土日に君と妹と.14
「うぜ~!マジうぜ~!お前が来なくてもあんな奴俺が倒せたんだからな!」
目を覚ました瀬田に、七瀬が説明するとそんなことを言い出した。
みんな呆れている。リア充ってもっと心に余裕のある人たちのことじゃないのか?
見た目が恵まれている奴は、ワガママだけなのだろうか。
「あなた、助けてもらっておいてそれはないでしょ~」
「なんだ?生意気な後輩が!俺は一人でやれたんだ!」
「……一人」
七瀬が、その言葉に反応すると瀬田をひっぱたく。
七瀬のビンタの音が静かに広まり、鎧狸たちがビクッとしたので、頭を撫でる。
「瀬田。あんたのそのゴミみたいな性格のせいで里中は辞めたんだ。
それに、一人って言うな。
あんたのワガママに付き合ったこっちの身になって」
七瀬は、普段静かな感じだから怒るとは思わなかった。
七瀬の言葉に、瀬田は言葉が詰まる。
「そうだそうだ、顔だけでやっていけると思うな!」
「ゆ、柚子。ちょっと黙っていようか」
慌てて柚子の口を塞ぐともごもごなにかしゃべってる。
「え?黒野さん素敵だって?」
黒野も黙らせたいんだけど。勝手なこと言ってるよ。
「……で、まだ勝負するのか?」
僕はあくまで冷静に言う。
「里中。もうこいつに合わせなくてもいいよ。
春野さんだっけ?ごめんね、うちの部員がちゃんとしてなくって」
「黙ってろ七瀬。俺は一人でもやれる」
「はいはい。じゃああなた一人でやってよ。私はもう帰るから」
「ちっ!お前も使えねーな」
気づいたら、瀬田の服の袖を掴んでた。
多分速くて、瀬田は反応できなかったろ。
「てめっ!化け物のくせに放せ!」
「お前、七瀬に謝れ」
「な……にを!」
「里中?私はいいよ、だから揉めないで」
七瀬が慌てて止めようとする。咲ちゃんたちもだ。
しかし、それで僕を剥がせるものはここにはいない。
「お前みたいな人に恵まれている傲慢な奴には、腹が立つ」
「こいつ!」
瀬田は、僕に頭突きをしてきた。
「お兄ちゃん!」
「勇気先輩!」
「打ちまくれ~」
黒野だけは、台詞がよくわからない。
ともかく僕は怒っている。呪われてから周りは僕を避ける。クラスメイトも遠ざかる。
外を歩けば馬鹿にしてくる奴もいる。
スマホで撮影してくる奴もいる。
それでもキレないで生きているんだ。
だから、こんな恵まれている奴が、一緒にいてくれる仲間をぞんざいに扱うのが許せない。
「このまま競争するのも面倒だから、一対一で勝負しよう」
「なにっ!?お前みたいな奴が俺に勝てると思ってるのか!」
「お前みたいな奴が僕に勝てると思ってるのか?」
僕は、あえて挑発した。こいつにとってはダンジョン探索なんて遊びだろう。
でも、僕や春野にとっては呪いを解くカギを探す探索なんだ。
こいつにいつまでも、付き合っていられない。
「いいだろう!俺が勝ったら、探検部は廃部だ!」
「いいよ。僕が勝ったら七瀬に謝れよ?」
「ふん。いいだろう。今からやるのか?」
「ぼろぼろのお前に勝っても仕方ないから明日ここで勝負だ。午前10時だ」
「分かった。逃げんなよ」
そう言ってズカズカと去っていく。
「いいの、里中。私のことなら気にしなくていいよ」
「いや。ああ言う奴は許せないから」
「七瀬先輩、言っても駄目ですよ。
お兄ちゃん普段は物静かで優しいですけど、キレたらもう頑固ですから」
肩を竦めて苦笑する柚子。なぜか、うんうんと頷く黒野は僕のこと知らないだろ。
「それにしても、びっくりした~。
里中先輩も怒るんですね~」
「そりゃあ、怒るよ。あいつの性格にはムカついていたし」
それに、友達を失ったばかりなんだから。
そのしんみりした空気をぶち壊したあいつは許さない。
壊れたラジオみたいに耳障りだった。
「そっか。私も見届けさせてもらうよ」
「好きにしていいよ」
「うん、する。後、ありがと」
照れくさそうに言うと七瀬も去っていく。
「ぽこぽこ~」
「ん?なんだい?」
「ドロップアイテムか」
それは、巻物だった。開いて見てみる。これは、便利だな。
クリーナー―自分、もしくはパーティ全体の身体や服の汚れを取る。
すっきり綺麗であの子の前での身だしなみは万端だ。
「凄い!これがあれば汚れを気にしないで潜れるってことですか!泊まりで行けますね~」
「わ~い!合宿しましょうよ!」
泊まりと言う言葉にドキッとしたことは黙っていよう。
でも、そうだな。5月の連休に合宿で探索してもいいかもな。
まだ、5階だし。ここは何回まであるんだろ。
つづく




