プロローグ1~名無しの「俺」の物語~
新しく連載始めました。あと二話は「俺」の物語です。
その後、本編へ突入します
2050年7月
――とある男子高校生
「行ってきます」
俺は靴を履いて勢いよく玄関から飛び出した。
「やべー寝坊した。早く行かないと遅刻しちゃう」
高校生になり早3か月。学校にも慣れ友達も出来た俺だが、昨日の夜にあったホラー特集を調子に乗って最後まで見てしまったのが運の尽き。案の定 寝坊しあと数分でいつもの時間の電車が出発するギリギリの時間まで寝てしまった。
俺はいつも学校に遅刻しない中での最後の電車に乗るようにしている。別にギリギリまで寝てるとかでは無い。その時間になると近くの女子高校に通う一人の美女(名前は知らない)が必ず乗っている。一目惚れだった。俺は声をかけるでも無くただただ彼女の顔が見れれば良かった。
だから今もの凄い勢いで走っている。改札口に着いた。酢イカを取り出し特定の場所に押し付ける。時計を確認すると残り1分30秒。ここから本気で行けば間に合う。しかし運悪く思い切りこけてしまった。俺は間に合わない事を確認しショックを受けながらトボトボと駅のホームへ向かった。
あれ、おかしい様子が変だ。
俺は疑問を感じた。既に発車時刻の時間は過ぎている。時計を見たので確かだ。なのに電車が発車する気配が無かった。俺は疑問に感じながらもいつもの〇番線への階段を上って行く。上に着くと何故か大勢の乗客が電車に乗らずに上を眺めていた。俺はトボトボと下を向いて歩いていたのでこの事に気付くのが遅れてしまった。
(なんだ? 珍しい雲でもあるのか)
俺も上を見たが日除け兼雨除けの屋根に阻まれ上に何があるのか分からなかった。何があるのか気になったが見えない物はしょうがないと思いどこか端っこに移動しようと考え、空いてるところが無いかと周りを見渡した。すると端の方に一人の女性が居た。いつも俺が見ているあの人が驚いた様な顔しながら立っていた。俺は何に驚いてるのか聞けばワンチャン仲良くなれるかもという下心100%の気持ちで話しかけようと近づいた。彼女の方へ近づこうとした時、少し屋根が途切れてる場所があった。
あの時は興味本位だった。彼女に話しかける口実が出来た事で浮かれていたのかも知れない。浮かれていた俺は1%の興味が無意識に顔を上に上げていた。それを見た俺はしばらくの間、空いた口が閉じなかった。
みんなが顔を上げ見ていたのは珍しい雲でもこの時期に多い積乱雲でも大きな虹でも無かった。
青く晴れた空には今まで見た事も無いような亀裂が生じていた。
----------------------
2059年7月
あの亀裂が発生してからもう少しで九年が経つ。あの後あの亀裂に大きな変化は無かった。少し変化があったが、亀裂が毎年 数キロメートルずつ割れてる位だ。割れるタイミングはランダムで割れる時は一気に割れるらしい。毎年だいたい3~5キロメートル割れており一年で割れるタイミングが12月に近づけば3キロメートル、一月に近ければ5キロメートルというのが検証した結果としてニュースになっていた。
それ以外で特に大きな話題となった亀裂関係のニュースだと「亀裂には端が存在した」や「亀裂を大気圏を外側から衛星で観測した結果、発見ならず」そして特に騒がれたビックニュースが「亀裂は世界に四つ存在し亀裂同士を線で結ぶと垂直に交わった」だった。あの時は「亀裂は少しずつ端が伸びてる。ならいつか亀裂が他の亀裂に重なる時が来るのでは」と誰かが言い、亀裂同士が接触した瞬間何かが起こると噂されていた。亀裂同士が重なる現象が起こったと仮定して重なるまでの時間を計算した科学者が居たが俺は名前も検証結果も覚えて無い。
あ、そうそう。九年前のあの日のその後を聞いて欲しい。
