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第5話 あれ? 一件落着?

 そしてまた翌日。


 全然作戦を考えられないまま、お姉様は泣きはらした目をして学園へと向かった。私とクロは心配で、やっぱりこっそり付いていくことにした。


 いつもハリルとレイアがいるのは昼休みということで、きっと事件が起きるならそこだと思われた。

 案の定。お昼休みになると、レイアがハリルの腕を掴んでぐいぐいとどこかへ向かう。ハリルも抵抗するでもなく。

 レイア、本当に図々しい奴め。


 お姉様は昨日、タバスコ入りクッキーを渡したことと呪いのわら人形の絵(本当は犬と猫の絵よ!)を渡してしまったことを謝りたいんだそうだ。だから二人を追った。私とクロもその後をつける。ハリル、レイア、お姉様、私、クロは直線になる。奇妙な後追い合戦だ。


 そして木々の間を抜けるとそれが唐突に終わった。着いたのは学園の中にある池だ。どうやらボート遊びをしようとしているらしい。お姉様は木の後ろに隠れる。私とクロもその後ろに隠れた。


 二人がボートに手をかけた瞬間、お姉様がぱっと飛び出した。それを見たレイアは怖い、という表情を作る。


「今日こそあなたがた二人にがつんと言わなくてはならないわ」

「ミシェルさん。またわたしをいじめにきたの?」

「私があなたをいじめたことがあって?」

「いっぱいあるわ!」


 会話が聞こえてくる。クロが舌打ちをした。


「なるほど。あれは演技だな」

「演技?」

「レイアって子はミシェルちゃんを都合のいい悪者に仕立て上げようとしているに違いない」

「さすが女をたくさん見てるだけあるわね」

「あのな、マグリナ。オレはそんなに女好きじゃ……あ!」


 クロが目線をお姉様に戻した瞬間。レイアがお姉様に掴みかかり、それをふりほどこうとしたお姉様の腕がレイアの体に当たり……レイアは池に落ちた。


「きゃあ!」

「れ、レイアちゃん!」


 幸いにして池は浅く溺れるには至らない。でもレイアはずぶ濡れになった。私はちょっとだけざまあみろと思った。

 ハリルがレイアを助け起こす。池から救出されたレイアはお姉様のことを睨んだ。


「池に突き落とすなんて最低よ! 私とハリル様が仲いいから嫉妬しているのね!」

「ち、ちが……!」

「いつもそうよ! ねえハリル様からも言ってください!」

「ああ」


 ハリルはそう言ってお姉様の前に立った。


「一体、どうしてレイアちゃんをいじめるんだ? かわいそうじゃないか」

「そんな、私はただ……!」


 お姉様の顔がみるみる真っ赤になる。緊張して、涙目だ。また誤解されちゃう。婚約破棄になんてなったらお姉様は死んでしまう。

 ああもう! 見ていられない!


 私は隠れていた場所からさっと三人の前に躍り出た。


「ちょっと待った!!」


 皆は目を丸くする。


「ま、マグリナちゃん!?」


 どうしてここに、とお姉様も驚いている。私はお姉様とハリルの間に立った。


「お久しぶりですねハリルさん。さっきから誤解があるみたいで見ていられませんでしたの!」

「誤解とは?」


 ハリルが私を見る。ちびの私は首を思い切りあげなくてはならない。クロだったら目線までかがんでくれるからこんな苦労はないのに。


「誤解なんてないわよ!」


 レイアが言うのをハリルが止めた。


「でも聞いてみなくては。マグリナちゃんが嘘を言う子ではないということは知っている」


 うんうん。ハリルは分かってる。

 私はお姉様に向き直った。


「お姉様、今日ここには何をしに来たの?」


 レイアが叫ぶ。


「邪魔をしにきたに決まってる!」


 それをギロっと睨むとぶつぶつ言って黙った。


「私は、謝ろうと思って。昨日あげたクッキーと、お手紙のことを」

「そうなのか?」


 ハリルが尋ねるとお姉様は涙目で頷いた。ああ、私がいるからか、家でのポンコツモードになっている。オロオロしてるお姉様はかわいい。

 私はハリルに言った。


「少し行き違いがあって、いたずらで作ったクッキーをあげちゃったんです。本物は私のお腹の中に」

「き、君の……」

「ねえクロ?」


 とクロに話しかけるとなんと奴はどこにもいなかった。あいつ、肝心なときに!


「でも、レイアちゃんにわら人形の絵を贈ったって」

「……こです」

「え?」

「あれは、犬と、猫です。私が描いた……」


 近くでブフォと噴出する音が聞こえたから、どこかの木の陰でにでもクロがいることは確実だ。


「じゃあ、いつもそっけない態度を取っているのは?」

「お姉様は極度の恥ずかしがり屋なんですわ! 大好きなハリルさんを目の前にすると緊張で上手く話せないのです」

「そ、そうなのか!?」


 ハリルが驚いてお姉様を見ると、お姉様は顔を真っ赤にしてぷるぷる震えながら、やっとの思いでこくんと頷いた。


「……大好きです。ハリル」

「ふあああああ! かわいいいいい!!」

 

 ハリルは絶叫した。

 そのまま地面に突っ伏した。突然の出来事に私は驚いた。なに、なにが起きたの?

 

「かわいすぎるだろ常考。っていうか知ってたけどね? ミシェルが僕のこと好きすぎることは。いつもそっけないミシェルの気を引きたくてレイアちゃんの誘いに乗ったら、思ったよりもミシェルが食いついてきて嫉妬の余り僕に毒入りクッキーを渡すとか、レイアちゃんをいじめるとかかわいすぎてついついほおっておいちゃったけどね? なんでこんなことしたのか聞くと真っ赤になっちゃうのがかわいくて! ああああ! かわいいいいいい! 大好き! もう大好き!!!」


「……は?」


 意味が分からない。えーと、つまり?


「はじめからハリルさんはお姉様のことが好きで、つまり両思い。心配する必要はなかったってこと?」

「そうだとも!」


 ハリルはキリッとした顔で爽やかに言った。


「ハリル、そうだったのね……」


 お姉様は感動している。


「そうだ、ミシェル。どんな君でも大好きだ。当たり前じゃないか!」

 

 そして二人は互いを熱く見つめ合う。


 コミュ障とヘンタイ。

 凸には凹がいるものね。

 お似合いっちゃお似合いかしら?


 まあとりあえず、拍手でもしておこうかな。思いがけず一件落着。めでたしめでたし、でいいのよね? でも納得していない人が約一名いた。


「は? は? は? どういうこと? せっかく金持ちの男を捕まえたと思ったのに、こんなのあり得る? どう考えても私のほうがかわいいし、首尾良く手を回したのにどうしてこうなった? あ、そうか」


 レイアは恐ろしい顔をして私を見た。なんかやばそう。


「あんたのせいよ! ちびでぶ!!!」

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