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Funeral Makeup
まだ少し肌寒い夜のことだった。
窓からのぞく桜はとうに盛りを過ぎて
はらはらとその花片を散らしている。
わたしはあなたの傍らで、ひとり
これまでの日々をなつかしんでいた。
眠り続けるあなたは美しいままだ。
けれど、もう二度と ―――
その目が誰かを映すことはなく、
その口が何かを語ることもない。
わたしは左の薬指に紅を取ると
あなたの唇に薄く引いた。
窓の外に目を向ける。
暗闇には桜が散り続けていた。
風も吹いていないというのに。
はらはらと ―――
あなたには情けない姿ばかりを見せてきた。
だからこれは、わたしがあなたに見せる
最後のわがままで、精いっぱいの強がり。
「次はどうか、あなたが本当に慕う方と一緒になってください」
はかなく散りゆく薄紅に
わたしはもう二度と廻り来ぬ季節を想った。
日本語題:春を見送る