エピローグ
鐘の音が響く。
祝福を知らせる鐘の音が。
結婚を祝う者達が新郎新婦に押し寄せる中、新婦のウェディングドレスに散らばる装飾が陽の光で輝いている。騎士の正装で新婦をエスコートする新郎の姿が人影から時折見えてくる。
祝いの場に訪れている騎士団員や王宮の侍女、新郎新婦の故郷から来た友人達が一斉に花弁を空へと投げる。
花弁によるシャワーが二人をキラキラと輝かせた。
王城の一角に建つ教会で式を挙げると決めてから半年ほど経った今日。アルベルト・マクレーン子爵とマリー・エディグマ男爵令嬢の挙式が行われた。
本来であれば王城の教会を使用した挙式など軽々しく行える場所では無かったが、リゼル国王並びに宰相であるレイナルド・ローズ公爵の助力もあって挙げることが出来た。
新婦であるマリーにとって、王城はかつて処刑された場所だった。
高らかに鳴る鐘の音は、前世のローズマリーを死に誘う音色だった。
だからこそやり直したい。
悲しみの思い出を幸せの思い出に塗り替えたい。
その希望を聞いて、縁ある者達はこの教会での挙式のために力を貸した。
そして今日、無事に式を行うことが出来た。
マリーは嬉しそうにアルベルトの腕を掴む。新婦を見つめるアルベルトの笑顔に、騎士団の団員一同はホロリと涙が溢れた。
マリーの家族は式に感動しながらも、しっかり王都屈指の料理人が用意した式の食事に瞳を輝かせている。それでも、時折息子と共に遠くから新婦を見つめる父親の瞳は優しい。
彼が手に持つ懐中時計の蓋を開けば、小さく描かれた亡き妻の絵姿。彼は、彼等が愛した娘の結婚を嬉しそうに報告した。
式の実施を許可した国王は、執務が忙しいため式の列席は断っていた。建前はそうだが実際は、国王が子爵の結婚式に列席すれば嫌な噂が立つかもしれないと危惧して、ということもあった。
本音はどうなのだろう。未だ思い出すだけで胸に甘い疼きを生み出す女性の幸せな姿を、見たい思いと見たくない思いがせめぎ合っているのかもしれない。
それでも彼等に祝福を。長きに亘り苦しめた王家から謝罪と共に、心からの祝福を願おう。
空を眺めながら国王は願う。どうかもう、この鐘の音が幸福だけを招くように、と。
鐘がもう一度鳴り響いた。
その時、新郎新婦の前に一人の男性が現れる。
その姿を見た瞬間、マリーは前世で処刑される前に見た少年の姿を思い出していた。
泣き叫びながら姉の名を呼んだ少年の姿を。
「レイナルド様」
彼の服はもう、黒色に染まった喪服ではない。
祝いの席に似合う、華やかな装飾を付けた服がとても似合っていた。
あの、小さかった少年はもう泣いていない。
今目の前にいる彼は、この場にいる誰よりも幸せそうな笑顔でマリーの名を呼ぶ。
ずっと彼に伝えたかった言葉がある。
だから今。この瞬間に伝えよう。
「私はいつも、貴方の傍にいるわ」
その言葉を聞いたレイナルドは。
漸く復讐という檻から解き放たれ。
「愛していますよ、マリー」
その想いは姉を慕う弟のように。
彼は心からの祝福を告げた。
風が舞う。花弁が空へ高らかに飛ぶ。
鐘が響く。
突然、マリーの足元が宙に浮くが、それは嬉しさを抑えきれない新郎が新婦を抱き上げたからだった。
驚いた新婦は、慌てて持っていたブーケを落とさないようにしながらも、愛しい夫にしがみついた。
もう鐘の音は、復讐を生み出すこともなく。
ただ刻の流れを、高らかに告げるだけだった。
ついに完結致しました。
長い間お付き合い頂き、本当にありがとうございます!
初めての投稿作品を無事に終わらせられたこと、多くの方に評価や感想、誤字報告など助力頂きましたこと、更には有難いことに書籍のご相談も頂き、とても思い入れ深い作品になりました。
改めてお礼申し上げます!
本作は今後書籍化に向けて動くのと、あとは時々小話でも書ければなと思います。
あと、同じ設定、キャラでリゼルやレイナルドとくっつく話も書ければなあ…と思っています笑 期待せずお待ち頂ければ幸いです。




