出会い.11
「連れて来ちゃいましたね」
「連れて来ちゃったね」
部室のテーブルで、ダンボールの箱にタオルを敷かれて眠っている子猫。
ただの猫。でも実際は魔獣の猫。ニャーバルキャットだ。可愛くてどうしよう。
ギルドに報告すれば、殺処分されるかも知れない。て、悩む必要もないか。
ひとしきり部室をくんかくんか匂いを嗅いだ後にイスの上で丸くなってる。
大きく伸びをするのでお腹をなでなでして上げる。もふもふ。
「どうするんです?」
「まあ、連れて帰るよ。それで、成長したらダンジョンに連れていくのもありかな」
「それもありですねー」
咲が、背中を撫でる。気持ちよさげに寝ているので羨ましい。
ティマーとかいればいいんだけどな。
なにせ、弱小同好会だかならな。
「さて。帰りますか!」
「そうだね」
素材も分けたし。換金や装備はまた明日でいいか。
僕たちは、部室の戸締まりをしてゆっくりと歩く。
咲ちゃんの歩幅に合わせるのは、ゆっくりと歩けて心地良い。
外ではまだ、野球部の声が聴こえる。
毎回地区大会で敗退するけど、彼等は諦めない。
いつか、甲子園に行くんだとクラスメイトが話していた。
「ああ~。運動部か~!私もめいいっぱい駆けて見たいなー」
羨ましそうにグラウンドの方へと目を向ける。
その瞳にはなにがうつるんだろうか。
僕にはなんて声をかけていいか分からないけど。
早くお金が貯まって咲ちゃんの呪いが解ければいいなと願うばかりだ。
と、角を曲がる時、向こうから来る誰かにぶつかる。
「きゃ!」
「あ、ごめん!」
僕にぶつかって膝をついてるその子は、見覚えがあるような気がする。隣のクラスの女子。
いや、それよりも手を差しのべる。きっと僕の姿を見て怯えるか嫌がるだろうけど。それでも。
「す、すみません」
その子は、うつむいたまま僕の手を取ると、もう片方は足元のケースを拾う。
「大丈夫かな?」
「あ、はい。ありがとう……おお!」
そのポニーテールの子は僕を見て驚きつつも特に不快な感情はしてない。
まあ、慣れた反応だけどね。
そのツインテールの女子は僕を見ると瞳をきらきらさせる。
「いっけめーん!」
「え?」
「そかそか。あなた、私のことが好きだからぶつかったんだね?
分かるよ~、小柄の美少女に目がないのね?」
その子はうんうんと頷くと、僕の肩をバシバシと叩く。
えと?この子は大丈夫なのかな?戸惑ってると咲に視線を向ける。
「おや?あなたも美少女かー。な~んだ。彼女がいたのか~。残念無念」
「……?勇気先輩?あの、急に賑やかになったけど、なんです?」
「……なんだろうね」
「勇気?その見た目。もしかして、呪われた王子とお姫様?」
僕たちを交互に見てなんか、納得してるよ。
その童話みたいなタイトルはなんだろうか。
「えと。なんですかその恥ずかしいあだ名は?」
咲ちゃんは、訳が分からなくて、それでも楽しそうに問う。
「あれ?本人たちは知らない?これは、ごめん。
なんか、呪いのかかった二人の美男美女のカップルがダンジョン探索してるって。
いや~、命を懸けてダンジョン探索なんて酔狂だね~?
私は、尊敬するよ~。まあ、私はあまりに演奏が下手くそとか言われて吹奏楽部クビになったんどけね~」
そうしてトホホとか言いながら、じゃあまたとか言いながら去っていく。
「……なんだったんでしょうね」
「そうだね。妙に明るかったけど」
「勇気先輩、鼻の下伸ばしてます?」
声にトゲを感じるけど。気のせいだよね。
伸ばしてはいないけど。あのキャラは目立って他のキャラを潰してしまうかも。
「いや、そんなことはないよ」
「ふ~ん。でも、勇気先輩イケメンなんですね。
これは、目が見えるようになった時に楽しみだな~」
なにやらうきうきしてるけど、人それぞれ好みが違うからね?
それに、周りから避けられてる僕がイケメンなのかなとも思う。
「お。そうだ待ってて」
「え?え?」
服の袖をつまむ咲ちゃんに断って僕は駄菓子屋へ向かう。そしてすぐに戻ってくる。
「ちょ!勇気先輩!いきなりいなくなったらびっくりしますよ!」
「ごめんごめん。これ」
僕は咲ちゃんの頬にあるものを当てる。
「つめたっ!なんですー?」
「ラムネだよ。なんか懐かしくなって。それに咲ちゃんの歓迎もしないとね」
「はは。先輩もしかしなくても照れてます?」
「うるせーやい。こう言うの慣れてないんだよ」
「はいはい。でもありがとうです」
手間取ってるので開けて上げる。蓋を押して中のビー玉みたいのがカランと揺れる。
「ようこそ。ダンジョン同好会へ」
僕と咲ちゃんのラムネがぶつかりビー玉がカランと揺れた。
つづく




