プロローグ2~なみだの「俺」の物語~
あと一話「俺」の物語が続きます。
そろそろ本編に突入!
――九年前、突如世界中の空に現れた『四つの亀裂』は今日、新の姿……いや本当の姿を現した。
亀裂の正体は【目】だった。いきなり脳内に響いた【無】を名乗る声は地球の『進化フェイズ』という何とも馬鹿げた事を行う事を告げて来た。
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おいおい。嘘だろ? なんで彼女との幸せな家庭を築いてもうすぐ子供も生まれてくるって時にこんなふざけた事を受け入れなきゃいけないんだ? ……いや本当は受け入れたくない。そんなの当たり前だろう。やっとお腹に出来た子供がそろそろ元気に出てくるってのに、彼女だって絶対に楽しみにしてるはずだ。それなのになんだよ【無】って、俺だって男だし彼女の笑顔を守りたい。でもあの空に浮かぶ【目】に対して俺は恐怖を覚えてしまう。抗いたくても抗えない力があの【目】からは感じられる。
まるで私の考えた道を踏み外すな。お前らは私が考えた道を従順に歩いてればいいんだって。
そんな事をあの【目】は言ってない。でもそう感じてしまう。
さっきから俺は気持ちが高ぶり過ぎだな、一旦落ち着いて冷静に判断しないとダメだよな……
【無】は「八体」の始めの魔物の出現と不定期な魔物の出現、そして「ステータス」なる物の付与を新要素として世界に取り入れたと言っていた。……ステータスってなんだ? 全然ピンと来ないぞ。
俺がステータスが何か分からずに混乱していると今年この部署に入って来たピチピチの新入社員が大声を上げた。
「うおおおおお、すげー本当に出て来た。やべー俺こういうの待ってたんだよ」
なにやらステータスの存在を知ってるらしい。彼の近くに座っていた一人の女性が彼に何があったのか聞いている。俺もこっそりと聞き耳を立てた。
その後、数分間ステータスの彼は熱弁するかのように語った。
これは【無】が言っていたファンタジーの要素である事、こういう展開を期待していた事、そしてこのステータスは『創作物』の中の物である事……
『創作物』これは人間が想像して作った架空の物、もちろんステータスの事を話していた彼も夢見ていただけであって絶対にありえないと思っていたらしい。しかしその創作物に良くある「ステータスオープン」という呪文? を唱えてみた結果、本当に目の前に出現したと話している。
この話に周りは疑っていた。その理由は簡単で彼が言ってるステータスが回りからは見えないのだ。別に彼以外の誰かが「ステータスオープン」と唱えてみれば済む話なのだが彼が言うステータスは周りから見えずにしかもそんな中二病みたいな事は出来ない、恥ずかしいと誰もが思う、会社で働いてるのだから当然周りは大人だ。20を超えた大人が確証も無くそんな恥みたいな事は出来ない。結局は誰もが彼を責めた。
このままでは埒があかないと思った俺は「ステータスオープン」と唱えようとした。すると彼は「はっ!」とした顔をして周りを見渡した。何かするのだろうか。
「そ、そうだ。俺が見ていた小説だと他人のステータスが見れないって設定も多かったんですよ。それで他人に見せる為に視認化とか視覚化とか言うと出てくるんですよ、そうっすね後は出ろ~とか『見えろ~』って心の中で思うと……ってどうしたんですかいきなり黙っちゃって」
彼が見えろって念じてた時に彼の目の前にいきなり半透明のボードのような物が出現した。
彼が言っていた事は本当だったと判明した今、周りの大人たちは一斉に「ステータスオープン」と叫びだした。
俺も例に漏れずに「ステータスオープン」と叫ぶ。すると目の前にさっき彼の所から出て来たのと同じ物が姿を現した。俺はステータスをじっくりと見た。周りの大人たちは興味深々のご様子だった。やはり未知の物は珍しく感じるのだろうか。
ステータスを見終えたがそこから得られた情報は乏しかった。ステータスに乗っていたのは名前と年齢のみだった。あまりにも少ない情報量からこれから増えていくのだろう。ステータス……というかファンタジー全般に詳しい彼もこのステータスはおかしい。最低でも名前と年齢、そこに自分の体の能力値とかが乗っているのだという。もしかしたら【無】が何か言っていたかもしれないがいきなりの事で混乱していて更にあの聞き取りにくい声では再度なにを言っていたのか思い出すのは難しかった。
しかし【無】の言っていた事の中で一つ重要な場所があった。それは八体の『はじめの魔物』の出現と『不定期の魔物』の出現。実際には少し違う言い回しを【無】はしてたかも知れないがそれは些細な事だ。重要なのは『はじめの魔物』がいつ出現するのかだ。【無】は三つの新要素の内『はじめの魔物』と『不定期に出現する魔物』をわざわざ二つに分けて告げていた。どちらも同じ魔物なのに分ける必要があったのか。そこで俺は「はっ」とした。
