土日に君と妹と.18
「なんだ。待ち合わせは昨日の場所だろ?」
「ふん。今日は探索に来る奴もいるだろ?
だから、別の場所にした。着いてこい」
顎でしゃくるととっとと体育館の方に行ってしまった。
しょうがないので僕も着いていく。
体育館の隣。そこにある古ぼけた建物は、鍛練場で冒険者たちが腕を競いあっている。
ほぼ、ダンジョン部が独占しているのはしっている。
他の剣道部や柔道部が使用してないのは、ダンジョン部が命をかけている部活だからと使わせないからだ。
部長の壬生先輩は、そゆなことはないがこの瀬田が追い払ってしまうのだ。
ズカズカと鍛練場に入って行く瀬田に続いてくつを脱いで入ると、懐かしい畳の冷たい感触。
昔は、弱かった僕はこそこそと鍛えていたもんだ。
弱くて他の部員も相手してくれなかったから。
「七瀬に、壬生先輩?」
「やあ」
「久しぶりだな、里中」
「お久しぶりです。どうしてここへ?」
「……いや。決闘と聞いて。部長としては黙って見ていられない」
「まだ、そんなこと言ってんですか?
稽古ってことにすれば問題ないでしょ?」
相変わらず先輩にもナメた態度だな、こいつは。
少し考えれば分かるだろう。学校の中で威張っても、井の中の蛙だって。
卒業してもこいつはこんにに偉そうにしていられるのか。
「……どうしてもやるなら立ち会うしかないが。里中もそれでいいのか?」
「はい。大丈夫です。迷惑かけませんから」
僕があくまで落ち着いて答えると、忌々しそうにこちらを見てくる。
「いいから、とっとと始めるぞ!」
竹刀の立てかけているとこへ行くと竹刀ではなく、木剣を持って来る。そして、一つを放る。
「ちょっと、瀬田!木剣じゃなくて竹刀!」
「いいだろう別に。より実践的な稽古だよ」
自信ありげににやにやしている。
「勇気先輩」
「大丈夫だから、見てて」
「ふん。かっこつけてんな。お前なんて『荷物持ち』のスキルしかないだろうがよ、化け物」
馬鹿にしたように笑う。荷物持ちも立派なスキルなんだけどな。
重量を感じないで荷物を運べるから、サポートには重宝されている。
まあ、今はそのスキルはある理由で手放してしまったけど。
「……すまないな、里中。うちの部員が」
「いえ。でも僕が勝ったら部長らしくしてくださいよ」
「……そうだな。ああ。俺は…」
なにか言いかけた壬生先輩の脇を通り抜けて前へ出る。
「ごめんね、うちの瀬田が」
「いいよ、七瀬。まあ、あいつのスキルは有用だからあいつも天狗になったんだろ」
「うん。でもそれはちょっと違うかな」
「ん?違う?」
「おい!女子とイチャイチャしてんなよな!さっさとやるぞ!」
僕は、すまなそうな表情の七瀬の肩を叩くと、瀬田の方へ。
「お兄ちゃん!そんな傲慢ぶっ飛ばせ~!」
「勇気先輩!気をつけて!」
「そんな傲慢先輩を倒せ~!」
後ろのギャラリーのせいで集中が出来ない。
応援は嬉しいんだけどな。瀬田の方には、同じクラスの笹岡がいる。
瀬田とは仲良くてつるんでるカリスマ美容師みたいなイメージのイケメンだ。
そいつは、なにを考えてるのか応援するでもなく、ただ静かにこちらを眺めてる。
「審判は、不肖この壬生が務めさせてもらう」
「はいはい。早くしてくれよ」
「ルールは、一本いれるま……」
「そんなの生ぬるい!どっちかが倒れるまでだ!」
そう言いながら、瀬田は斬りかかってきた。おいおい。
瀬田の『先制攻撃』をもろに食らう。
更に、振り回した袈裟斬り。滅多打ちに攻撃してくる。
「ははは!どうした里中!怖いのは見た目だけか!」
「………」
容赦なくバカスカ殴ってくる。
「壬生先輩、まずいよ。止めないと!」
「あ、ああ」
止めに来そうだったので、手で制す。
「なんだ。化け物!叩かれるのが趣味だなんて、変態だな!」
そして、瀬田の二つ目のスキル。『十連撃』で打ちまくる。
重さよりも、速さ重視で木剣を繰り出す。
しばらくして、打ち疲れたのか距離を取る。
「……気が済んだか、瀬田」
「な……に!?」
僕がピンピンしているので驚いている。
「お前じゃあ勝てないよ」
「うるせー!なんでだ!?なんで、倒れねー!?」
また、打ち据えて来る。七瀬が止めようとするも、壬生に制される。
「勇気先輩!」
「大丈夫だから」
「スカしてんじゃねーぞ!?」
瀬田の横薙ぎの一撃を防ぐ。
「お前がなににイラついてるか知らないけど、僕に当たらないでくれ」
「うるせーな!荷物持ちがぁ!」
また、十連撃だ。その一つ一つを捌いていく。
圧倒的な実力差を分からせるために。
「さあ。次はどうする?」
「おのれぇーーー!」
まるで、悪役なんだけど。その瀬田が木剣を振り上げた瞬間に踏み込んで胴を打つ。
呪いの閃撃!
黒い禍々しいオーラをまとった木剣を振るう。
ズドン!胴を打つその凄まじい音に瀬田の動きが止まる。
あ。あばら何本かいったかも。
「がっ!」
木剣を取り落とし倒れる瀬田。
「勝負あったな。お前の勝ちだ、里中」
静かに言う壬生先輩。なんだか勝利しても嬉しくないな。楽しい試合でもなかった。
つづく




