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Blue Moon
ガラス瓶に透ける濃紫。
匂いすみれの甘い香り。
「珍しいな……」
美しい蒸留酒に眉をひそめると
男はにんまりとほくそ笑んだ。
「クレーム・ド・ヴィオレットだよ」
知ったような口を利く。
冷ややかな視線を送ると
男はますますにやりとした。
「何か作ろうか?」
細い指がシェーカーに踊る。
勉強したんだ、としたり顔で。
「アズールがいい? それともジュテーム?」
使い古された誘い文句。
情欲心を隠そうともしないのは
よほど自信があるのか、それとも ―――
「では、ブルームーンを」
「ブルームーン?」
「そう、ブルームーンを」
細く切れた瞳に濃紫が映る。
わかった、と呟くと
男は部屋を出ていった。
「材料を取ってくるね」
残された私はため息を吐いた。
知ったかぶりめ、と冷笑う。
「なにがクレーム・ド・ヴィオレットだ」
いつもそうだ、この男は。
肝心なところで詰めが甘い。
「これはパルフェ・タムールだ」
ブルームーンは作れない。
私の真意に気付かない。
ガラス瓶に愛妙薬が揺れる。
「莫迦な奴……」
日本語題:真実の愛




