土日に君と妹と.5
春野咲視点
それにしても、ダンジョンで幽霊と出会うとは、思わなかった。
私の見えない視界にも、何故か涼くんの気配を感じる。
優しい柚子ちゃんの気配。気恥ずかしくて服の袖をつまんでいる勇気先輩の気配。
初めて出会った時。それは、入学式の時。
いくらスキルがあるとは言え、入学式の会場である体育館までどう言っていいか分からなくて。
「君は、新入生かな?どうしたの、立ち尽くして?桜がそんなに綺麗?」
「私、見えないんで」
なに言ってるんだこいつと思った。
みんな体育館に向かっているのに誰も親切に案内してくれないから。
若干、その苛立ちもあったのだと思うから、そう言ってやったら。
「そうか。僕も呪われてるんだ」
そして、私の腕を掴むと腕に掴ませる。
ゆっくり歩き出す。あれ?いつもだったら普通に同情されたりとか、避けられたりとかするのになーとか考えていたら、苛立ちも薄くなった。
そしてなによりも、この人の気配が暖かった。
渡り鳥が休む宿り木みたいに。
「はい、ついたよ。君は何組なのかな?」
「C組です」
そこまで優しく段差にも注意して連れていってくれた。
実際、スキルの移動補助と気配察知があるのだけど、言い出せなかった。
「じゃ、僕は行くからまた後でね」
「え?また後で」
後でとはなんだろう。小粋なジョークでも話してくれるのだろうか?
ばか。私のばか、ばか、ばか。
名前聞けば良かったー。あの素敵な雰囲気の持ち主と。
ただ、私のクラスらしき人たちがざわついたのはなんだろう?
私と言うより、隣にいた先輩に驚きと恐怖を向けられていたのかもしれない。
でも、先輩は平然としていたから。
でも、少し悲しそうだったな。
呪われてるって言ってたからそのことと関係あるのかもしれない。
長い入学式が終わった後で、教室に向かう時。隣にいた子に教室まで一緒に行ってくれたから、先輩のまたねは無くなった。
私が、先輩と体育館に来たものだから、暫くは「化け物使い」なんて噂されるなんてこともあったけど、世界は優しさより悪意が強いとも分かってるので、相手にしないことにした。
「あんまり気にしない方がいいよ」
後ろの席の子は、クラスまで案内してくれた穂積真希さん。
それきっかけで話すようになった。
時折、クラスまで来る黒野はスルーして、真希とよく話すようになり、また一人また一人と友達は増えていった。
その話す中で、先輩の名前と探検部にいるのを知ったので、入部したら心配されてしまった。
化け物になにかされてないとかなんとか?
そう言うのは聞きたくないのでスルーしていたけど、彼等は彼等なりに心配してくれていたみたいだ。
それならばと思いついた!思いつきましたよ~!
私は、この考えを即断実行に移すために職員室へ。
すぐに顧問の久慈川先生とやらの元へ。
その先生は、厳しくも生徒思いが伝わってくる雰囲気の人でした。
「君は、新入生か?」
「はい。一年の春野咲です。探検部に入部します!」
「勢いはよし。しかし、まだ体験入部の、期間だしな。慌てる必要はないのではないかな?」
まあ、心配するよね。安物の聖水じゃ効果なしの待ったなしの呪い持ち。
あ、今のおもちの新商品みたいな感じ。
もちもちな呪いもち。いや、それはいいとして。
「……君はその目が見えないのだろう?失礼だが生まれつきかな?」
久慈川先生は、気遣わしげに尋ねてくる。
「いえ。バッドステータスです。小さい頃に受けたみたいですけど、あまり覚えてないです」
もしかしたらと思うのは、小さい頃は近所でも評判の可愛い少女だったから、それでクラスの誰かが呪いをかけたのかもしれない。
魔女と言う職業ならそれもら可能と聞いている。
まあ、こんなこと話したら頭の痛い子と認定されてしまうかも。
「しかし、なんでまた探検部なんだ?ダンジョン部と言うのもあるよ」
「いえ。ダンジョン部にはあの人がいませんから」
「あの人?どの人?あいつか?里中か」
「はい」
「そうか。恋か。若いって羨ましいな~」
久慈川先生は、なにやら羨望の気配を放っている。
しかし、恋か。そう聞いた瞬間に心がとくんと鳴った。
おや。まさか。自覚してなかったけども。
もしかして、好きなのかもと意識した瞬間、顔がボッと赤くなってしまったよ。
「……お前、分かりやすいな~」
「ち、違いますよ?先輩は私に親切してくれたので、私は先輩の助けになりたいのです!」
先輩と一緒に行動して、化け物ではないことを証明しますよ。
「そうか。あいつはいつも一人だからな。
心配してたんだ。教師の出来ることなんてたかが知れているからな。
あいつの友達にでもなってくれると嬉しいな」
久慈川先生、良い人。こう言う教師がもっと増えてくれればいいのに。
そして、私は探検部に行こうとしたものの……しつこい黒野に止められたのだ。
それはもう、しつこいくらいに。
いつもみたいに他の女子にアタックしてればいいものを。
そしてあれよあれよの内に、ダンジョンに迷いこんでしまったのだ。
でも、先輩はあの時と同じく優しかった。
いや、でも一回置いていこうとしたよね!?
「咲ちゃん?あ、あの僕なにかした?」
「い~え。なんでもないです」
「お兄ちゃん、女心なんて分からないんだ。ごめんね、咲先輩」
いい響きだ。咲先輩なんて。
つづく




