Empty Time
月光を思わせる白い花弁。
むせ返るような甘い香り。
「驚いたな。まさか本当に……」
あでやかな花にため息を洩らすと
男はにんまりとほくそ笑んだ。
当然でしょ、と軽口を叩きながら。
「ボクにできないコトなんてないさ」
またか……
あるだけの侮蔑を込めて睨む。
男はますますにやりとした。
「キミの関心を得るコト以外は」
いつもこれだ。
私はいらいらと舌を打った。
うつけた口調が癇に障る。
「ご機嫌を損ねたのかな?」
それは失礼、と大仰に頭を下げると
男はおどけた仕草で片手を差し出した。
悪怯れることなどないというように。
だが ―――
「ご慈悲を、女王サマ」
甘ったるい奴だ、と思う。
どうせ道化を演じるのなら
憂いに沈むその瞳まで
隠してみせればよいものを。
そう、どうせ求めるのであれば ―――
「この花に免じて」
ひと夜で散りゆく月来香。
この白い花に、このひとときに、
どれほどの価値があるというのか。
あぁ、それでも……
「どうかボクに ―――」
永遠を望んだりしないよ、お前に。
私はまたひとつ息を吐くと
震える男の手を取った。
日本語題:夜の女王より