出会い.3
蛇の魔物、踊るヘビーを宝箱で見つけた無名の刀で袈裟斬りにして、返す刃でコウモリ傘を逆袈裟で斬る。
「よっ!ほっ!」
咲ちゃんも、軽々と狐火を氷で凍らせている。
てか、氷の魔法も使えるのか。
途中で、自販機を見つけたのでコインを投入してどれにするか尋ねると、バナナジュースを選択する。
僕はコーヒー。
本格的なのも嫌いじゃないけど、缶コーヒーは手軽で好きだ。
ペットボトルをわたそうとして、春野は受けとり損ねて落としそうになる。
「おっと。ドジだな」
「えへへ。まあね」
「なんで、自慢気?」
誤魔化し笑いをして、今度こそ受け取る。
「ごちでーす」
そう言うと春野は、美味しそうにバナナジュースを飲む。
バナナジュース。一時期流行ってるなんて言われたけど、その気配を感じたこともない。
春野は、ロッドを持っている。ファンタジーに出てきそうなロッドを。
それをついて移動するので、もしかして足の具合でも悪いのかなと思う。
「……ん?なんですか、先輩。もしかして飲みたかったですか?」
「い、いやなんでもない、そろそろ戻ろうか?」
「あれ~?もしかして間接キスとか気にしてます~?初なんだから」
「き、気にしてないよ。てか、初なんて初めて聞いたな!」
缶コーヒーを一気飲みしてゴミ箱に投げると上手く入った。
そして、恥ずかしさを誤魔化すように時計を確認する。
時間も時間だ。夜は、魔物も強くなる。それに、女の子を夜遅くまで連れて潜るのは悪い。親も心配するだろう。
「あ、はい。もう暗いです?」
「ダンジョン内だから分からないけど、五時半」
まあ、陽の暮れるのは遅いとは言え、戻る時間も考えると出る頃には暗くなるだろう。
「じゃあ、こっちですね」
「ああ」
ダンジョンから出るには、歩いてもどるかエレベーター。
それか、転移石と呼ばれるダンジョンから発見される石がある。
「あそこにありますよー」
「このダンジョンは、エレベーターがあって便利だな」
「ええ。あ……」
春野が固まる。背後から人影が迫ってくる。
近づくと同じブレザーを着ているので、どうやら同じ学校の生徒らしい。
制服に着なれてない感じがあるので、一年かな。
おかっぱ頭のそいつは、僕に目もくれず春野に近寄る。
「春野!探したよ。僕だよ!さあ、帰ろう?」
おかっぱ頭のそいつは、春野の腕をつかんで連れていこうとするのでその手を取って外させる。
「おい、嫌がってるじゃないか。放して上げな」
「うるさいな、化け物!お前、アレだろ?
学校でハブられてる先輩だろ?春野にちょっかいかけないでもらえるか?」
なんか、ヤバそうだと思ったので刺激しないように声をかけたものの、言葉のナイフで僕の心を抉ろうとさている。
ああ。化け物だよ。だがな。
力を込めると男子生徒は痛そうに顔をしかめる。
「いててててて!放せ!放せ!さもないと貴様もおかっぱ頭にさせるぞ!」
「残念でした。お前なんかの言葉なんか、聞きなれているんでね。傷つかないよ」
僕が睨みつけると、悔しそうに唇を噛む。おい、血が出てるぞ。
てか、おかっぱ頭にさせるぞって脅しに使うってことは自分で変な髪型って思っててその髪型にしてるってことか。
「そうか。春野の目が見えないからって近寄ったんだ……ろ!?仲良くしてもらえると思って!」
男子生徒が言い終わらない内にひっぱたかれる。
それはホントに、目が見えないのかってくらい見事なビンタが男子生徒に炸裂した。
その生徒は、へなへなと座り込んでしまった。情けない。
「ど、どうして?ぼ、ぼきは君のことを心配してここまで来たのに!?」
「余計なお世話!いくら友達だからって距離と節度を守ってよね!それと!」
春野がドンとロッドを叩くと風が舞い上げる。
「うひっ!?」
情けないな。あまりに情けなくて怒りも収まる。可哀想になってきた。
「先輩は、私を助けてくれたんだ。その先輩を馬鹿にするのは許さないから!」
「………」
「分かった?分かったなら二度と私に話しかけないでよね!」
春野の剣幕に情けなく頷くと、四つん這いになって去っていく。
「お~い。エレベーターこっちだぞ?」
「あんな奴に優しくしないでいいんですよ、もう」
そしてしばらくすると、頬を押さえて恥ずかしがる。
「わわっ!私としたことがあんな鬼みたいに怒って……先輩~」
「うん。春野を怒らせないようにした方がいいんだね」
「あぅ~」
自分の頭をぽかぽかやってる姿がかわいい。耳まで真っ赤だ。それはともかく。
「え、と。聞いていいか?」
「あ、はい。スリーサイズ?」
「ち、違うよ。目が見えないって」
「ええまあ。幼い頃は見えていたみたいなんですけどね~」
困ったように笑う。と言うことはステータス異常か。僕みたいに。
「いつの間にか、見えなくなっていたと言うか」
魔法みたいのを受けた気がすると。そう話してくれた。
それはもしかして僕と、一緒なんだろうか?いや、状況が違うか。でも、これで納得した。
僕のことを見えないから、嫌うことも無かったのか。まあ、そうだよな。
つづく




