17.転生した令嬢は過去の恐怖に打ち勝つ(下)
鈍い音をたてて開いた隠し扉から現れた男は二人。
彼らが持つ蝋燭の明かりから顔を確認するも見覚えの無い顔だった。服装は商人のような軽装で、手に大きな麻袋や縄を持っている。
(リエラが招き入れたのかしら……ううん、違う)
先ほどの彼女の様子からそうではないと自分の考えを否定した。
何より彼女が隠し扉を知っていたとも思えないし、怯えた様子で私を閉じ込めていた。
ともすればその裏には誰かがいて、この男達に隠し通路のありかを教え、私を連れ出すように命じたのかもしれない。
(そちらの方があり得るけど。どうして私なのか……)
何も価値なんて無いと思うものの、考えられる可能性として出てきたのはローズマリーの存在。慰霊碑移動というタイミングも良すぎる。
もしかしたらレイナルドに関わる何かだろうか。
ひとまず逃げ切らないと考えても無駄だと思い、彼らが備蓄庫の奥まで入る機会を窺った。
出来れば見つからずに隠し通路から逃げ出せればと思うけれど、その前に見つかっては元も子もない。
タイミングを見計らいながら、私はゆっくりと隠し通路の扉となっている壁に近づいた。
「いたか?」
「駄目だ。こっちじゃない。暗くて見えない」
男達が探す目的は私だと改めて理解した。
このまま居てもダメだと分かり、今だ! と心の中で合図をうち、急いで隠し通路に逃げ出した。
道も分からない、何処に通じているかも分からない隠し通路という賭けに賭けるしかない!
「待て!」
私に気付いた男達の声を無視してひたすら廊下を走る。
一本道の薄暗い回廊の先に小さな扉が見えた。鍵が掛かっていないことを確認して扉を開けた。
出てきた場所は小さな物置部屋だった。見覚えの無い場所だったけれども、今は追手をどうにかする方が先だ。
雑多な物の中からどうにか棚を動かして扉の前に置き入り口を塞いだ。やってきた男達が扉を開けれずに激しく扉を叩く。
恐怖に怯える身体を叱咤して出口を探した。薄暗いものの、扉は見つからない。外に通じる場所を探し回るとようやく小さな窓を見つけた。鍵が掛かっていたため近くにあった小物で窓を強く叩く。
バリン、と音を立ててガラスが割れる。躊躇せず壊し、人一人分出入り出来るぐらいまで割り、どうにか外に出る。
途中ガラスの欠片によって皮膚を傷つけるけれど緊張から痛みは無い。
有難い事に窓の先には地面がすぐにあるためすぐに飛び出して辺りを見回した。
「ここは城外……?」
まさかこのような場所に通じる道があったなんて。
城壁が周りにそびえる場所から、どうにか知った場所は無いか走り出す。
人も居ない城壁と林に隠された隠し通路。なるほど、これなら逃亡も出来る。
必死に走るけれども、人の姿がまだ見当たらない。せめて城門にまで行ければ。
けれども祈りもむなしく、閉じ込めていた男達が抜け出してきたらしく追いかけてくる。
どうか、助けて……!
もう苦しくて走れない体力を、どうにか気力を振り絞って走っても男達の脚力には敵わず。
走っていた腕を無理やり掴まれる。
私は大きく悲鳴をあげる。せめてこの声が届けばと助けを呼ぶも口元を塞がれる。
「大人しくしろ!」
抵抗し続ける私の腕を持っていた縄で縛り、暴れる私を無理矢理担ごうと男達に抱えられる。
身体が恐怖で震える。悔しさから目尻に涙が浮かぶ。
それでも、助かるために何とか出来ないか考え。
(くら……え!)
まだ自由だった脚を大きく振りかざし、男の急所に当てた。
ぎゃあと、潰れたような叫び声を上げて男の手が緩んだ瞬間、両手を縛られた状態のまま私は逃げ出した。
蹲る男を放ってもう一人の男が私を追いかけてくる。
(あと少し……あと少しだから……!)
捕まるわけにはいかない。
見覚えのある城門に着くまで持ち堪えて!
けれど願いは虚しく、息を切らした男によって身体を捕まれ私は身体を地に押し付けられた。
「この野郎……っ!」
思わず打たれると思い目を閉じた。
けれどその瞬間、男からひどい悲鳴が聞こえたと同時に男が私の横に倒れた。
倒れた背中には矢が刺さっている。
震えるままに矢が放たれた先を見る。
初めは、あまりに遠すぎて何も見えなかった。
けれど確かにその先は、さっきまで私が逃げ出した元の道から放たれていた。
誰かが気付いてくれたのだろうかと救いを求めて身体を起き上がらせた時。
そこに見えた姿に私は涙が止めどなく溢れた。
弓矢を持って私の元に駆けつけてくれるアルベルトの姿を遠目に見つけ。
私は安堵から思いきり泣き出してしまった。