あの後、口を開けて放心状態になっていた俺に彼女の方から話しかけて来た。彼女は朝、電車に乗る時はいつも一人らしい、今日も例に漏れず一人で駅に向かったそうなんだが駅に着くとみんなが空を見上げ騒いでいた。不思議に思った彼女は周りにつられて空を見上げた、空にあった亀裂に衝撃を感じて少し不安になってた時にいつも同じ時間に乗ってる俺を見つけて声をかけて来たんだって。その後、泣きそうになる彼女を俺が優しく支えてあげてなんやかんやあって付き合う事になって相性も良く、高校卒業後に就職。給料が安定してきた三年後、21歳で告白、結婚。それで只今結婚三年目で仲良しの夫婦。子供はそろそろ欲しいがまだ居ない。ってその話は今は良いか。
――12月中旬
今年も、もうすぐ終わりそうだがまだ亀裂が割れたというニュースは聞かない。今までだと最低でも11月下旬には亀裂が割れており亀裂関係の専門家は「今年は何かが起こるかも」と話しているのを横目に俺は会社行く用意をしていた。最近自分を鏡で見た時スーツ姿が様になってると思うようになった。やっぱり長く着てると着方ってのが自然と分かってくるのかも知れない。
彼女との夫婦仲は良好だ。彼女は主婦として俺たちの家庭を支えてくれている。それと三か月前に妊娠が確認され二人で手を取り合って喜んだ。最近はお腹が少し膨れてきてて家事も俺が出来る事は手伝うようにしている。彼女は俺の負担になってると不安になっていたが俺は彼女にはなるべく安静にして欲しかったので彼女に心配させないように、でも出来る事はやる位の気持ちで手伝っていた。
しかしある日、世界に激震が走った。いやあの出来事は悪夢だった。一時の出来事が俺たちの関係を切り裂いた。
その日は何もない普通の朝だった。朝起きて彼女に挨拶をし彼女が作った朝ごはんを食べ彼女に玄関で見送られた後に会社へ向かった。
その日も特にミスする事も無くしっかりと昼休みに入れた。この時間は会社にある食堂でご飯を食べたり近くの店で昼食を取る時間だ。俺は食堂で彼女のお弁当を食べるのが日課になっていた。12月もそろそろ下旬に差し掛かり今年入社してきた新人たちもミスが減り余裕で昼食を食べれる時間を自力で確保するようになってきた。そうなると必然的に食堂に来る人が増える訳で、席と席の間には人、食堂は混雑した。
ぎゅうぎゅうになりながらも彼女の作ってくれたお弁当を有難く食べた。
その後、なんとか食堂から脱出した俺は自分の部署へ戻り定位置の席に着く。あと数分で作業再開の時間だ。窓際にある俺の席からはあの亀裂が見える。毎日毎日「何も起きないでくれよ」と願いながら仕事をしてる訳だが彼女が妊娠してからは更に強く願っている。
今日もいつものようにお祈りでもしようと亀裂を見た。その時、亀裂が僅かだが動いた気がした。いやあれは確実に動いていた。俺はとても不吉な予感がした。
「亀裂が……動いた……」
俺が消え入りそうな声で呟いたのを隣の席の30代前半の男性が聞いたのか「バカな」と嘲笑った顔で俺を見たあと亀裂に目を向けその直後目をこれでもかと見開いた。その顔には俺を嘲笑う余裕など無く真っ青に染まていた。真っ青な顔の男性に違和感を感じた隣の20代後半の男性が「先輩? どうしたんすか」と問いかけた。
「亀裂が……」
「亀裂がどうしたんすか? 最後の方聞き取れなかったすよ」
小さな声で返答する30代男性に20代の男性が再度聞き直す。それに苛立った30代男性が大きな声で叫んだ。
「だから今まで何も無かったあの亀裂が! あの亀裂が今、動いたんだよ!!」
流石に大声で怒鳴られたもんだから20代男性はビクビクしながら
「いやいや……それは無いっすよ。ほら今だって全然動いて無いじゃないっす……か?」
次に彼から出て来たのは「ほぇ?」だった。
