プロローグ3~決意の「俺」の物語~
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
少しグロテスクなシーンがあります。
2060年1月
彼女の死去から数週間が経った。俺はまだ彼女の死を受け入れられないがそれでも彼女をちゃんと送りたいと思った俺は通夜、葬式、告別式の全てを豪華にした。告別式では彼女の友人などがみえ俺に声をかけてきてくれた。俺は精一杯の感謝を込めて笑って見せたが数秒後には涙が止まらなかった。
彼女の死をこんなに悲しんでくれる人が居ると思うと自然と笑みが零れる。でも……それでもこんなに早く君と別れなきゃいけないなんてやっぱり辛いよと思ってしまうと目から涙が溢れ出てきて抑えようとしてもその勢いがやむことは無かった。
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2060年12月
もうすぐで彼女の死から1年が経つ。この一年間俺は彼女の事を忘れる事は無かった。
流石に彼女の死は受け入れたがそれでもまだ彼女の写真を見ると胸が痛くなる。
――ちょうど1年前に姿を現せた超大型巨人はオーストラリア内を三日三晩歩き続け人々を駆逐していった。日本、中国、北朝鮮などオーストラリアに割と近い国々は巨人を殺害しようと幾つもの兵器を投入したが巨人に傷を与える事すら叶わなかった。結局オーストラリア内の生存者はほぼ0に等しい程の被害を受けた。
それから3か月に一体のペースで新たな化け物が出現していった。二回目に出現したのはドイツの近くにあるスリランカという国だった。スリランカに出現した化け物はオーストラリアに出現した化け物とは真逆の超細小のキノコの化け物で移動速度も自転車を全力でこぐ位の速さしか無かった。しかしこの化け物は象をも数秒で殺せる毒より何倍も強力な毒を広範囲に放てる能力を持っていた。スリランカはその毒のせいでわずか三時間で壊滅した。生存者は0とされ救助も行けないと政府は発表した。しかも不思議なことにこの猛毒はスリランカの国境から外には出なかった。
三回目は本当の地獄だった。三回目に出現したのは南アメリカ大陸の真ん中にあるパラグアイだった。何が地獄だったのかと言うと今年はパラグアイのアスンシオンでオリンピックがあった。もちろん毎日のように大勢の入国者が居た。そこに突如現れたイカの化け物によりパラグアイは血の海と化した。パラグアイに出現した化け物は超長い触手を持った化け物でパラグアイの中央を陣取りその場から一歩も動かずにその超長い触手で人々を叩きつけていった。その触手の長さと素早さは凄まじく逃れる術は無かった。結果、数億という数の人が死んだ。
四体目に出現した化け物は一切の被害を出さなかった。その理由は出現した場所にあった。四体目の化け物が出現した場所は太平洋のど真ん中でその容姿は貝だった。そうとても大きな貝だった。
それから被害を出さなかった貝は姿を眩ませ漁に出る人が増え始めた。しかしある一隻の船が調子に乗っていつもより少しだけ深い場所で漁をしようとした。そこに今まで姿を現さなかった巨大な貝が大きく殻を開け船一隻を丸ごと飲み込んだ。
俺はTVを見ながらため息をついた。先日出現した貝は船一隻しか被害を出していない。と世間は認知している。しかしその一隻の船に乗っていた人の家族はどう思うか、どれだけ辛いか知っている。パラグアイの時なんかはどれだけの人数が涙を流したか計り知れない。
三か月という感覚を開けながら出現している化け物たちに俺は疑問を感じていた。三か月という明確な間隔をあけ出現している化け物、もし出現させているのが【無】の場合、絶対あれには考えるだけの知力がある。そして化け物が出現した時、地震が起きたのは最初だけだった。ここで俺はオーストラリアの巨大な化け物が俺の最愛の妻を殺した犯人と確定させた。
三か月という明確な間隔をあけ出現している化け物はきっと【無】が言っていた『八体の最初の化け物』なのだろう。『不定期』では無いのであれが魔物ならば残り四体もあの化け物が出現する事になる。
そしてあの化け物たちにはルールが存在するみたいだ。そのルールはまだ一つしか無いと確信している、というかまだ一つしか想像出来ない。それは化け物又は化け物の能力は決められた範囲から外には出ないという事だ。実際にスリランカの毒もパラグアイの触手も国境から外には出てこなかった。しかしそう考えると一番厄介なのはあの貝なのかも知れない。一口で船一隻を飲み込む貝が太平洋全体を泳げるのだとしたら……いやそこまでにしておこう。
