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Smile at me
はじめはただ、あなたに笑ってほしい、それだけだった。
「何をしている……?」
月明かりに映える朱。
むせ返る鉄の匂い。
ゆっくりと滴る水の音。
「ここで何を ―――」
声が聞こえる。あなたの声が。
いとしいあなたの声だけが
寂寞を越えて、わたしに響く。
「お前……ッ」
駆け寄るあなたに、わたしはほほ笑む。
大丈夫。何も心配することはない。
あなたを辱めるものはいなくなった。
そう、ひとり残らず。
「何故 ―――」
震える吐息。揺らぐ瞳。
美しい顔が悲痛に沈む。
あぁ、どうして ―――
「このようなことを……」
あなたは笑ってくれないのだろう。
「お前が……!」
あなたが笑ってくれるのであれば
わたしのこの手も、この身体も、
全てがどうなろうとかまわないのに。
そう、あなたのためならば……
「―――っ!」
そっと頬に触れる。
白い肌が、あなたが、朱に染まり
わたしはまた小さくほほ笑んだ。
あなたのためなら、わたしは何でもする。
何だってできる。
だから、どうか ―――
「笑ってください」
わたしのためだけに。
日本語題:朱に染まる