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殴ろうと思ってからの私の行動は速かったと思う。
殴れはしなかったけど。
少年は私の渾身の一撃を軽く止めてしまったから。
やっぱり体を鍛えるべきかしら。
運動部に入るべきだったかな。でも練習とかきついし。
「とりあえず、落ち着け」
落ち着こうと思ったらそんなことをいわれ、逆に頭にきた。
「あんたのせいでしょ! あんたがここに私をよんだんでしょ! あんたのせいなのに、なんでそんな自分は関係ありませんって顔してんのよ! ふざけんな! 元の場所に帰してよ!」
掴まれたままの右手に全体重をかけて押してやる。
それでも少年は動かない。
むかつく!
「説明する。とりあえず座れ。たぶん長い話になるから」
冷静にいわれたってむかつくのはむかつく。けど、話が進まないから仕方なしに座りなおした。にらみつけるのは忘れない。
「俺はグレイ。魔法使い見習いだ。君は?」
「田中かんな。かんなのほうが名前。田中が家の名前。13歳」
「ではカンナ。状況確認といこう。ここはユーリタニアっていう国の北にある、ユーリ山脈の麓付近の館の地下室だ。この地名に聞き覚えは?」
「ないよ。だいたいあんた魔法使いなんでしょ? うちの国っていうか世界に魔法って、物語とかの中だけにしかないし」
「ではやはり異世界から来たということになるな」
「あんたがよんだんでしょ! さっさと元の場所に帰してよ!」
なんでそんなに他人事なのよ! ああ、またむかついてきた。
「違う」
「はぁ?」
今なんて言ったこいつ。
「俺は魔法使い見習いだ。俺の力では世界と別の世界をつなぐことはできない。そんな魔法の存在さえ知らない」
「え? つまり?」
「つまり、俺は君をよんでいない」
「はい? それじゃあどうして私はここにいるの?」
よんでないってんなら、勝手に異世界に落ちたパターン? でも、そういう時ってこんな魔法陣の上に落ちる? 偶然すぎない?
「そこにある魔法陣は―簡単にいうと魔法陣は魔法を発現させる場所だが、描いてある図によって効果がそれぞれ違うようになっている―大規模な魔法が失敗したときに世界の魔力が暴走しないように自然へと還すためのもので、物体を移動させる能力などない」
「意味がわからない」
「つまりどっかの魔法使いが世界と別の世界をつなげようとした、または異世界から何か持ち出そうとした、それに君が巻き込まれた、でもその魔法は失敗だった、そのためこの魔法陣とつながって君がここに偶然現れた、という可能性が一番高い」
「となると、私はどうなるの? 帰れるの?」
「さっきも言っただろ。俺は魔法使い見習いだ。魔法陣が動いたからその記録をとるために近くにいただけで、君を元の世界に戻す力はない。見習いじゃなくてもこの世界では世界と別の世界をつなげるなんていう魔法は、俺の知る限り存在していない」
「かえれない?」
「少なくとも俺の力では」
目の前が暗くなった。
私、これからどうすればいいの?