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2062年4月
彼女が死んでからもう二年が過ぎた。まだ新しい出会いを探す気にはなれないが今では会社に行く前に彼女の写真に挨拶をする様になった。
――あれからもきっちり三か月の間隔を開けて化け物は出現していった。
五体目はまさかの日本で北海道に出現した。見た目は寅に近くもの凄い速さで走る化け物だった。この化け物はその俊足で走り回り獲物を見つけては鋭い牙で勢いよく首元に噛み付いたという。日本も壊滅かと思われたが化け物は海を渡って来なかった。最初は北海道があの化け物の行動範囲なのかと予想されたがあの化け物が体に電流のような物を巻き付けてるのが確認されてからはあの電流のおかげでこっちに来れないんだとみんなが理解した。もしかしたらこっちに渡ってきてたかも……と思うと自然と唾を飲み込んだ。
六体目はマダガスカルのアンダナナリボに出現した。アンダナナリボに出現した化け物は二匹の蛇だった。ただ大きさが軽く5mを越え連携も上手い巨大蛇だが……その蛇はうねうねと国中を動き回り一気に街をその口の中に放り込んでいった。
七体目、七という数字は日本では幸運の意味を持つ。まあ最初にそう考えられるようになったのは野球なのだが、今は良いだろう。七体目には良い意味で少しだけ期待していた……が案の定最悪だった。
現れた場所はスリナム、その中心にある中央スリナム自然保護区にその化け物は現れた。中央スリナム自然保護区は自然遺産に登録されており木々に囲まれるこの場所はとても安らぐと有名で人気の観光地でもあった。そこに出現した化け物は猿型でけむくじゃらの化け物だった。その化け物は中央スリナム自然保護区を拠点に動き木々の間を軽々飛び移りした。そしてその身軽な動きは街でも発揮された。その身軽な動きで家々を飛び回り人の首を狙って折って行った。目の前で知人の首を折られた人は手で首を覆っていたという。
そして今日【無】が言ってた通りなら最後の八体目の魔物が出現した。最後に出現した場所はアメリカ合衆国、そうあの大国アメリカに化け物が現れた。パラグアイも地獄だったがアメリカはその比では無く地獄という言葉が生ぬるいといえる程の悪夢だったのだろう。アメリカ合衆国に現れた化け物は他の七体より圧倒的に力の差があった。それも強い方の意味で……その強さは他の化け物を束ねるリーダーのようなオーラを感じたと遠い未来で明かされるのだがそれは別の機会にしよう。
その化け物は『人』の姿だった。【無】は皮肉にも人類の敵である化け物に対して『人』の形にする事で仲間意識を高めさせ、そして裏切れと命じた。その中身は人の心などでは無く人の皮を被ったただの化け物だった。そいつは自分を『【無】様の使徒』と名乗った。
――まだ暗い時間に嫌な気を感じて俺は起きた。俺はいつもより少し早い時間だが会社に行く用意をして朝ごはんのトーストパンにかじりついた。いつもはこんな時間には起きないのでどこのチャンネルのニュースが良いかなんて分からない、俺は適当にリモコンのボタンを押した。
俺がTVを付けた瞬間、スマホから大きな音が鳴った。それは化け物が出現した時に知らせる為の音だった。俺は一瞬スマホに手を向けるがTVが声を発したので別に良いかとTVで見る事にした。
『そ、速報です。たった今『黄色の目』が開眼しました。政府の発表では黄色の目が指し示す場所は……!? ア、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.で……す』
アナウンサーの人も最後の方は覇気さえ感じなかった。何故か絶望した顔で何か諦めた顔でもあった。俺はまた手を強く握り歯を食いしばった。
きっと彼女の家族か知り合いがアメリカに行ってるのだろうか、アナウンサーの彼女も俺みたいに誰かを失うのだろう。その痛みを俺は知っている。助けられない不甲斐なさも救えない絶望感も全部知ってる。