――わざわざ二つに分けて告げた理由。
――何か意味があるとしか思えないタイミングでの【目】の開眼。
――それらは地球に導入された『新要素』である事。
俺が考えた答え、否 予想が正しければ……俺は【目】の方を向いた。
間違っていて欲しい。もし当たっていたらそれは人類にとって最悪の結末にしか繋がらない。
俺は祈るように【目】へ視線を向ける。【目】は俺の方を向いていた。心なしか目尻が下がっている。まるで俺が今考えた予想が正しいとにこやかに笑っているそんな【目】をしていた。
その時、俺は悪寒とでも呼べるものを感じた。全身に鳥肌が立ち言葉が出てこない。
――怖い、逃げたい、泣き叫びたい。
俺は目頭に涙を溜めながらも落ち着く為に一回目を閉じた。そして大きく深呼吸をした後もう一回【目】の方を向いた。すると先ほどまでの悪寒が消え、俺の方を向いてたはずの目も虚空を見つめていた。あれ、さっきのは俺の思い違いだったのかもしれない。
しかし何故か引っ掛かる物があり少しの間、【目】を凝視していた。数十秒経つが何も起きなかった。多分俺が考えた予想は間違っていたのだろう。しかしそれで良かった。俺はまだ少し気が高ぶっているのだろうと判断し深呼吸をした。それからしばらくすると一人の男性が部署を訪れ、帰宅命令を出した。これは色々混乱している今作業に取り掛かっても充分な成果は得られないと考えた上からの命令らしい。俺も流石に疲れたのでありがたかった。それから荷物を片付け駅に行き電車に乗った。まだ1時ちょい過ぎだが帰る人は多いらしく電車は満員だった。俺は何とか席を確保しさっきから真っ暗になっているスマホを手に取った。画面をタップしてもやはり何も反応しなかった。その様子を見ていたのか「そういえば」と思い出した顔でスマホを取り出し隣の人も確認を始めた。結果としては電源は付かなかった。それから電車に揺られながらボーっとしているとどこからか歓喜が沸いた。どうやらスマホの電源が付いたらしい。電源を入れる方法は簡単で電源ボタンを長押しするだけらしい、正し真っ暗の画面だったさっきも一応電源はついていたらしく一回長押ししただけだと電源を切っただけになるという。俺もそれを聞き電源ボタンを二回長く押した。すると電源ボタンが付いた。そこからニュースを見ると既にスマホを付けた人は居るらしく今回の亀裂の異常さなどを書いていた。
それから俺はいつも降りる駅に到着するまでずっとニュースをサーフィンしていた。得られた情報はとても少なかった。というのもほとんどの記事が同じ事しか書いておらずその内容も大雑把なというか見た事をそのまま記事にしている感じだった。そこに妄想としか言えない考察が足されて完成させた記事を貼っていた。まああの出来事からまだ時間がたっておらずまともな意見や考察が書けないのも分かるがそこで張り合ってほとんど同じ記事を出されてもと思ってしまう。
あまりの記事の薄さにため息を付いた時、俺のポケットから音が鳴った。誰かから電話が来たっぽい。
俺はすぐにポケットからスマホを取り出し画面を見る。彼女だ、彼女から電話がかかってきた。俺は彼女が無事だった事に安心しつつ電話に出た。
俺が通話に出て「もしもし」と言うと次に帰って来た言葉はどこか安心したような声で「良かった」だった。そして次に聞こえてきたのは彼女の震えた声だった。彼女は「怖かった」と電話の向こうで泣いている。俺は会社から帰宅命令が出されもうすぐ家に着く事を伝えた。彼女に「大丈夫」と伝え「待ってて、すぐ帰る」と言い通話を切った。それから俺は大急ぎで家へ向かった。手を前後に大きく振りながら全速力で家へ向かった。
そこから五分で俺たちが住む家が見えて来た。もう後は直線だ。俺は安堵した。家がもうすぐそこで気が抜けた俺は歩みを遅くしていき最後は走り疲れたのか歩いていた。
――それがいけなかった。
彼女から電話がかかって来た。電話に出ると彼女はいまTVで政府がこの非常事態についての対策と説明を行っているんだとかで今は亀裂から姿を現せた謎の【目】について説明しているらしい、俺も彼女の話を聞きながらその話に出て来た【目】をふと見た。そして目をこれでもかと見開き絶句した。
さっきまで虚空を見つめていた【目】の眼孔は真ん中から左下に移動していた。それだけでは無く【目】はあきらかに何かを見つめていた。いったいあの眼孔が見つめる先に何があるのだろう。TVでも速報でこの事が報道されたと彼女が電話の向こうから教えてくれた。【目】の眼孔が見つめる先はオーストラリアの北部準州にある都市『アリススプリングス』であると政府は発表した。
