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subtle  作者: 水野葵
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Funeral Makeup

 まだ少し肌寒い夜のことだった。


 窓からのぞく桜はとうに盛りを過ぎて

 はらはらとその花片(はなびら)を散らしている。


 わたしはあなたの傍らで、ひとり

 これまでの日々をなつかしんでいた。


 眠り続けるあなたは美しいままだ。


 けれど、もう二度と ―――


 その目が誰かを映すことはなく、

 その口が何かを語ることもない。


 わたしは左の薬指に紅を取ると

 あなたの唇に薄く引いた。


 窓の外に目を向ける。


 暗闇には桜が散り続けていた。

 風も吹いていないというのに。


 はらはらと ―――


 あなたには情けない姿ばかりを見せてきた。


 だからこれは、わたしがあなたに見せる

 最後のわがままで、精いっぱいの強がり。


「次はどうか、あなたが本当に慕う方と一緒になってください」


 はかなく散りゆく薄紅に

 わたしはもう二度と(めぐ)り来ぬ季節を(おも)った。

日本語題:春を見送る

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― 新着の感想 ―
[良い点] 桜の美しさに対比されて、もう二度と愛する人の目に映ることができない事実が、悲壮感を増して映し出されますね。まるで映像のような情景があまりに綺麗で、溜息がこぼれました。 素敵な作品をありがと…
[一言] おぅっふ いつもながら情景の浮かぶ もう二度と
[一言] 泣けた 最後の言葉はちょっと感情移入した バツイチみたいなものなので……
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