それからこの部署のみならず他の部署、会社を飛び出し町中で大騒ぎ。一瞬で世界へ発信された。数分後に全番組局共通で今回の件についての生放送が中継された。TVだけでなくPCやスマホにも緊急通知が送られ即時にTVか電子端末でのTV中継の確認が義務づけられた。これは特殊な事で国民全員に対しての義務付けは不安や反感を買いやすいので緊急時以外での発令は禁止されているが今回の件は緊急であると判断した政府は即時発信を命じた。
「速報です。数分前から亀裂が動いたとの情報が多数寄せられその事に対し政府は緊急会議を開く事を表明しました。このままチャンネルは変えずにお願いします。5分後、緊急会議の中継を開始します」
スマホでそれを聞いた俺はスマホを横に待ちながら五分間待つ事にした。
しかし、世界というのは短期な物で五分も待ってはくれなかった。
『ザザ……ザザザzazaza……』
まだ3分も経ってないのにいきなりスマホが変な音を出し始めた。
最初は政府の会議の中継を繋いでるのかと思ったがTVも同じように変な音を出してブラックアウト状態だった。TVと俺のスマホは同じ番組を映していたのでTVの番組を変えればと会社のTVの番組を変えてみたが変わらなかった。俺の隣の30代の男性のスマホも同じ状態になっており俺は違和感を感じた。それにしてもうるさい、数人は耳を塞いでる。このザザザ音が全部のスマホ、PCから流れているので密室のここは反響しまっくている。まあここだけじゃ無いと思うが……
【ミナさン、こんニチハ。】
いきなり頭の中に機械仕掛けのような耳障りな声が流れ込んできた。聞こえるのではなく流れ込んできたのだ。
【わタしは、無デス。たった今きれツはッせイからちキュウジんのシボう数が5おクをコえまシた。いマからコノちキュウはしンかふぇイズにとツにゅーシます】
こいつ……いや【無】は何を言ってるんだ? 「しンかふぇイズ」? ……! 進化フェイズ。嘘だろう……地球は変わってしまうのか。
【ちキュウのしンカさきハ「ふぁんタジ~」でス】
ファンタジーだぁ? 、その手の物に詳しくない俺はいまいちピンと来ない。
【コれハ、ケっていジコうデス。シんカフェいず二ともナいチきゅウにあたらシイようソヲどウニューしまス】
ぎこちない喋り方のせいで理解しにくい。
【しんヨウそは、オモにみッツでス】
【いチに、「8体」のハジめノまもノのドウにゅーでス】
【に二、「不定期での魔物の出現」デす】
【サん二、「全人類にステータスの付与」デス】
【いジョウで、こンカいのシんヨウそせつメイヲおわリまス】
それからいつまで待ってもあの声は聞こえてこなかった。
「ふぅ」と俺が息を吐きだすと周りのみんなも緊張がとけたように「ふぅ」や「はぁ」など息を吐き出しリラックスしようとした。ただ地球は、いや【無】は俺たちに安息をくれないようだ。
息を吐き出す音の量がおかしいと思っていた俺だが周りを見て気付いた。みんなが九年前のあの日のように空を見ていた。その顔は九年前に見た驚きや興奮の顔では無く「恐怖」の顔だった。俺は一瞬見るのを躊躇ったがすぐにその躊躇いを消し空を見上げた。それを見た瞬間、俺は「恐怖」した。あれは科学で証明出来るとか出来ないとかの話じゃ無かった。そう例えるなら『化け物』……だった。
空にあったのは亀裂では無かった。あれは【目】だ。あの亀裂と称されてきた空にかかるあの物体の正体は【目】を隠す瞼、化け物の目を隠す瞼だった。
――世界を恐怖に叩き落とした例の目は四つの亀裂全てから確認された。この目はのちのち人間たちから無災(暴れないで)の気持ちや畏怖(脅かさないで)の気持ちを込め『女神の目』と称されるようになるのであった。
面白いと思った方。次が楽しみと思った方。
是非高評価やコメント、ブクマ登録お待ちしてます。
★★★★★
誤字脱字があったら是非教えて下さい。