――俺がさきほど考えた予想。それは『八体のはじめの魔物』と『不定期に出現する魔物』は全くの別物であるという考えだ。『八体の初めの魔物』と『不定期に出現する魔物』をわざわざ違う要素として告げた【無】、俺は意味は必ずあると思った。俺は『八体のはじめの魔物』と『不定期に出現する魔物』の違いが良く分からなかった、しかし区別する所を見るに大なり小なり違いはあるのだろう。そして『はじめ』と言うからには『八体のはじめの魔物』が最初に現れるのは必然であった。ここまでが俺の予想、そこに追加で一つの疑問「最初に出現するであろう『八体のはじめの魔物』は同時に出現するのか、一体ずつ出現するのか。」があるがこの疑問はいくら考えても答えなんて出ないし同時に八体だろうが一体ずつだろうが大きな差は無さそうなので保留状態にしている、今は脳の引き出しの奥の隅っこに置いてある疑問だ。
ならどうしてその奥の隅っこに置いてある疑問を出したのかだが、彼女が通話で日本の上空にあった亀裂以外からも【目】が出現した事を教えてくれた。そしてその【目】はどれも動いておらず『アリススプリングス』を見てるのは日本上空の【目】だけらしい。つまりさっきの疑問は一体ずつ出現するというのが正解っぽい。まあこの一つから八体一気に出現するかもしれないがまあこの場合は一体ずつがセオリーだろう。俺は彼女に「もうすぐ家に着く」と伝え「大好きだよ」と言って通話を切った。彼女は少し安心したようでさっきよりほんの少し明るい声で「待ってる」と言っていた。その言葉を聞いてほんと気持ち程度だが足が軽くなった気がした。
しかし次の瞬間、俺の足取りは止まった。
『アリススプリングス』を見ていた【目】から光線のような鋭い光の槍がもの凄い勢いで『アリススプリングス』に放たれた。
その直後、立ってられない様な地震が俺を襲った。俺は咄嗟の事で反応が遅れしりもちをついてしまった。
その地震は数秒程度のものだった。周りを見渡しても倒れそうな物は無かった、俺は内心彼女の事を心配しながらも立ち上がる、いや心配だから立ち上がった。
――子供がお腹に居る事が病院で分かった日から俺と彼女の寝室を一階に移した。一階にはリビングやキッチンがあり階段の昇り降りを減らす事によって彼女の体の負担を減らそうと考え俺が提案した。俺は彼女が助けを求めた時に早く行く為に一階に移した。それと近い方が気付きやすいってのも一つの理由だったりする。
家事をする時以外は基本的に横になってるかソファに座ってTVを見てるかしてる彼女だがさっきの電話の内容的に今はリビングでTVを見てるのだろう、ソファの周りには倒れる物なんて置いて無いし彼女に危険は無いだろう。でも万が一今の地震でソファから転げ落ちお腹を強く打った場合お腹の中に居る赤ちゃんは無事じゃ無いだろうし彼女も内臓を痛めてる可能性もある。とにかく心配だった俺は急いで立ち上がり家へ向かって走った。家に着いた俺はおもいきり玄関を開け扉を閉めるのも忘れて彼女の所に向かった。リビングへ向かう途中の場所にあるキッチンのドアの横を通り過ぎた時、なにか臭った。これは……血の臭い!!
俺はこの血の臭いが彼女でない事を祈りながらドアを開けた。ドアを開け最初に目に映ったのは『既にこと切れてるかのように横たわっている彼女』だった。おれはその場に崩れ落ちた。そして四つん這いになりながらも彼女の方へ向かう。俺が近づき彼女の体が全部見える位置まで来た。彼女は食器棚の下敷きになっておりお腹から下の足まで食器棚で覆われていた。俺は言葉が出てこなかった。横たわる彼女を優しく手で包みこむ。彼女は息をしておらず苦痛の顔で死んでいた。彼女の近くには俺の為であろう肉じゃがが地面に落ちていた。彼女が俺の為に肉じゃがを作っている姿が目に浮かぶ。
――もう一度、彼女の声を聴きたかった。
――もう一度、彼女にしかって欲しかった。
――もう一度、彼女を愛でたかった。
俺は目から涙をこぼし大声で泣いた。
「ぁぁ……ぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
あの日、あの悲劇から何があったかは良く覚えて無い。ただ彼女がこの世から居なくなった事実だけが頭の中に残った。まだ彼女の死を受け入れられない。俺は彼女の写真を見ながら静かに涙を流した。
――【目】から突如放たれた光の槍は政府の予想通り『アリススプリングス』を襲った。
『アリススプリングス』を襲った光の槍は穏やかな街一つとともに消滅していた。
そして消滅した光の槍からは世界一大きな山『エベレスト』より背の高い化け物が出現した。
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