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Black Cherry
つややかな果実を口に運ぶ。
紅々と熟れたそれは宝石のようで
それでいてべったりと舌に絡む。
「……おいしい?」
しつこい甘味にうんざりしていると
男がひとり、どこからともなく現れた。
珍しいね、と軽口を叩きながら。
「キミが果物を食べるなんて」
私は思わず息を吐いた。
投げやりにそれらを突く。
「知人がくれたんだが ―――」
さわやかな笑顔が浮かぶ。
私はまたひとつ息を吐くと
可悩しいそれを指先で摘んだ。
「……好きになれそうにない」
口の中へ放る。
白々らしい甘味に眉を寄せると
男はにんまりとほくそ笑んだ。
もらってあげようか、と囁く。
「ボクがもらってあげるよ」
何を考えているのだろう。
うっとうしい顔を睨むと
男はますますにやりとした。
「だって、まだ試したコトないでしょ?」
あぁ……
私は三度息を吐いた。
その低い鼻を指で弾く。
「痛 ―――ッ!?」
思惑に気付いてやれるほど
私は純粋でも善良でもないよ。
「……愚者」
日本語題:思惑とさくらんぼ




