土日に君と妹と.10
魔物たちの邪魔は続く。まあ、僕たちの経験値になるんだけど。
「ふべっ!」
「ぼへっ!」
「ふべほぅ!」
前衛に立つ黒野は、盾で防いでいるもののマジックガーダーなので、物理攻撃はバカスカ受けている。
「癒しの祝詞!」
柚子がなにやらもごもご言って回復させている。
黒野に攻撃集中してる隙に前に出て刀で打つ。
そして、鎧狸の超音波!大ムカデを削って咲ちゃんの風の刃!
倒して素材を手に入れる。ドロップアイテムで銅の塊を手に入れた。
なんの役にも立たないけど、換金出来る。
他にも、魔物の牙とか爪か。合成する時に使えるな。
「ああ。懐かしい」
「ジンちゃん、僕もだよ」
「どうしたの、二人とも?」
人体模型と幽霊の感慨深さに咲ちゃんがきょとんとする。
「なんか、冒険者って感じで懐かしさが甦って来ますよ」
うんうんと、ずれてる目玉を直しながら言う。
ジンちゃんも冒険者だったのかな?
涼くんもそんなこと言ってたけど。
「ささ、もうすぐボスみたいですよ。
気を引き締めねばですよ!」
「咲ちゃんが、気配察知したよ~」
「黒野。私の盾になってね」
「はいはい。柚子ちゃんのためならばん!」
「こらこら。柚子、仮にも先輩に失礼だぞ?」
「お兄ちゃん、いつまでも上下関係なんてふるっ!」
うるさそうな表情で言わないでよな。
古くたって、礼儀正しさの無い人間は人になにも教える資格はないんじゃないか。僕はそう思う。
「咲ちゃんは、どう思います?お兄ちゃん、たまに頑固親父みたいなとこありますよ~」
「ふふ。でも、そう言う男の人って可愛く思えちゃうけど」
それはそれで、微妙だな。可愛いって嬉しくないよ。
もうすぐボスだってのに緊張感もありやしない。
洞窟は、ぐねぐねと曲がっていて、左右にある松明から焔狐たちが立ち塞がる。
最初の階のような学校の廊下みたいな感じはもうない。
みんなの成長を促すためにも、僕はサポート的な役割をこなす。
例えば、僕が倒して味方がレベル上がるより、味方が自分で止めを倒した方が経験値が上がりやすい。
なので、僕が手加減してみんなに止めをさしてもらっている。
「あ、お兄ちゃん見て!」
柚子が、駆け出す。黒野もはしゃいでいる。
おい、柚子にそんなに近づくな。
「勇気先輩、なにかあります?」
「あ、うん。回復ポイントだよ」
「それはそれは、ラッキーです!」
にこっと笑い僕の腕を掴む。
まあ、そっちの方が安全だけど、恋人が腕を組んでるみたいでドキドキする。
でも、ここで休めるならホッとするかな。
気配察知と移動補助があるとは言え精神的に疲れてるだろうし。
回復ポイントは、場所によっては泉だったり、魔方陣だったりする。
今回は、誰もいない保健室だ。学校にあるダンジョンだからだろうか。
戸を開けると………瀬田たちはいないな。先に進んだのかも知れない。
それともまだこの辺りにいるのかも知れない。
あいつのことはまあ、いいか。どうせまた、なんか絡んで来るだけだろうし。
七瀬葵のことは少し大丈夫かと心配だけど。
リア充だしね。文字通りスキル『リア充』があるからレベルが上がるとパラメーターの上がりがいいらしい。
「はぁ~、疲れた~」
咲ちゃんが保健室のベッドで足をバタバタさせてる。柚子も一緒。
それをにこにこして見てる黒野はえっちと言われて白い目で見られている。
何故か自販機完備なので、みんなにドリンクを買う。
自販機のドリンクは、そこそこのHPを回復してくれるけど今は、回復ポイントなので徐々にHPが回復している。
「汗かいちゃったよ~」
「タオルあるみたいだから濡れタオルで拭きます?」
「うん。よし、と」
「ああ、私がやりますって!」
立ち上がろうとする咲ちゃんを制する柚子はカーテンを閉めると言う。
「みなさん、覗かないで下さいね~?」
「くぅっそぉう~!邪魔なカーテンめぇぇぇぇぇ!」
「「「サイテーだな、お前」」」
僕とジンちゃん、涼の声がハモる。
咲ちゃんもよくこの個性的な奴と幼馴染みやってるな。
でも、幼馴染みと言う立場は強いのかな。
なんだろうか?咲ちゃんを気にしている自分がいる。
ずっと、近くで行動しているから?
でもまあ、咲ちゃんのような素敵な人が僕を好きになる訳ないかな。
「……青春ですね~」
ジンちゃんに見透かされてるようだ。
ホントにこの人体模型は何者なのだろうか?
ジンちゃんのお陰で道に迷わないし。
「ぽんぽこ?」
鎧狸たちもこちらを心配している。
安心させるように撫でてやると嬉しそうだ。
なんだか、懐かれてるな。昔も田舎で雀が網に引っ掛かっていたのを助けたら懐かれて、肩にずっと乗っかっていたっけ。
ちょっとリラックスしてきた。
今だけはゆっくり休もうかな。この先も大変だしな。
つづく