黄色の目というのは四つの目の内の一つで黄色の目は北アメリカ大陸から西に進んだ太平洋の上空に浮いてる【目】だ。他にも沖ノ鳥島の上空にある『青色の目』、ソマリアよりのインド洋の上から見下ろす『赤色の目』、南アメリカ大陸のブラジルその真上に居るのが『緑色の目』それぞれの虹彩が黄、青、赤、緑だった事からそう区別されるようになった。
日本から『黄色の目』は見えないので俺はTVの中継を見守る事しか出来ない。まあ日本から見えるのは『青色の目』しか無いが……
――閑話休題
そしてあの目が動き出した。だがいつもとは少し違う色をしていた。今までは薄い白色でとても明るい色だったが今回は不快なまがまがしさを感じさせるどす黒い色だった。そしてどす黒い槍はアメリカ合衆国を襲った。次にカメラに写っていたのは人型の『何か』とそれに蹂躙されるアメリカの人たちだった。そして映像が途切れさっきのアナウンサーの人に映像が切り替わるがどうも様子がおかしい。どうやらさっきの槍が彼女を刺激したようで気絶していた。彼女からしたらあの光景、いつもと違う槍などは絶望でしか無いだろう。
『zz……zザ……ザザザ…………』
この不愉快なザザザ音は! 来るのか……【無】が
【みなさん、こんにちは】
やはりだ、この声は正しく人類の敵になる【無】だ。
【たったいまきれつはっせいからちきゅうじんのしぼうすうが15おくをこえました。】
15億!? やはりあの化け物が現れたせいでもの凄い勢いで人が死んでいったんだろう。
【しんかふぇいずにともないちきゅうにあたらしいようそをどうにゅうします】
今回は一体どんな悪夢を見せるんだ?
【しんようそはおもにみっつです】
【いちに「だんじょん」のついかです】
【ににステータスにあらたに「れべる」のついかです】
【さんにぜんじるいひとりひとりにひとつずつ「のうりょく」をふよします】
【いじょうでこんかいのしんようそせつめいをおわります】
そして案の定というか何というかまたあいつ……【無】の声が頭の中に響かなくなった。
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2064年6月
今年で俺も30歳か、俺もアラサーか、そろそろ俺もおじさんって呼ばれたりしてな……
「はぁ」
二年前、地球は二段階目の進化フェイズに突入した。最初のあの化け物が出現した時、俺は人類は到底敵わないと諦めた。いや俺は諦めかけたが諦めなかった。そもそも目的が俺ら人類の全滅ならとっくに皆殺しだ、ここであの化け物にあえてルールを追加したまわりくどいやり方から考えるに次で何かあるとふんでいた。その予感は的中してた。二段階目の進化では人類側に圧倒的に有利な新要素が追加された。レベルと能力だ。
レベルはステータスに新しい項目として姿を現した。最初の頃はレベルの上げ方も曖昧で上げた時のメリットなどが無く誰もレベルを上げようとはしなかった。しかしある日アメリカに住んでいた一般男性がダンジョンを発見し実際に入りレベルを一つ上げ生還していた。彼が言うには「始めの魔物」とは違うが明らかに地球に存在しない化け物が居たと証言した。元々こういう事に詳しいオタクたちがダンジョンが出来たならその中でレベルを上げれるはずと仮説を立てたりしてたが政府はそんな戯言には耳を傾けては居なかった。しかし今回の一件で政府はダンジョンの管理について一から考え直す事を公表した。最初の頃は「判断が遅い」とネットで批判されていたが政府がダンジョンを開放する事を発表すると「正しい判断マジで神」とか「ダンジョンの開放してくれると信じてた」とものすごい掌返しを見せた。
そしてさっきから話に出ている「ダンジョン」だがこれは殆どが洞窟というか石造りのトンネルのような入口で階段が地下に続くらしい。その下には地下一階層があり「ダンジョン」でそれぞれ異なるフィールドが広がっている。やれ草原だの、やれ洞窟だの、やれ廃れた都市だの、まさに十人十色といえる。そして同じ地下一階層でも「ダンジョン」ごとに難易度が違う。そしてもちろん怪物がいる。この怪物は「モンスター」と呼んでいる。どうして魔物じゃ無いかって? それは二段階目の進化から数ヵ月が経った時、インド洋の下の方に浮かんでる『赤色の目』が動いた。【無】は八体の魔物の出現させると言い、実際に八体の魔物は地球をぐちゃぐちゃにした。もう八体は出現している。なら何故か、と俺は、俺たちは混乱した。そこで俺は【無】のあのカタコトで聞きにくかった【無】の言葉を思い出した。
