方なので人影は、カップルくらいなものか。
あっちでもこっちでもちちくりあっているが、瀬田はそんなことを気にせずに歩いていく。
「おお~」
「へぇ~」
まだ、恋人のいない部員たちは興味津々と言った感じでチラチラ見ているので、壬生先輩に注意されている。
「里中はみないの?」
「見るか!」
にやにやと笑いながらからかってくる。
寒いし、誰がそんなことに無駄に時間使わないと行けないんだ。
「でも、カップルってさ」
「ん?」
「横に並んで歩いていて、狭い道とかだと一列になって歩けって思うよ」
「あ~、それ分かる」
二人だけの世界に入り込んでいるカップルは確かに邪魔だと言うそんなことを話してると、目的地は見えてきた。
つづく




