Queen or Joker
「ゲームをしませんか」
耳障りな声が響く。
男がひとり、どこからともなく現れた。
退屈でしょう、と笑いながら。
「なに、ルールは簡単です」
芝居掛かった口調で続ける。
私の返事を待とうともしない。
「ここから一枚、カードを選んでください」
男は小箱を取り出すと私に見せた。
白い縁取り。繊細な模様。真新しいトランプの箱だ。
「赤ならアナタの勝ち、黒ならボクの勝ち」
簡単でしょう、と男が笑う。
私はうんざりとため息を吐いた。
「……で、何を賭ける?」
そっけなく訊く。
リスクのないゲームなどつまらないと
うそぶいてみせる。
「首を」
こともなげに男が答える。
箱から全てのカードを取り出すと
慣れた手付きで切っていく。
「アナタが勝ったら、ボクのこの首を差し上げます。その代わり ―――」
ゆっくりと視線が動き、私を捉える。
曖昧な笑みを浮かべたまま
男はカードを差し出した。
「ボクが勝ったら紅いバラを一輪、ボクにください」
視線が絡む。
作り物めいた表情のなかで
その瞳だけが熱を持っている。
「今夜」
私は頷き、カードを一枚選ぶ。
「では……」
赤か、黒か ―――――
日本語題:首に紅バラ