土日に君と妹と.1
「お兄ちゃん、私も行くからね」
「いや、いいよ。柚子は友達と遊びに行ったらいいじゃないか」
「いいでしょ~?お兄ちゃん、学校でぼっちなんでしょ?
なら私と一緒に探索した方がさくさく進むよ」
家の妹。里中柚子。中三でちょこまかしてポニーテールが揺れている。
よく小さい頃はどこ行くのも引っ付いて来たし、僕が呪われてもいつもと変わらない。
影でそのことで悲しんで泣いていたのを僕は知っている。優しい子だけどベタベタされると鬱陶しい。
それに、咲ちゃんのことを知られると冷やかされるに決まってる。
結局、押しきられて電車に乗ってついてきている。
周りの男どもの視線が気になる。
柚は明るくて可愛いから、嫉妬してこっちを睨んで来る奴もいる。妹なんですけどね。
最寄り駅について改札口を出ると、咲ちゃんがいた。
どこか、楽し気な表情をしている。
近づくと、こちらに気づく。さすがに、気配察知。
「おはよう、咲ちゃん」
「おはようございます勇気先輩」
「昨日の猫ちゃん大丈夫でしたか?」
「ああ、うん。大丈夫だった」
家の家族は、どちらかと言うと犬好きなのだけど、昨日の子猫を見せたら一気にめろめろになったみたいだ。
名前を、とろろにするかすももにするか悩んでいたので、もっとちゃんとした名前にしてほしいと思う。
「それは、猫ちゃんもいい巡り合わせですね~」
そして、僕の横に首を向ける。
「それで、隣にいる勇気先輩に似た気配の人はお知り合いですか?」
「あ、私、里中柚でーす。どもども~。
いやいや、お兄ちゃんがぼっちでダンジョン探索するもんだから心配でついてきたんですけど、お邪魔でしたね?」
「そーだぞ、柚。僕には仲間がいるんだから友達と遊んで来たらどうだ?」
「む~。それはないでしょ……と、言いたいけれどお邪魔かな~?」
からかうように見てくるので慌てる僕。
「そ、そんなことはないけど、危険だぞ?」
「私は、大丈夫だよ。仲間が多い方が心強いかな~」
「ええ?」
「だってさ。私もそこそこ強いから、ど~んと任せて下さい!え~と……」
「あ、私は春野咲です。勇気先輩にはお世話になってます」
「こちらこそ。うちの兄がご迷惑かけてます」
二人でぺこぺこした後、笑いあってる。なんだこれ?
まあ、仲悪くなるよりはいいけど。
でも、二人きりになれないのを少し残念に思う僕がいる。
そうじゃなくて、気を引き締めねば。
それにこっちが気にしても、こんな僕を誰が好きになると言うんだ。ズキリと胸が痛む。
いやいや。落ち込んでても仕方無い。特に、後輩の前では。
「……先輩?」
どうかしたのかと首をかしげてる。
「いや、なんでもないよ。行こうか」
「私も行くからね~」
「もう、好きにしてくれ」
ただ、先生に許可をもらわないと行けないのが面倒だ。
今日は、創立記念日なので部活か、ダンジョンに挑みに来た物好きくらいしかいない。
二人には校門で待っててもらい職員室へ。
近づくたびになにも悪いことしてないのに苦手意識が働くのはどうしてだろう。
「失礼しまーす」
ノックしてから、戸を開ける。まあ、休日だから教師はあまりいない。
しかし、担任兼顧問の久慈川先生がいた。
机でなにかとにらめっこしている。
「久慈川先生」
「………ん?おお。里中か。どうした、休日に。
休みに学校来てないで街で弾けたまえ」
「それ、教師の言うことですか?」
久慈川頼子先生。担任でもあり探検部を作る時、顧問になってくれた。
スラリとした長身で背も高く美人だから、男子にも女子にも人気がある。
なんでも昔は、冒険者だったとか聞くけど。
それなりにアドバイスはくれるから、その通りなんだと思う。
「はぁ、あの。うちの妹が一緒にダンジョンに潜りたいんですけど、許可をくれますか?」
「里中の妹か?大丈夫なのか?トーシロじゃないのか?」
眉をひそめる久慈川先生は、禁煙パイポを加えながら聞いてくる。
「ああ、はい。大丈夫です。中学のダンジョン部に入っているので、それなりに強いです」
職業は、巫女見習いから、巫女に昇格したばかりだけど、お札による攻撃と、祝詞による回復術で助けてくれる。
「そうか。それならいいが気を付けてな」
あっさりと許可証をくれる。名刺よりちょっと大きいくらいかな。
「そんなにあっさりいいんですか?」
「おう。里中はこんな目にあってんのに腐らないで頑張ってるからな。先生は応援してるから」
ニッと男前な笑顔をくれるから、女子もメロメロになるのかもね。
担任が良い人でホントに良かったと思うよ。
「ついでに宝箱からイケメン男子を見つけてくれ。いいか?私にだけ従順なイケメン男子だぞ」
久慈川先生の結婚はまだ、先になるんだろうなと思った。
つづく