『不定期な魔物の出現』。そう【無】は不定期にも魔物を出現させると言っていた。あんな化け物をまだ出現させるのか? あの悲劇が不定期に来るのか? とネガティブな方に思考が行ってしまっていた時、スマホが大声で叫びその体を精一杯震えさせていた。これは全国緊急通知といい、本当に緊急な時に国が知らせる為に新たに追加した機能だ。俺はスマホを手に取りスマホの画面に顔を向けた。
画面には『速報‼ 『赤色の目』から出現した化け物、インドに出現。そして討伐に成功!!』と出ていた。なんとインドに出現した化け物は明らかに最初に出現した八体の魔物より弱かったらしい。しかも新しく人類に備わった『能力』を使い危機に陥る前に討伐が出来たと書かれていた。しかしそれでも死者は0人では無かった。数十人という少ない犠牲だったが、俺はやるせない思いだった。ちなみに魔物を倒した人たちはレベルが上がらなかったと証言しておりそのせいで国もレベルを上げる方法が分からずにずっと立ち止まっていた訳だ。
そして能力だがこれは一人に一つが原則で今まで異例は無い。能力は完全ランダムで能力にもランクが存在していた。どうしてランクがあるか分かったかと言うと鑑定という能力を持った人が実際に自分の能力「鑑定」を鑑定してみた結果、ランク2と表示された。能力はランダムだがオンリーでは無い。被りはもちろんある。国は鑑定を持つ人々を好待遇で雇い働かせた。その金払いの良さからいつしか鑑定は当たりとか他の弱い能力はハズレとか言われるようになった。
能力の鑑定は18歳からと法律で決められた。理由は子供に能力を持たせるのは危ないから。18歳からは成人と扱われ全て自己責任になる、それで18歳からになった。まあ18歳未満でたまたま能力に目覚める子たちも居る訳でそれに対応出来るように18歳未満で能力が覚醒した子供たちは一つの学校に集められ能力の使い方などを教わる事が義務付けられた。
んで俺は今日、あのオーストラリアの巨人を倒す。俺の能力はレベル3の「怪力」。レベル3はそもそも持っている人が少ない。レアだ。それであの巨人の討伐にあたり流石に俺一人じゃ倒せないと理解していたのでチーム募集をかけた。それが二週間前。それから三日でチームメンバーが決まり今日まで連携の練習をしていた。チームメンバーは俺以外に三人。がたいが良く大柄で元気なおじさんと、とても気が弱くいつも変な笑顔の青年、小柄で目つきが悪い少女、の三人。能力は紹介した順に「闘志」「道化」「復讐」だ。この三人は俺と同じであの巨人の出現の時の大地震で大事な人を失ってる。おじさんは妻と四歳の娘を青年は愛する恋人を少女は仲の良かった双子の姉を……
今日はその悲劇へのけじめを付けに行く。
そして船に乗り巨人の居るオーストラリアへ……
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オーストラリア
オーストラリアに到着した。とりあえず近くの街に寄り食糧が無いか見に行く事にした。そして街について俺たちは嫌な物を感じた。そこには大量の赤い液体やちぎられた人間の手足、そして巨人の足跡。
街全体に飛び散っている血は真新しい。つまりほんの数時間、数日前までは生きていたって事。そして近くに巨人が居るって事だった。俺が近くに巨人がいるかもしれないと伝えようとした時、地が揺れた。その振動はだんだんと強くなり、だんだんと回数が増えていった。そして巨人が姿を現した。
巨人はこちらを大きな目で見つめた。そしてニヤリと笑った。俺はその笑みに悪寒を感じすぐに逃走の命令を下した。まだ戦いをしかけるのは早かったと後悔した。しかし逃走の命令を下したは良いが俺もみんなも恐怖で動けないみたいだ。そして大きな手が少女の体へ延ばされ彼女を連れ去っていった。そして彼女を弄ぶように動かし手足をちぎり飽きたのか大きく振りかぶって遥か彼方へ投げ飛ばした。その間、俺らは動けなかった。動けるはずが無かった。大事な仲間の叫び声が上空から聞こえる。「痛い! 助けて」って声が耳から離れない。そうして動けずに居ると巨人はこちらをまた見た。しかし今度は微塵も笑っていない。そして大きな足が天から降り注いで来た。俺らはいらない……か……
その日、人類は貴重なレベル3を失った。
「俺」の物語編 完。
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