Beholder
花が咲いていた。キミの白い肌に。
「これは……」
あちらにも
こちらにも
見せつけるように
ただ紅く咲いていた。
「……痛むかい?」
指先で触れる。
あまりにも濃く香る花に
ボクはため息を吐いた。
隠し切れないあだの痕。
「別に……」
何も感じないとうそぶくキミに
ボクはゆっくりと目を細めた。
「そう……」
指先でなぞる。
消えてしまえばいいのに、
忘れてしまえばいいのに。
すすり啼く声が胸を締め付ける。
「そうだね……」
憎むべき相手に肢体を差し出したことも、
こうやってボクに縋り付いていることも。
アイツのことさえも。
全て ―――
「だけど……」
花が浮かぶ。よりあでやかに。
ボクはキミを止めない。止められない。
復讐に燃え、破滅に突き進むキミを
見ていることしか、ボクにはできない。
でも、せめて ―――
「……どうした?」
うろんな目を向けるキミに
ボクはまた笑ってみせた。
哀情を気取られないように。
「何でもないよ。ただ……」
花を見る。ただ紅い花を。
見ていよう、と思う。
花が朽ちるまで。
キミの傍で、ずっと。
だから、どうか ―――
「早く消えるといいね、これ」
祈るようにボクは口付けた。
日本語題:あだ花