You Win
うだるように暑い昼下がりだった。
何もしていないというのに汗が噴き出し
髪が、シャツが、べったりと肌に張り付く。
ゆらめく陽炎に私は大きく息を吐いた。
あぁ、実に不快だ。なんてうっとうしい……
私はスカートの裾を掴むと思い切り扇いだ。
ばさばさと音が鳴り、こもっていた熱が逃げる。
清々しいまでの解放感にほうっと息が洩れた。
行儀が悪いが仕方がない。なに、誰も見ていないことだ。少しくらい ―――
「女のコが何をしてるのさ」
耳障りな声が響く。
男がひとり、どこからともなく現れた。
軽薄な笑みに批難の色を雑えながら。
「おろしなさいよ、スカートを」
呆れた口調が癇に障る。
私はいらいらと舌を打った。
「……見るなよ」
そうきつく睨み付けると
男は大仰に鼻で笑ってみせた。
「そんな棒ッきれみたいな脚に興味はないね」
……言ったな?
私はゆっくりとスカートの裾を持ち上げた。
「ちょっと ―――ッ!?」
素っ頓狂な悲鳴があがる。
隠れていた太ももがあらわになると
男は慌てた様子で私の手首を押さえた。
「何をするんだ、いったい……」
ぐだぐだと小言が続く。
私は小首を傾げてみせた。
「興味がないんだろう?」
にいっと口の端を吊り上げると
男はわかりやすく言葉に詰まった。
高揚感にますます目を細くする。
あぁ、実に愉快だ。なんて気分のいい ―――
「興味がないのならいいよな、べつに?」
厭味たらしく問い掛ける。
男はしばらくうめいていたが、
やがて盛大に息を吐くと言った。
「……わかった。ボクの負けでいいよ、今回は」
細く切れた目で私を見る。
「だから ―――」
私は途端につまらなくなった。
優越感にぶすりと穴が空く。
まさか、こうも容易く引き下がろうとは……
「……謝れよ」
ため息交じりにそう呟くと
男は唖然とした表情を浮かべた。
してやったり、とほくそ笑む。
そうやって這い蹲っていたらいいんだ、お前なんて。
「ごめんなさい ――― は?」
日本語題:負けるが勝ち




